今週の時事評論(7) 03/04~03/13
米中関係についてのぼくの少しうがった見方(前半)
1.米中は2022年末まで互いに譲歩できない
中国共産党は、今年7月に創設100年を迎え、来年秋に5年に一度の党大会に臨む。そこで選出された総書記は翌年春の全人代で国家主席に就任する。習近平さんは2018年に憲法に規定された「国家主席は連続2期を超えて任期を継続できない」という条文を削除してしまった。そして党大会で「次世代」を最高幹部に起用しなかった。だから習近平さんは党総書記としても国家主席としても3期目に入るだろうことが既定のことのごとく予想されている。
そう、すんなりいくものだろうか。共産党エリートたちのなかには恐怖とともに不満が積み上がっていることだろう。対する習近平さんの警戒心はそうとうに高いに違いない。ぼくはそれが習指導部「強国路線」の本質だと思っている。だとすれば、少なくとも来年秋まではその強国路線を「内外」に対して譲ることができないのだろう。
一方アメリカは、来年11月に中間選挙が行われる。下院の全議席と上院議席の約3分の1が改選となる。民主党は先の大統領選挙と同時に実施された議会選挙で下院議席を大幅に減らし、辛うじて過半数を保っている。上院は50対50だ。しかも共和党はポスト・トランプに移行できず、ウイズ・トランプが根強いままでいる。アメリカ社会の分断を克服するためにも、なにがあってもアメリカ政治の「ねじれ」は避けなくてはならない。そのためにも中国に対する「強い態度」は譲ることができない。
さらに、バイデンさんは国際協調の再構築を約束している。しかし政権が変わったからといって、徹底した自国第一主義からの転換を「はいそうですか」と世界が受け入れると考えるのは厚かましすぎるだろう。「中国と対抗するための」国際協調、それ以外の名目が思いつかないのだと思う。だから、少なくとも来年11月までは中国に対する強硬姿勢を「内外」に対して譲ることができない。
ぼくの少しうがった見方というのは、そうした米中それぞれの事情を、米中お互いに理解しているうえで強硬姿勢を取り合っているのではないか、ということだ。
2.中国は「競争相手」
バイデン政権は3月3日、「国家安保戦略の暫定指針」をまとめ、ここで中国を「国際秩序に挑戦する唯一の競争相手」と位置づけた。同時に「中国との戦略的競争は国益にかなう場合の協力を妨げるものではない」とも示した。同日ブリンケン国務長官は外交演説を実施し、中国との関係について「競争的であるべきだ。可能であれば協力的になるが、必要になれば敵対的になる」と語った。
以前にも同じ問題で指摘したが、”competitor”には通常敵意は含まれない。ましてやアメリカのような競争社会では相互依存相手としてのニュアンスが含まれているようにも感じる。バイデン政権の外交演説(2月4日)でも、中国に関して「人権弾圧、知的財産の窃盗といった攻撃的な行動に対抗する」と、その口調は厳しいのだが、どう対抗するかといえば「強い立場から競争に臨む」といった具合だ。
3月1日にはアメリカ通商代表部が通商政策報告書を議会に提出し、そこでも「民族や宗教の少数派を狙い撃ちにした中国政府の人権侵害」に最優先で取り組むと頼もしいのだが、具体的な何をするかはまるで見えない。ただトランプ政権の「ばらばらの手法」ではなく「包括的な戦略と体系的な手法」が必要だと明記する。これは直接的個別的な制裁ではないと読むことができるだろう。
それが「競争」と思えるものは今のところ半導体や電池、レアアースなど重要部材のサプライチェーン(供給網)の見直す大統領令に署名したことだ(2月24日)。見直しは「同盟国やパートナーと緊密な連携」で取り組むという。明らかに中国依存からの脱却を狙うものだが、そこでも中国を名指しすることは避けている。
3.中国、「互いに内政不干渉を」
バイデン政権の対中政策のキーワードが「競争相手」ならば、これに対する中国政府のキーワードは「内政不干渉」だ。中国の王毅外相は3月7日の記者会見で、バイデン政権が批判する新疆ウイグル自治区の人権問題について「内政不干渉の原則を守るべきだ」と反発した。また李克強首相は全人代閉幕後の記者会見で「互いに核心的利益を尊重し、内政干渉はすべきでない」と強調した。そしてこれが「競争」なのかと思えるのが、バイデン政権のサプライチェーン見直しを受けて、中国もアメリカの制裁の影響を受けずに最先端部材の供給力を強化するという。
ただ中国政府の言う「内政」とは、ウイグル自治区や香港だけではない。台湾も南シナ海も、さらには東シナ海(尖閣)も含まれる。そして李首相は「たとえ一時的に共通認識に至らなくても、意見交換をして疑いを晴らすことはできる」と、つまり時間をかける姿勢を示した。
ぼくは思う。バイデン政権は中国に対して直接的な行動に出ない。その限りにおいて中国は反応しない。互いに「建て前」を突き合わせながら、中国は共産党大会、アメリカは中間選挙、来年の秋以降まで時間を稼ぐつもりではないかと。そう、少しうがった見方をしている。
4.対中国で米欧同盟
バイデンさんは2月19日、ミュンヘン安全保障会議のオンライン特別会合で演説し「民主主義を防衛しなければならない」と強調し、米欧同盟の修復を訴えた。同じ日、アメリカは「パリ協定」に正式に復帰した。それに先だって1月21日にはEUとアメリカ(ケリー大統領特使)は国境炭素税をめぐり意見交換をしている。
バイデン政権が重要部材のサプライチェーン見直しを始めれば、EUも3月9日に域内生産する次世代半導体の世界シェア2割をめざす目標を打ち出した。3月6日にはアメリカとEU間の報復関税停止で合意した。これはボーイングとエアバスに対する補助金がそれぞれ不当として争ってきたものだ。そんなことしている場合じゃない、「中国などの航空機市場への参入という課題に取り組む」(USTR)というわけだ。
EUを離脱したイギリスも、中国政府による香港統制強化をきっかけに「黄金時代」ともいわれた英中蜜月関係は終わり、関係悪化に歯止めがかからない(2月20日日本経済新聞)。中国に依存していた鉱物資源やマスクなどの輸入先分散を急ぎ、アメリカは3月4日に対英報復関税停止で合資した。
ヨーロッパはまだアメリカに対する信頼を取り戻したわけではない。中国とも経済関係をことさらに後退させるつもりもない。しかしバイデン流の、中国に対して勇ましく批判するが直接何かをするわけでもないスタンスは、予測不能なトランプ・ディールよりはるかに居心地がいいことだろう。
5.さて、問題はアジアだ(後半に続く)
ここでいったん校了として続きは後半とするのだが、メディアではアラスカでの米中外交トップ会談が報じられている。「米中いきなり非難応酬」、「大荒れ」、「思惑激突」(3月20日付朝日新聞)。なるほど。
でも今回書いたようにぼくの見方は少しうがっているから、「あぁ、やってる、やってる」と思わず苦笑いが漏れてしまう。米中双方とも自国テレビを呼び戻しながら、どれほど激しく相手を非難しているかの国内向けアピール合戦をやっている、そのようにしか見えない。むしろ「率直な意見交換」にすら見える。
その詳細についても次回(後半)にまわすとして、ぼくが何より心配なのは、こうしたバイデン流の対中政策および国際協調路線のなかで、日本だけが突出して「前のめり過ぎ」に見えてしまうことなのだ。だとすれば、苦笑いしている場合ではない。
日誌資料
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03/04
- ・「中国は唯一の競争相手」 米が安保戦略指針(3日)「米が国際規範主導」<1>
- 米国務長官は初の外交演説 「中国、地政学的な試練」
- ・英、大企業法人税率上げ 23年に25% コロナで財政悪化
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03/05
- ・米軍が対中ミサイル網 アジアに 6年で2.9兆円要望 日比と協力焦点 <2>
- 日本側は歓迎、負担増も
- ・金利上昇「不安材料に」 FRB議長、長期緩和は継続強調
- ・原油原産、来月も維持 OPECプラス NY市場1年2ヶ月ぶり高値
- ・中国、6%以上成長目標 全人代開幕 雇用回復が課題 香港干渉「断固反対」
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03/06
- ・緊急事態宣言、再延長を決定 1都3県、21日まで
- ・米金利高、株安・ドル高招く 動かぬ中銀、じれる市場 対ドル一時108円台に
- 米ハイテク株乱高下 ナスダック「調整局面」入り迫る
- ・米EU、報復関税停止 4ヶ月、航空機紛争巡り
- ・英金融、取引シェア急落 欧州株半減 EU離脱でマネー移動 <3>
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03/07
- ・国有企業重視、中国一段と 全人代報告 米制裁に対抗狙う 経済成長妨げる恐れ
- ハイテクなど民営50社を参加に
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03/08
- ・経常黒字1月2.3%減 海外子会社の配当減 <4>
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03/10
- ・半導体、EUも脱海外依存 域内増産 シェア2割めざす <5>
- 次世代半導体、日本後手に 経済安保上の戦略物資 主要産業にリスク
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03/11
- ・米、200兆円対策成立へ バイデン政権、成果急ぐ <6>
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03/12
- ・日米豪印、レアアース連携 脱中国依存 調達網を再構築
- ・全人代閉幕 李首相「米中、互いに内政不干渉を」 対話も呼びかけ
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03/13
- ・日米豪印、対中国で結束 初の首脳協議(12日)経済・安保両にらみ <7>
- インド取り込み、米が主導 年内に対面で会談
- ワクチン協力、インド製増産、10億回分 南シナ海・東シナ海、中国けん制
- ・米、対中で日本重視 4月前半に初の対面首脳会談へ
- ・英、対EU輸出38%減 1月 完全離脱で減少幅拡大 輸入も16%減