週間国際経済2020(31) No.242 10/18~10/24

今週のポイント解説(31) 10/18~10/24

Google提訴

1.ジェネレーションZ

さすがに学生たちは、生まれたときからインターネットが当たり前のデジタル・ネイティブだ。授業内容に対するリアクション・ペーパーで彼らの関心を集めたのは、アメリカ大統領選挙やコロナ感染と並んで、いやそれ以上に、ツイッターの一時(大統領選挙中)リツイート制限、中央銀行のデジタル通貨、そしてグーグル提訴だった。

もう古くなっているのだろうか、若者たちは「ググる」といえば「検索する」という意味で使っていると聞いた。その彼らでも検索エンジンの世界シェアでグーグルが92%を握っているというと驚く。さらに2年ほど前からネット辞書のウィクショナリー(英語版)では「Googleする」と引けば「圧倒する、絶滅させる」と出ていたとウンチクすると、さらに驚く。

猛烈なスピードで膨大な数のアプリを駆動させる彼らも、データ独占の社会的意味については関心が薄かったようだ。GAFAの圧倒的な市場支配力も企業努力の結果ではないかというリアクションもあった。グーグルCEOのスンダー・ピチャイさんなら大喜びでリツイートするだろう(創業者大株主のペイジさん、ブリンさんはもっと拡散するかもしれない)。

いや学生たちが間違っているというのではない。たしかにネットワークの利便性は規模に比例する。そしてぼくたちはその利便性を無料(無償ではない)で使っている。いったい何が咎められるというのだろうか。

2.グーグルは何を訴えられたのか

10月20日、アメリカ司法省とテキサスなど11州の司法長官が共同でワシントンの連邦地裁でグーグルを提訴した。その理由は「反競争的」だというのだ。まず、アップルに年間約1.3兆円を支払って、スマホの検索サービスの標準をグーグルにしている。また、スマホメーカーにOSアンドロイドを無償で提供する代わりにグーグルの検索サービスを組み込むことを求め、競合する検索サービスの初期搭載を禁じている。

たしかに今、スマホを買えばグーグルが初めから付いている。これを削除しようとすればそうとう煩雑な入力を繰り返さなければならないらしい。なかなかの「反競争的」ぶりだ。

これに対してグーグル側は、高いシェアは使い勝手がいい結果だ、商品検索ではアマゾンと競争している、OSの無償提供でスマホ価格は安くなって喜んでいただいていると、反論する。なかなかのサクセス・ストーリーぶりだ。

この分野の専門家でもないぼくが言うことではないかもしれないが、この裁判は長引く。長引くが勝ち負けが着かないと思う。和解かせいぜい是正措置、あるいは罰金か。

実際、このグーグル提訴のニュースを受けて、グーグル(持ち株会社のアルファベット)の株価はピクリとも動かなかった。むしろ少し上がったくらいだ。なんといってもグーグルの7-9月決算はかなりの高収益だった。いずれは売り材料になるかもしれないが、今のところ「何を言ってるんだか」といった空気感だ。

3.しかし巨大IT企業への風当たりは強くなっている

ぼくがこのブログに「GAFA分割?」を書いたのは2週間前だ(⇒ポイント解説№240)。アメリカ議会下院の司法委員会が10月6日、GAFAに対する反トラスト法(独占禁止法)調査の報告書をまとめたことについて取り上げた。

そのおさらいをしておこう。第一に、この報告書はGAFA分割を含む規制の強化を求めたが、ぼくは今のところ分割には至る勢いはないと見ている。第二に、それでも意義はある。反トラスト法は「(独占による)値上げなどで消費者が不利益を受けているか」を問うものだが、報告書は「競争排除によって結果的に消費者が不利益になっている」と解釈を広げた。さらにこの「消費者が不利益」の観点に、新興企業をはじめとする中小企業およびその従業員の利益という視点を与えた。

そして第三に、「GAFA叩きは票になる」。なぜなら今、巨大IT企業は「格差の象徴」になっているからだ。株価がどれだけ上がっても、アメリカの上位1%の高所得者が株式・投資信託資金の52%を保有している。デジタル経済とか言うけれど、飲食・レジャーなど相対的に賃金が低いサービス業はテレワークできない(10月22日付日本経済新聞「取り残された低所得層」参照)。

それどことか、経済のデジタル化は「省力化」だから雇用を増やさない、むしろ減らしている。「アマゾン・エフェクト」という言葉があるように、アメリカでは年間9,000以上の小売店舗が閉鎖に追い込まれ、こうした傾向はコロナ禍で加速している。

だからたんなる選挙前のパフォーマンスなのか、ぼくは2週間前「そうでもない」と書いていた。でも今、ぼくはその見方を変えなければならなくなっている。

4.選挙プロパガンダの色が濃くなってきた

アメリカでは、大統領選挙と同時に議会選挙も知事選挙も行われる。だから選挙イヤーのアメリカは政治一色に染まる。

さて、GAFA分割で話題になった報告書は、議会下院多数の民主党がまとめたもので、共和党は賛同していない。さて、今回のグーグル提訴は司法省とテキサスなど11州の司法長官が共同で起こしたものだが、その11州すべてが共和党の知事だ。

もう一度さて、下院民主党は7月29日にGAFAのCEO4人を呼び出して公聴会を開いた。もう一度さて、上院共和党は10月28日にフェイスブック、グーグル、ツイッターのCEOを呼び出して公聴会を開いた。前回民主党は反トラスト法がテーマだったが、今回共和党が問題にしたのが「通信品位法230条」、この法律によってIT企業は投稿内容の視聴を制限しても、逆に放置しても法的責任を問われない(10月30日付同条)。

共和党議員たちは声を荒げる。民主党大統領候補のバイデンさんの不正疑惑は記事の閲覧を制限したのに、トランプさんの脱税疑惑は制限してないと怒っているのだ。共和党はこれを「検閲だ」と批判し、逆に民主党はフェイクニュースの「放置」を問題にしている。

あらら、露骨に選挙に有利か不利かという話になってきた。「GAFAを叩けば票になる」とはいっても、これは一体「誰目線」なんだろう。

ぼくは、巨大IT企業によるデータ独占は深刻な社会問題だと思っている。このブログでも3年前から度々この問題を取り上げている。

ポイント解説№154「GAFAの光と影」、⇒ポイント解説№181「データ社会の市場と人権」、⇒ポイント解説№201「データ社会の規制と覇権」、など。

今議論は、あらぬ方向にさまよいだしている。データ社会の利便性については誰も異論はないだろう。しかしそれが社会的格差を拡大し、かつ社会の分断と対立を深めていることを直視し、慎重に議論し、適切に是正していかなくてはならない。

まったく笑えぬ笑い話だ。社会の分断と対立を、その分断と対立を煽ることで支持を得てきたトランプ政権与党が質(ただ)そうとしているのだから。

日誌資料

  1. 10/18

    ・ワクチン開発足踏み ファイザーやモデルナ、遅れ発表 安全証明なお課題
  2. 10/19

    ・ITにマネー集中一段と 時価総額、世界で4分の1迫る <1>
    金融の比率最低の17% エネルギーは5%未満 過熱感に危うさも
    ・中国4.9%成長に加速 7-9月 投資・輸出けん引 <2>
  3. 10/20

    ・日本の輸出、中国が支え 4-9月3.5%増 全体は19.2%減
    ・欧州感染者、第1波の3倍 移動緩和で再拡大 景気に二番底懸念
    ・サイバー攻撃、東京五輪標的 「ロシアが計画」と英政府
    ・菅首相、ベトナムで演説 東南アに供給網分散 <3>
    「法の支配」も強調 対中戦略、連携呼びかけ
  4. 10/21

    ・米司法省、グーグル提訴 独禁法違反「検索で競争阻害」 <4>
    アップルの契約「反競争的」 マイクロソフト以来20年ぶり大型訴訟
    ・ネットフリックス最高益 会員は1%増止まり コロナ需要一服 <5>
    ・GM、EVに2100億円投資 本格展開備え
    ・デジタルドル、選挙が左右 共和「民間で」、民主は推進
    FRB議長、研究に力「最先端に」
  5. 10/22

    ・チェコとアイルランド 欧州初の再封鎖
    ・ペイパル、仮想通貨対応 買い物支払い 来年、世界で可能に
  6. 10/23

    ・米大統領選挙討論会 最後の直接対決
    トランプ氏「コロナ峠越えた」 バイデン氏「危機終わらせる」
    ・米、対中輸出規制に死角 半導体、中国企業の自立「後押し」も
    ・日英EPA(経済連携協定)署名 1月発効目指す
    英EU協定、日本企業左右 日英EPAだけでは不十分 破談なら関税コスト重く
    ・米新規感染者数、再び世界最多 インド抜き6万人迫る
    ・米航空3社、赤字1兆円 7-9月 人員削減費かさむ
  7. 10/24

    ・ファーウェイ減速鮮明 米規制で増収9.9%止まり(1-9月) <6>
    ・「デジタル人民元」法整備 中国、発行準備さらに加速 民間の発行禁じる
    ・欧州景気、迫る二番底 10月景況感「不況圏」に 若者の失業率、各国で上昇
    ・イスラエル、スーダンと国交正常化 米仲介で合意
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