「 2018年12月 」一覧

週間国際経済2018(37) No.164 11/12~11/21

今週のポイント解説(37) 11/12~11/21

外国人労働者の受け入れ拡大

1.人手不足

今年1月1日時点での人口動態調査(総務省発表)によると、日本の人口は9年連続で減っている。2017年は前年より37万4000人減って約1億2520万人。このうち15~64歳の生産年齢人口は約7500万人で、総人口に対する割合が初めて60%を割った。

国際通貨基金(IMF)は11月28日に日本経済を分析する報告書を公表して、「日本は人口減によって、今後40年でGDPが25%以上減少しかねない」との試算を示した。この試算は、なんら驚くに値しない.。日本の人口は50年後に3分の2に、100年後には半減するのだから。こんなことは前例がない異常な事態なのだから。

GDP(国内総生産)は、(労働者数)×(労働時間)×(労働生産性)の積だ。日本の労働生産人口は10年で500万人減る。安倍政権はこれを高齢者と女性の就労増加で補おうとしてきた。働く高齢者は昨年807万人を超えた。女性の就業率も8月に初めて70%を超えた。たしかに人手不足を補っているのだが、そのほとんどは非正規雇用で、多くの人は介護を抱えている。そして、もうこれ以上は増えない。

つまり、労働者数は減り、労働生産性も上がらない(OECD加盟35国中20位)。だからGDPを増やす、すなわち経済成長率を上げるためには、労働時間を増やすしかない。ブラック企業は増え、安倍政権は「働き方改革」で残業代を払わなくも済むようにしたがる。

だから、少子高齢化はさらに加速する。都市圏の一人暮らし高齢者は15年間で2倍以上増えて289万人、世帯全体の1割を突破した。要介護、生活保護の対象が急増するのだが、それを支える現役世代は急減している。しかも、GDPの2倍以上の財政赤字を抱えている。どんどん増えていく高齢者たちは支えを失い、どんどん少なくなっている若者たちが背負うものは重くなっている。

2.出入国管理法改正案

11月27日に衆院本会議で可決された同法案は、外国人労働者の受け入れ拡大に関するものだ。「国難」とも言うべき人手不足に対応する法律だ。しかし衆院での審議時間は、わずか17時間余り、しかも政府側答弁は「今後の検討」、「省令で対応」の繰り返しだった。野党は「生煮えだ」と批判するのだが、ぼくもこの中味を説明することができない。中味がないからだ。

中味はないが、外枠はある。2つ在留資格を新設する。一定の日本語力や技能があれば通算5年滞在できる「特定技能1号」と、熟練した技能が必要な「特定技能2号」だ。ところがこの「一定の日本語力や技能」とはどの程度なのかはわからない。どれだけの人数を受け入れるのかもわからない。受け入れてからの日本語教育や生活支援制度もわからない。技能実習生の多くがこの「特定技能」に移行すると想定されているのだが、彼らの現状と課題についてもわからない。「2号」は在留資格の更新と家族帯同が可能だが、「移民」ではない。移民ではないのだから、移民政策の制度設計についてはわからない。

それでも人手不足は深刻だから、なにもしないよりはいいと評価する論者もいる。本当にそうなのだろうか。

3.言い出したのは半年前だった

技能実習生制度は、途上国への技術協力や国際貢献を目的に1993年に始まった。最長5年の在留資格で、77職種を対象に約25万人が働いている。彼らに限ってきた単純労働で外国人の就労を認めることは、日本の労働政策で歴史的な転換だといわれる。

その端緒を切ったのは6月15日の閣議決定(経済財政運営と改革の基本方針)だった。ここでは対象業種を「建設、農業など5分野に限定する」とされていた。7月30日付日本経済新聞によると、この方針が伝わると、他の業界は慌てて政府や与党への陳情に走った。安倍首相の側近は「5業種だけではなく広く製造業にも認めないと持ちません」と首相に直訴。「参院選に響きます」と伝えた。

そこで安倍さんは7月24日、関係閣僚会議で「外国人材を幅広く受け入れていく仕組みを構築することが急務だ」と外国人労働者の受け入れ拡大を指示した。すでに閣議決定された5分野以外の製造業や外食産業などにも対象を広げた。入管局を庁に格上げすることも検討するという。

もちろんまだ何も決まっていない。それでも2019年4月の本格受け入れを目指し政策を総動員する、だから秋の臨時国会に出入国管理法改正案を提出すると言い出した。すべては統一地方選と参議院選挙に間に合わせるために、だ。

その3カ月後、10月24日に臨時国会が召集され、安倍首相は所信表明演説で「即戦力となる外国人材を受け入れる」と強調した。そのあとの29日の自民党法務部会が第2の節目だった。第1の節目は、参院選をにらんで「特定技能1号」の対象業種を拡大したことだったが、第2の節目は「第2号」を巡るものだった。

この自民党法務部会は22日から審議が始まったが、徐々に出席者が増えていき「自民党が移民受け入れを認めたと有権者に思われたら党の支持者が離れ、参院選に影響する」といった意見が続出した(10月30日付日本経済新聞)。

4.すべては選挙のため

日本の将来のためでもなく、もちろん働きにやってくる外国人のためでもない。業種も人数も受け入れ体制も決めないのは、幅広い業界からの反発を避けるためにだ。高度熟練労働が日本を「選ぶ」ための在留資格を「移民」ではないと曖昧にするのは、自民党支持者からの反発を避けるためにだ。

しかし外国人労働者の受け入れ拡大に向けて何もしなければ、それはそれで選挙に響く。

だから法案はできる限り具体的なことは省き、答弁にボロが出てはいけないから審議時間はできる限り短くした。自民党議員たちは与えられた質問時間を使い切らず、首相の外遊日程があるからといって採決を急いだ。

日本の総人口は急減しているが、在留外国人は昨年1年間で7.5%増えて250万人近くになり、6月には263万人、総人口の2%に達した。つまり日本に住む50人に1人は外国人だ。この法案は、彼らの在留資格にも大きな影響を与える。

技能実習生の現状は悲惨だ。厚労省が17年に調査に入った5966事業所のうち4226事業所で違法残業や賃金未払いといった法令違反が確認された(8月10日付同上)。昨年7000人以上が失踪し、それは今年も6月までですでに4200人以上になっている。かれらの待遇改善について調査も不充分なまま、新たに外国人材を受け入れようとしている。

そんなことで、国難といってもけっして大げさではない人手不足を解消できるのだろうか。人手不足は日本だけの問題ではない。単純労働の分野ではアジアの賃金も年々高騰しており、日本の労働条件はすでに魅力が薄れてきている。よくAI活用などによる労働生産性向上で人手不足を補うという意見にも出会うのだが、そのAI分野での人材獲得競争が世界で過熱している。日本は高度人材から見たビジネス環境の魅力も中国や韓国を下回るという調査もある(9月2日付同上)。そのAIといっても膨大なデータの入力あってのAIだ。そこでも、人手不足なのだ。

こうした労働市場のなかで、まったく不充分な受け入れ体制の中で、来年4月から改正入管法は施行される。これでどれだけの若者が外国から働きにくるのだろう。忘れてはいけない、かれらは働くだけではない、ここで暮らすのだ。

5.すべては改憲のため

来年の参議院選挙で3分の2以上の議席を獲得できなかったら、憲法改正は発議できない。憲法改正とは、いうまでもなく「国のありかた」を問う行いだ。今、国のありかたを憂う者ならば、少子高齢化と財政赤字を憂うはずだ。

消費税率引き上げも、財政再建ではなくバラマキに使われようとしている。人手不足問題は少子高齢化問題の深刻な表れだ。当面の使い捨て労働力の問題ではない。

現政権に「国のありかたを問う」、つまり憲法改正を問う資格があるのだろうか。そのためにこの国はどれだけのコストと背負わなければならないのだろうか。

遠吠え、ですか。たしかに安倍内閣の支持率は50%を超えている。次の参院選で躍進する野党は見えていない。安倍さんが勝手に決めているのではない。どれも主権者が決めることなのだ。

前回、イギリスから学んだことを思い出そう。みんな無責任だ。なぜそうなるのか、問われていることを問い返さずに選択するからだ。あるいはその選択すら放棄するからだ。それでも決まるのが民主主義だ、というのは誤りだ。民主主義の歴史が教えるところは、主権者を甘く見た権力は退場する、ということなのだ。

日誌資料

  1. 11/12

    ・第1次大戦終結100年式典(11日パリ) 米欧の亀裂あらわ
    マクロン氏「古い悪魔再び」ナショナリズムに警鐘 米と中ロ同列に「欧州軍」創設言及
    トランプ氏、式典後すぐ帰国 平和フォーラムを欠席
  2. 11/13

    ・RCEP(東アジア包括的経済連携)年内合意困難
    インド、関税で譲らず 中国は知財保護で対立
    ・「独身の日」アリババ取扱高3.5兆円 中国、ネット通販膨張 小売売上高の2割
    ・日経平均、一時780円安 アップル株急落 NY株は602ドル安
  3. 11/14

    ・EU離脱協定暫定合意 英政府、閣議で承認めざす
    ・GDP実質1.2%減(7-9月年率) 2四半期ぶりマイナス 災害で消費伸びず
    ・NY原油1年ぶり安値 1バレル=55ドル 供給過剰懸念強まる
  4. 11/15

    ・日ロ首脳会談、56年日ソ共同宣言基礎に交渉で合意 <1><2>
    ・米議会諮問機関報告書 中国ハイテク「米の脅威」 覇権争いに危機感 <3>
    ・英、離脱案を閣議了承 EU関税同盟に当面残留 EU「重大な一歩」 <4>
  5. 11/16

    ・APEC(アジア太平洋経済協力会議)閣僚声明先送り 米中欧州で調整難航
    ・メイ首相に反発強まる 英離脱案 保守党内、不信任の動き
  6. 11/17

    ・中国、対米貿易で改善案 142項目 トランプ氏、一定の評価
    ・VW、5.6兆円投資 EVや自動運転 5年で 工場転換や電池生産
  7. 11/18

    ・外国人技能実習生失踪「低賃金で」67% 月10万円以下過半
  8. 11/19

    ・APEC首脳宣言断念 93年来初 米中対立激しく
    ・貿易赤字2カ月ぶり 10月4493億円 原油の輸入額増 <5>
  9. 11/20

    ・ゴーン日産会長逮捕 金融商品取引法違反疑いで東京地検 <6>
    報酬50億円、過少申告 有価証券報告書の虚偽記載 日仏3社連合に打撃
    ・EU、離脱再交渉応じず 英の修正論けん制 閣僚会議で一致 延長期限近く結論
    ・NY株反落、395ドル下げ GAFA、高値から2割安 弱気相場入り
  10. 11/21

    ・米通商代表部(USTR)報告書 中国知財「なお不公正」 制裁後も変化なし
    ・NY株続落551ドル安 ハイテク株、売り収まらず <7>
    トランプ氏、利下げ要求 「株安要因はFRB」
    ・NY原油反落53ドル台に 1年1カ月ぶり安値

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