週間国際経済2021(11) No.261 04/06~04/12

今週のポイント解説(11) 04/06~04/12

コロナと経済成長と人口

1.コロナ禍からの経済回復

上のグラフはIMF(国際通貨基金)が4月6日に改定した世界経済見通しで、2021年の経済成長率見通しを6.0%に引きあげたことを示しています(4月7日付日本経済新聞)。成長率は米中が突出していますね。いち早くコロナ禍を脱した中国は、すでに昨年主要国で唯一プラス成長になり、今年になっても高成長を持続していますし、アメリカも先週見たように2兆ドル規模の家計支援が成長率を押し上げています。

ですから、それはわかります。でも腑に落ちないのは日本の経済成長率ですよね。コロナ感染者数は欧米と比べて桁違いに少ないですし、また強烈なロックダウンをしたわけでもありません。それでも昨年末から今年にかけての落ち込みはユーロ圏と大差がない、それどころかそこからの回復力は、むしろユーロ圏を下回っているのですから。

日本の経済成長率見通しは世界平均の半分ほど(世界6.0%に対して日本は3.3%)、今年中にコロナ前の水準に戻れそうもありません。22年になっても19年から微増(0.7%)にとどまり、ここでユーロ圏と差を開けられる。どうしてなんでしょう。

まず、感染者数が少なくても医療崩壊を防ぐためには経済活動を制限しなくてはなりません。よく日本の医療は平時に対応したもので有事に備えていなかったからと言われています。コロナ対応医療のキャパシティが経済政策を決定しているわけですが、それは早くから指摘されていたことです。でも日本ではドイツや韓国のように緊急対応がなされたとはとても言えません。しかも経済活動制限は、例えば飲食店の時短要請が9時か8時かの違いくらいで、言葉は悪いですがダラダラ続く。アルバイトが1か月まるまるなくなるのも、3分の1のシフトが3ヶ月続くのもバイト代の減少は変わりませんよね。

さて、経済の回復力は「いつから」フルでバイトができるようになるかにかかっています。そう、ワクチン接種のスピードです。日本は欧米に比べてはるかに遅れています。かつて日本はワクチン先進国だったんですよ。いくつかのワクチン禍を経験して慎重になったとはいえ、技術力で大きく遅れているわけでもないようです。

もちろん、感染者数が少ないと治験が進まないという事情もわからないではありません。それにしても国内ワクチン開発に対する財政的支援は、ワクチン開発国(例えばアメリカ)の100分の1ほどでしかない。そう、外国から買うという作戦だったんですね。そしてワクチン争奪戦に敗北した。その敗因はあれこれあるでしょうが、根本的には「見通しの甘さ」に尽きるでしょう。

日本の感染予防対策は欧米のみならずアジア各国と比べても「緩い」(移動制限や検査数など)ものでした。それでも感染者数は驚くほど少なく収まった。専門家たちはこれを「結果オーライ」だったと結論づけたのですが、安部さんたちは「日本モデル」と自画自賛してしまって、菅さんも「ピンポイント」だとかいって飲食店の時短営業で乗り切ろうとしたんですよね。そんな空気の政府にワクチン確保についてどれだけの切迫感があったのでしょうか。政策が後手、後手ならば、経済回復が後手にまわっても不思議はありません。

2.深刻な出生数の急減

よく、ポスト・コロナは決してコロナ以前への回帰ではないと言われます。たとえ経済成長率などマクロ的ないくつかの数値が回復したとしてもコロナ前の社会とは違った課題が出てくるでしょうし、なによりコロナ前から課題であったことがいっそう深刻な状態になることが見えてきています。経済格差と人口問題はその最たるものでしょう。

4月10日付けの日本経済新聞では「出生数、世界で急減」として、1月の日米欧の出生数が10~20%落ち込んだことが紹介されていました。もちろんコロナ禍が原因です。感染が拡大する中で通院し、出産するリスクを避けることはよくわかります。さらに世界で働く18~29歳の17.4%がコロナ禍で失業・休業した(IMF調べ)といいます。こうした出生数の急減は間違いなく長期にわたって経済成長の重荷になるでしょう。

この問題は、コロナ以前から少子高齢化が加速する日本ではさらに深刻な状態になっています。下のグラフは日本の出生数についえ直近数年の数値と将来の推計を示したものです。

日本の出生数(その年に生まれた子どもの数)は2016年に100万人を割り込んでいることがわかります。これは統計を取り始めた1899年から初めてのことです。つまり日本では明治32年以来、出生数が持続的に100万人を超えていたということです。

とくに戦後のベビーブーム(1947~49年)には年間270万人近くの子どもが生まれ(いわゆる「団塊の世代」)、高度経済成長の源泉となりました。1970年代前半にはその団塊の世代の子どもたち(第2次ベビーブーム)が年間200万人以上生まれていました。今学生の皆さんが生まれた平成初期でも120万人以上の出生数が記録されています。

そしてついに100万人を割り込み、さらに急減してついに今年は80万人割が予測されています。そして同時並行して平均寿命は伸び続け、日本は世界で最も大きな高齢者人口比率を抱えているのです。

「コロナ禍からの経済回復」といいますが、それはGDPの増加率で表しています。GDPは国内総生産ですから、ざっくりいうならば生産額です。その生産額は、(労働者数)×(労働時間)×(労働生産性)、つまり何人の労働者が何時間働いて、その働きがどれだけ効率的かという積になりますよね。

近年日本の生産年齢人口(15~65歳)は毎年50万人以上減っています。労働生産性は先進国で最下位レベルです。すると経済回復、すなわちGDPを増やすなら労働時間を増やすしかありません。そうなれば出生数はますます減っていくでしょうし、労働生産性も向上しません。急減していく若い世代が急増していく高齢者の社会保障を支え、かつその若い世代の老後を支える世代がさらに急減するといった悪循環に陥ることが目に見えているわけです。

3.日本経済の回復力

さて、初めの問い「日本は感染者数が少ないのになぜ経済回復力が小さいのか」に戻りましょう。それはコロナ対策もさることながら、じつはコロナ以前から日本経済の実力の弱さが指摘されていました。その「経済の実力」を図るものとして「潜在成長率」という指標があります。それは①労働投入量、②資本投入量(機械など設備投資)、③全要素生産性(技術進歩など)の組み合わせが最適な場合の実質GDPの伸び率です。コロナ禍前の2020年推計(OECD;経済協力開発機構)が手元にあります。中国5.5%、アメリカ1.8%、フランス1.0%、そして日本は0.3%でした。労働投入量の急減が大きな要因です。したがって投資も増えないでしょう。それでは生産性も上がりません。

そう、そもそも日本経済の実力(経済回復力)はコロナ禍以前から乏しく、かつコロナ禍による出生数急減によって長期にわたる低成長が不安視されているということです。それがIMFの経済見通しにも反映されているのです。

4月10日付日本経済新聞では、世界では出産支援策を競い合っていると紹介しています。例えば高齢化比率(65歳以上人口比率)が日本に次いで高いイタリアでは、今年7月から子ども1人あたり月約3万2000円を妊娠7ヶ月から子どもが21歳になるまで手厚く支援することを決めました。そこまでしても国民経済全体にとってプラスになるからです。そのほかにフランス、シンガポール、台湾、韓国などの事例が挙げられていて、ほんとうにうらやましい、日本の出産支援がいかに小さいか思い知らされます。

こうしたことからも、日本ではなおさらコロナ感染の早期収束が求められているのだと思います。徹底した対策による早期収束こそが「経済と感染予防の両立」なのです。これまでの日本の対策のように、引き締めるのが遅くて緩めるのが早い、それを「両立」と言っているのは、もう通じません。

若い世代は感染被害が小さいと言われてきました。果たしてそうでしょうか。コロナ禍とは感染して重症化するかしないかだけではなく、人生にもたらす禍(わざわい)の多寡を表す言葉だと思います。中長期の日本経済に人生が左右される若い世代こそ、もっとも感染被害が大きい、経済指標はそう語っているのです。

日誌資料

  1. 04/06

    ・法人税「最低税率導入を」イエレン米財務長官、G20に呼びかけ 財源安定を狙う
    30年以上続いた「底辺への競争」(法人税引き下げ競争) デジタル課税、租税回避地対策も
    ・インド、コロナ10万人超 新規感染 変異型拡大で最多
  2. 04/07

    ・世界今年6.0%成長へ IMFが上方修正 過熱に警戒感も <1>
    成長率、米中が突出 財政出動・ワクチンで 新興国でインフレ懸念
    緩和の反動に警鐘 新興国に資金難リスク、IMF
    ・北京五輪への参加是非 米「同盟国と議論する」
  3. 04/08

    ・G20財務相会議共同声明 最低法人税率、年央合意めざす  <2> <3>
    「保護主義と闘う」明記 途上国の債務返済猶予、年末まで半年延長
    ・米、15年で275兆円(2.5兆円)税収増 法人増税で見通し インフラ財源に
    ・FOMC議事要旨「資産購入が経済下支え」 物価上昇「一時的」 緩和縮小観測退ける
    ・世界の財政赤字8.6兆ドル IMF見通し 今年、米国だけで4割 19年比2.7倍
    ・米国コロナ感染、再拡大の瀬戸際 3月中旬より2割増 ワクチン接種で油断も
    ・韓国2市長選(ソウル・釜山)、野党が圧勝 文政権、求心力低下進む
  4. 04/09

    ・米、中国スパコン7社制裁 禁輸リストに ハイテク摩擦拡大も
    ・米増税案、国際協調を主導 デジタル課税へ新提案 ドル安誘導姿勢を転換
    ・「まん延防止」12日から 3都府県 京都は来月5日まで
    ・米人口増100年ぶり低水準 今年0.2%増見通し 移民抑制・コロナ影響
  5. 04/10

    ・出生数、世界で急減(1月)コロナ禍、日米欧1~2割減  <4> <5>
    将来不安、成長の重荷に 出生支援競う世界 日本は「小粒」の指摘も
    ・EU離脱、住民対立再び 北アイルランド暴動激化
    ・アリババに罰金3000億円 中国、独禁法違反を認定「取引先に圧力」
    アリババと政府、緊張なお 習指導部、統制を強化 アリババ、揺らぐ「1強体制」
  6. 04/11

    ・ミャンマー軍デモに攻撃、82人死亡 犠牲者は全土で700人規模に
    ・中国配車アプリ滴滴(ディディ)、米上場へ 企業価値7.6~11兆円
    米企業も出資 金融分野での米中関係の試金石に
  7. 04/12

    ・ワクチン高齢者接種開始 全国で3600万人対象
    ・ケリー米特使、週内訪中 米紙報道 上海で気候変動協議
※PDFでもご覧いただけます
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