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週間国際経済2019(34) No.202 10/15~10/21

今週のポイント解説(34) 10/15~10/21

ファーウェイ排除(データ社会の規制と覇権 その2.)

1.中国ハイテク「封じ込め」

トランプ政権は、中国ハイテク企業に対して「規制」ではなく「排除」の論理で立ち向かっている。すなわち「制裁」と「禁輸」がそれだ。中国製品に対する知的財産権侵害制裁関税のターゲットは、「中国製造2025」政策によるハイテク産業に対する補助金と政府投資だ。2018年7月の制裁関税第1弾から、その範囲を広げながら第4弾にまで至っているが、中国は譲歩するどころか報復を繰り返し、米中関税合戦は泥沼化している。

一方、2019年5月トランプ政権は中国通信機器大手のファーウェイ(華為技術)を事実上の禁輸リストに加えたが、これは軍事情報漏洩の危険性という安全保障上の理由からだった。世界の関連68社も対象としたから、アメリカ国外の企業もファーウェイとの取引は制裁の対象になる。さらに2018年8月に「国防権限法(授権法とも訳される)」を成立させ、これに基づいてファーウェイなど中国5社から製品を調達することを禁じる措置を発効させた。

ぼくはこの「封じ込め」作戦はうまくいかないと見ていた(⇒ポイント解説№170および№174など参照)。たしかに中国の知的財産権侵害には問題があるが、関税引き上げによる制裁という戦術に効果があるとは思えない。報復合戦となり世界経済の足を引っ張り、米中共倒れのリスクが大きすぎる。また現在のグローバル市場に冷戦論理を持ち込むこと、とりわけ世界中のサプライチェーンで繋がっている特定のハイテク製品を一方的に排除することは極めて困難だと考えたからだ。

さて前回は、アメリカが米中貿易戦争でハイテク覇権を争いながら、自国の巨大IT企業に対する規制を強化している様子を整理した。GAFA規制は反トラスト法など国内法に拠っているし、中国ハイテク企業がアメリカやEUで独占的地位にあるわけではないので、その規制対象ではない。国際課税の見直しもOECD(経済協力開発機構)を軸として進められているが、中国はそこに加盟していない。

さらに中国には、独占を禁止するとか個人情報を保護するという発想がない。つまりGAFA規制の外にあって、規制のモチベーションがない。むしろ独占を強化し、個人情報監視を強化している。アメリカは、覇権争いをしている場合なのだろうか。「封じ込める」のではなく、「巻き込む」智恵は出てこないのだろうか。

2.5G、次世代通信規格の覇権

なぜアメリカは、ファーウェイを目の敵にするのだろう。どの場合もそうだが、「アメリカは」と一括りにすることはできない。まず、トランプさんは中国との通商ディールの「切り札」だと考えている。だが対中強硬派にとっては、たんなる取引材料ではない。ファーウェイを締め出すことは、5G覇権すなわちデジタル覇権争いにとって死活的課題なのだ(この両者のねじれがまた、米中通商交渉を複雑なものにしている)。

だから「国防権限法」では、アメリカ政府機関にファーウェイやZTE製品の調達を禁じるだけでなく、2020年8月からは両社などの製品を使う企業のアメリカ政府との取引を禁じる。その名目は、スパイ活動のおそれだ。「おそれ」であって証拠はない。実体が明らかでないのに特定企業の製品を締め出すというのは本当に異例の措置だ。

9月12日付日本経済新聞社でコメンテーターの秋田浩之氏が、この5G戦争ではアメリカの「敗色濃い」と指摘している。まずヨーロッパでは通信インフラですでに4Gでファーウェイが浸透している。次に東南アジアでは、ファーウェイの価格競争力が歴然だ。さらにスパイ活動というリスクはアメリカにもある。イスラム人口の多い新興国では、中国よりアメリカのほうが怖い。

ぼくはこれで概ね要点が押さらえれていると思う。付け加えるならば、「一帯一路」、すでに約130カ国との間でインフラ投資の覚書を結んでいるなかで、そこからファーウェイの5G通信インフラだけを排除するのは現実的ではない。

3.直近の関連情報を羅列してみよう

9月20日付日本経済新聞の来日中のニュージーランドのアーダーン首相のインタビューで、ファーウェイの5G参入についてアーダーンさんは「政治判断をしない」と述べた。NZはアメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリアと機密情報を共有するいわゆる「ファイブ・アイズ」に加盟している。つまり、NZから機密情報が漏洩すれば、他の国でファーウェイを排除してもリスクがなくなるわけではない。

9月21日付日本経済新聞。ドイツの調査会社によると5G特許の出願数で中国は世界全体の34%を占めて1位。中国当局によれば、そのなかでも製品製造に欠かせない標準必須特許(SEP)件数でも中国がトップだという。

10月3日付同上、ファーウェイやZTEが5Gの独自技術(通信方式、小型化、低価格化)のよって、世界で基地局受注を獲得している。10月16日付夕刊、世界知的所有権機関によると、2018年の中国の特許出願数が8年連続で首位、世界全体のほぼ半分近くを占めていると発表した。

10月17日付同上、ファーウェイの今年1~9月期売上高が前年同期比24%増えた。スマホ販売台数の中国国内シェアが1年前に比べて10ポイント上昇の34%に達した。グーグルが使えないスマホなんてと思うのだが、そもそも中国ではグーグルが使えない。そして中国市場は広く、アップルからの乗り換えは大きな需要だ。

10月17日付同上夕刊、ドイツ政府は15日に5G調達基準案を公表し、そこでファーウェイの参入を事実上容認した。アメリカ国務省は「ファーウェイの参加が認められればドイツとの安全保障関係を見直す」と圧力をかけていたが、これでドイツ国内の携帯事業者4社のすべてがファーウェイ製品を採用する見通しだという(10月18日付同上)。さらに同記事では、ファーウェイは9月末時点で世界の通信会社60社以上と5Gの商用契約を結び、欧州企業はこのうち約半分だという。

10月25日発ロイター通信によると、イギリス半導体設計大手ARMがファーウェイへの技術供与を継続すると表明した。5月に取引停止が報じられたときは、さすがにファーウェイも厳しいなと思っていた。低消費電力のノウハウはほとんどARMが保有しているからだ。

この1カ月の動きだけでも、ぼくには「ファーウェイ包囲網」はズタズタに綻びているように見える。

4.「包囲」ではなく「放置」

そこまでは予想通りだとして、ぼくが何より気になったのは10月21日付日本経済新聞の中国浙江省で開幕した世界インターネット大会の記事だった。中国はネット統制で国内につくり上げた独自のネット空間を、「一帯一路」域内の国々に広げる動きを加速するというのだ。

中国は2014年にはネット統制を強化しはじめ、2017年にはSNSを厳しく監視しビッグデータの活用を制限するインターネット安全法を施行している。ファーウェイ排除の前に、中国国内ではとっくにグーグルやフェイスブックを排除している。

そのうえで、スマホ決済、ネット通販支払い、ライドシェア、顔認証システムというサービスをどこよりも早く一般化し、その個人情報を国家が管理している。さらに全地球測位システム(GPS)の「北斗」を2018年末から全世界運用を開始した。

新興国にはもとより強権的な政府が少なくない。東南アジアでも情報統制の勢いが加速している。そこで「中国流の世論統制を導入して統治の安定を図りたい政権もある」というのだ。

そこで思い出したのが、9月14日付の日本経済新聞コメンテーター中山淳史氏の指摘だ。「まねぶBATH、独り歩き」と題して、バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイという中国IT大手が、いつまでもGAFAのコピーではなく、世界に先駆けたサービスを展開し、そのビジネス・モデルを輸出する時代に入ったというのだ。

こうなると、「ファーウェイを除けば、中国のIT企業にとって米中摩擦が追い風になる可能性がある。パラレルワールド化が強まれば、GAFAとも競争しなくても済む(一部略)」、なるほど。

GAFA規制では、競争阻害やプライバシー侵害が問題視され、一方中国では独占が促進され個人情報の国家管理が強化され、拡大している。まさに「パラレルワールド化」に違いない。
 

いやいや、なるほどで済む問題ではない。このままではデータ社会の覇権は、データ管理社会への移行を意味することになりかねない。アメリカの(この場合、トランプだろうが対中強硬派だろうが)対中国「包囲」は、そうした中国モデルの「放置」ではないのか。

このように考えるとき、米中貿易戦争の本質がデジタル覇権争いだとすれば、その米中貿易戦争になんの意味があるというのだ。ますます関税合戦を激化させて、世界を道ずれに共倒れに向かうのか。トランプさんの選挙のためにスモール・ディールを誇大に喧伝し、選挙期間中は成り行きに任せるのか。デジタル市場に冷戦思考を持ち込み、世界をデカップリング(分離)して、その一方を放置するのか。
 

確かなことは、事態は今後それぞれの方向が混沌として進むだろうということだ。

確かなことは、そのどの方向も支持できない。そうではない方向が、ただちに提示され合意の形成に向かわねばならないということだ。

日誌資料

  1. 10/15

    ・中国、9月対米輸出22%減 減少幅、リーマン直後以来
    消費者物価が上昇 9月3% 豚肉、豚コレラまん延で高騰
    ・韓国法相が辞任 親族の疑惑巡り 文政権に打撃
    ・リブラに21社・団体 設立総会、予定より少なく 多難な船出
  2. 10/16

    ・世界成長3.0%に下げ IMF19年予測 米中貿易戦争で
    ・米企業、2四半期ぶり減益 7~9月見通し 関税・人件費でコスト増
    ・米の情報保護、企業に負担 加州「プライバシー法」、欧州以上の規制も<1>
    初期費用5.9兆円試算 日本勢も対応検討
    ・特許出現、中国が首位 昨年8年連続 世界のほぼ半分に <2>
  3. 10/17

    ・米中休戦、市場に安心感 半導体関連けん引 日経平均年初来高値
    中長期マネーは慎重 株ファンドから資金流出
    ・韓国訪日客(全体の24%)が58%減 9月 九州など地域経済に影
    農産物・食品輸出37%減」ビール輸出92%減
    ・ファーウェイ、24%増収 1~9月 中国でスマホ販売好調
    独、ファーウェイ排除せず 5G調達基準案 米の反発必至
    ・金融緩和で「債務不履行リスク19兆ドル」 IMF、主要8カ国21年推計 <3>
  4. 10/18

    ・英・EU、離脱条件で合意 アイルランド国境問題で修正 <4>
    英議会承認壁高く 北アイルランド、新離脱案に反対
    ・中国6.0%成長に減速 7~9月 過去最低を更新 貿易戦争で輸出低迷 <5>
    2期連続減速 自動車や電機不振 「GDP倍増」目標に黄信号
    ・消費者物価、0.3%上昇 9月 上げ幅、17年以来の低水準
    ・米、EU補助金に報復 航空機・ワインに関税発動
    ・トルコ軍、作戦120時間停止 シリア北部、米と合意
  5. 10/19

    ・自衛隊の中東派遣検討 首相指示 米・イラン双方配慮
    ・10月月例報告 景気判断5か月ぶり下げ 「緩やかに回復」は維持
    ・G20 財務相会議、乏しい協調意欲 低成長でも「自国第一」
  6. 10/20

    ・G20、リブラ当面認めず「深刻なリスク」合意 水面下、通貨覇権争う
    ・英議会、新離脱案の採決先送り 修正動議を可決
  7. 10/21

    ・英、EUに離脱延期(20年1月末)申請 首相、「10月末」諦めぬ書簡も
    ・輸出額2期連続減 上期(4~9月)5.3%減、対中は9.1% 貿易赤字も2期連続
    ・中国で世界インターネット大会 中国ネット統制「一帯一路」へ
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