週間国際経済2023(37) No.371 11/22~11/28

今週のポイント解説 11/22~11/28

東南アジアの存在感

対東南アジア投資が急増している

11月26日付日本経済新聞によると、2022年の東南アジアへの投資総額が2225億ドル(約33兆円)と過去最高を更新しました。これは対中国、対中南米投資を超える規模です。米中貿易摩擦が本格化する前の2017年比で、4割も増えているということです。国別で見ると、18年から22年の5年間累計で首位がアメリカ、2位が中国でした。

記事では、米中双方に誘因があり、アメリカは供給網を中国から同盟国・友好国に移転する「フレンド・ショアリング」を進めていて、中国企業は第三国に工場などを移転することで(制裁関税を回避してという意味でしょう)アメリカなどへの輸出を円滑に進める狙いがあると説明しています。

また12月6日付日本経済新聞では、「ベトナムシフト、中国勢も」という記事がありました。アップルが供給網のベトナムシフトを進めていることで「新潮流」が起きているというのです。またアメリカの対中先端半導体規制などを受けて中国は、国内で生産が難しくなる分野をベトナムに移管する、そのベトナムはアメリカと協力関係を強めているという関係です。

「フレンド・ショアリング」

ショアリング(shoring)ですから、友だちと「支える」、友だちで「固める」ということですね。脱中国サプライチェーン再構築の戦略用語としてバイデン政権が使い始めました。あいつ抜きで友だちと支え合って、あいつ抜きの関係を友だちで固める、なにか日本語にすると陰湿な響きを感じます。というのもアメリカは中国が悪いから仲間外れにするのではなく、中国が「競争相手」だからだと言うのですから、フェアプレー精神ではないでしょう。

その良し悪しはともかくとして、ここで問題になるのは「はい、わたしは中国を仲間外れにするアメリカのフレンドです」と、どれだけの国が手を挙げるのかということになります。そういう意味で、東南アジアはどうなのでしょう。アメリカの友だちとして支え合うことはいいのだけれど、どうやら中国抜きで「固まる」つもりはなさそうです。

実際のところ中国企業は、トランプ政権が制裁関税を課してきて以降、とくにベトナムに生産拠点を移してベトナムからアメリカに輸出を急増させてきました。ベトナムの最高指導者チョン書記長は、習近平さんととても近しい関係です。また中国企業は、タイにEV工場建設やインドネシアの鉱山開発など、つまり最初に言ったように東南アジアに対する投資にとても積極的なのです。

どちらにもいい顔をして、いいとこ取りをしている!そうだとして、なにか問題ありますか?アメリカがそれで「君たちは友だちじゃない」と手を引くなら仕方がありませんが、そうはなりません。アメリカという国はとても強かった時代が忘れられないのか、少し独善的なところがあります。啓蒙主義的というか「良し悪し」は自分が決めると思い込んでいます。

たしかに世界は今、分断し対立しています。これを解決するために、全員がどちらかの側について決着をつける、それは妄想ですね。おそらくは、どちらでもないよ、という勢力が増えていくことで解消する、そんな道がむしろリアルだとは思いませんか。

IPEF(インド太平洋経済枠組み)

アメリカのリーダーシップでまとめたTPP(環太平洋経済連携協定)ですが、トランプ政権が一方的に離脱してしまいました。でも中国抜きで何か広域経済連携が欲しいなと思ったバイデンさんが昨年言い出したのが、このIPEFです。中国と仲がよろしくないインドを入れたところがミソです。14ヵ国で友だちグループを作りましたが、その半分の7ヵ国は東南アジアです。

さて、インドは貿易自由化が大嫌いです。ですからインドを入れる以上、自由貿易の話はできません。そこで投資話を中心に交渉しようとするのですが、アメリカは労働と環境について厳しい基準を求めます。アメリカでは賃金と環境コストが低い新興国からの安い製品の輸入に対する警戒心が強いからです。

東南アジアにしてみれば、アメリカへ自由に輸出できるどころか、あれやこれや注文が付けられているのですから、うわべだけの友だちづきあいになりがちです。それどころか、実利より友情を取ったとしても、その友だちアメリカで大統領が替ればまた、なかった話にもなりかねません。トランプさんなら、確実にそうなります。

そこでアメリカは、IPEF友だちをつなぎ止めるために日本とオーストラリアと組んで、新興国の脱炭素支援として45億円を拠出する基金を作ることにしました。日本なんか、それにさらに上積みして支援すると表明しました。ほんとに友だち(アメリカ)想いですね。とにかくまた、東南アジアは得をしました。

APECで独自声明

なんとか少しおカネをあげて友だちをつなぎ止めたアメリカですが、そのIPEFのあとに開催されたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)の議長です。ウクライナやパレスチナの問題で、アメリカ流「良し悪し」でまとめたいところでしょう。ところが共同声明ではウクライナ問題については「大半の国が侵略を非難」、パレスチナ問題については「それぞれの立場を共有」…、これって「共同」声明と言えるでしょうか。

それどころか会議終了後に、インドネシア、マレーシア、ブルネイ、つまりイスラム教徒が多い東南アジアの3ヵ国が、独自に「ガザでの即時かつ持続的な停戦」を求める声明を公表したのです。これは、もちろんアメリカの立場とは異なります。

政治外交分野でも、言いたいことは言わせていただく、たとえそれがアメリカの面子を潰すことになったとしても。東南アジアの存在感が際立った出来事でした。

日本の東南アジア戦略

さて、心配なのは日本の東南アジアとの関わり方です。はじめに昨今対東南アジア投資が激増していることを見ました。ところが日本はといえば、対東南アジア投資額は22年までの5年間累計が、過去20年で最低だったというではありませんか。かつては米中を上回っていたのに、です。記事では、東南アジア各国が求める投資分野と日本企業が投資したい分野とのミスマッチが起きているとされています。だとしたら、日本の対アジア基本戦略に問題がないのか、要検討です。

そもそも「アメリカの友だちは日本の友だち」とも「中国抜きをその友だちと固める」わけにもいかないのでしょう。それぞれの日本企業はアメリカ企業とも競争関係にあるわけですし、これまでの対中国投資もそう簡単に引上げることもできませんから。

さて、とはいえ日本企業はこれまでのように対中投資を増やすわけにはいかないでしょう。それなのに対東南アジア投資も減っている。日本は東アジアのどこに投資して、どのような供給網を構築するつもりなのでしょう。じつは韓国も、同じようなジレンマに陥っています。米中対立の一方、すなわちアメリカに付いていきます、それだけでは国際戦略とは言えないでしょう。

ぼくは先の12月6日付記事(「ベトナムシフト」)のなかでとても関心を持ったのが、「日本はベトナムから技能実習生を多く受け入れており(中略)、こうした人材を架け橋とすれば」という指摘です。

日本政府では、技能実習生制度に代わる新制度について、有識者会議がようやく最終報告案を出したところです。就労1年超で転職を認めるというものです。そう、今は認められていないのです。そのためもあって技能実習生への人権侵害は酷く、アメリカ国務省が名指しで批判しているほどです。日本では、東南アジアの若者たちは人手不足を低コストで埋め合わせるだけの労働力であったり、留学生も学生定員充足のための頭数でしかなかったり、そうした収奪的事実がいくつも明らかになっています。

今回のタイトルは「東南アジアの存在感」ですが、こうしてみると「東南アジアにおける日本の存在感」が問われていることに気がつきます。まだ間に合うでしょうか。日本独自の、日本と東アジアの「フレンド・ショアリング」。大きく立ち遅れているからこそ、そのぶん大きな伸び代はあると、期待したいものです。

日誌資料

  1. 11/22

    ・イスラエル 衝突が長期化、起業立国に影 投資マネー流入も細る
    ハイテク従業員15%、軍動員 インテル、マイクロソフトが開発拠点
    ・円売り急ブレーキ 147円台前半、2ヶ月ぶり高値 投機筋が持ち高解消
    日本「勤労感謝の日」、米「感謝祭」から長期休暇シーズン 利益確定の動き
  2. 11/23

    ・ガザ、4日間戦闘休止 双方合意 人質50人解放へ
  3. 11/24

    ・消費者物価2.9%上昇 10月 4ヶ月ぶり伸び拡大 電気・ガス補助半減で <1>
    ・OPECプラス、閣僚会合延期 減産巡る協議難航 アフリカ諸国、反発強める <2>
    サウジアラビア、価格の下落懸念
    ・元慰安婦訴訟 韓国高裁、日本政府に賠償命令 一審判決覆す
    ・外国人転職、就労1年超で 技能実習 新制度巡り最終報告案
    ・北朝鮮 韓国との軍事合意を破棄 「韓国への対抗措置」
  4. 11/25

    ・反中感情あおる米共和党 大統領選にらみ政権「弱腰」批判
    世論先鋭化なら外交に水
    ・海外勢、日本株買い再開 2週で2兆円買越し 4月以来 <3>
    ・NZ、右派連立政権発足へ 6年ぶり交代 経済優先で対中重視
    ・米年末商戦 客足鈍く 物価高で節約志向鮮明
    ・米製造業景況感が低下 11月、2ヶ月ぶり「不況」 予想下回る
    ・パレスチナ人39人解放 イスラエル、合意履行 ハマスは人質24人
    ・日産、英でEV生産拡充 3700億円追加投資 電池工場も新設
  5. 11/26

    ・日中、外相相互訪問を検討 「互恵」再構築へ初会談 <4>
    王毅氏「前に進める用意」 処理水問題、対話で解決
    ・米中、東南アジア投資で火花 昨年、総額33兆円で最高 安定・内需に魅力 <5>
    米、フレンド・ショアリング 中国、制裁関税回避 6億人市場 日本は過去20年で最低
  6. 11/27

    ・日中韓首脳会談「早期に」 4年ぶり外相会合(26日、釜山)
    上川氏、韓国外相に抗議 慰安婦判決「極めて遺憾」
    ・内閣支持率、最低の30% 日経世論調査 「政策が悪い」「指導力がない」<6>
  7. 11/28

    ・マスク氏、イスラエル訪問 ネタニヤフ首相と面会
    衛星通信「スターリンク」でガザ支援、イスラエルの承認必要
※PDFでもご覧いただけます
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