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週間国際経済2017(21) No.106 6/26~7/2

今週のポイント解説(21) 6/26~7/2

税と社会保障の一体改革

1.消費税と「多数の力」

あらためて整理しておこう。安倍政権による「多数の力」は消費税率引き上げ延期によってもたらされた。

消費税率の8%から10%への引き上げ時期は2015年10月と国会で決められていた。安倍首相は2014年11月にこれを1年半延期することを国民に問うとして衆議院を解散して総選挙にのぞみ、圧倒的な議席数を獲得した。この「多数の力」をもって2015年国会は集団的自衛権を容認する新安保法制を強行可決した。

そして2016年6月、安倍首相は翌年4月に予定されていた消費税率引き上げを、前の総選挙では「再び延期することはない」と断言していたにも関わらず2019年10月までさらに2年半延期するとして参議院選挙で大勝した。

こうして衆参の「多数の力」によって今年の国会では「共謀罪」が強行可決され、さらにこの「多数の力」があるうちに憲法改正を断行すると言い出している。

安倍首相は消費税率引き上げ延期を表明するたびに、それでも財政再建(基礎的財政収支の2020年度黒字化)を確約していた。法人税率引き下げ、消費税率引き上げ延期をしてもなお「アベノミクスのエンジンをふかす」ことによる経済成長で税収を増やすと約束していたのだ。

では今、財政再建の見通しはどうなのか、アベノミクスのエンジンの調子はどうなのか、その「多数」は説明責任を問われていたにもかかわらず、「モリ・カケ、共謀罪」で国会は「空洞化」したまま幕を閉じた。

その陰でこっそりと(「こっそりと」というのは国会で話されることもなく)、安倍内閣は「骨太の方針」を決定し(6月9日)、財政再建公約をなし崩し的に変更したことは⇒ポイント解説№104で指摘したとおりだ。

2.3党合意

2012年6月、当時与党だった民主党(現在の民進党)と野党だった自民党、公明党の3党は、消費税を5%から8%、そして10%に引き上げ、それを社会保障と財政再建にむけた財源とすることを確約し、その内容を「確認書」で取り交わした。

なぜ3党で合意する必要があったのか、どの党も単独で「増税」を公約することができなかったからだ。抜け駆けは許さない、だから「確認書」が必要だった。そして何よりも政治全体として消費税率引き上げを国民に理解してもらうことが必要だった。

「税の無駄遣い」批判が強い中、消費税率引き上げぶんは社会保障財源と財政赤字削減にしか使わないと約束した。さらに痛みを分かち合おう姿勢を見せるためにも「議員定数削減」を与野党で約束した。

こうしたなか、世論は徐々に消費税率引き上げに理解を示し、世論調査では増税やむなしが上回るようになっていた。3党合意は、つまり消費税率引き上げにともなう「税と社会保障の一体改革」は国民的合意になろうとしていたのだった。

したがって消費税率引き上げ延期は、それと「一体」だった社会保障政策の見直しが伴う。2度目の延期で失われた財源はおよそ年間4兆3000億円ほど(生活必需品などの消費税率を据え置く軽減税率ぶんを差し引いて)、このうち3兆円を従来の借金に頼っていた社会保障費用に、1.3兆円を新たな社会保障策の充実に使う予定だった。

安倍首相は「延期をしたのだから同じ政策をすべてすることはできない」と述べ、財源は経済成長による税収という不透明なものとなってしまった。

これを圧倒的に支持した有権者にも責任がないとは言えないが、あくまで責任は政権「多数の力」にある。それが問われていたのが今国会だったのだ。それが「空洞化」されてしまったのだ。

3.格差拡大

「税と社会保障の一体改革」は、たんに消費税率引き上げによる税収増を社会保障費に使うことを約束しただけのものではない。高所得者の負担を増やし、低所得者への給付を手厚くすることによる格差是正を目指していた。

そのひとつが低年金高齢者への給付金および無年金者対策だった。これは現状への対応だけではなく、非正規雇用が急増するなか、近い将来への対策でもあった。

しかし社会保障財源の根本的課題はもちろん「少子高齢化」だ。急増する福祉受給者を支える世代が急減している。だから消費税率引き上げを財源とするもうひとつの柱は「子育て支援」だった。したがって2017年度末「待機児童ゼロ」が公約となっていた。

保育施設を増やしても保育士が確保できていない問題を是正するためには保育士の待遇改善が必要になるし、これは介護職員についても同じことがいえる。これらの財源確保を先送りにして、「一億総活躍」だとか「すべての女性が輝く社会」などと唱えている。

案の定、安倍首相は5月31日、待機児童ゼロを3年先送りするという「新プラン」を発表した。公約違反ではなく新プランだそうだ。共働きが増えて追いつかないというのがその弁明だ。

政策のほころびは今週の「週間国際経済」からだけでもあふれ出ている。厚労省は6月27日に「老老介護」の実態調査を発表した。要介護65歳以上を65歳以上が介護する世帯の割合が54.7%、ともに75歳以上の世帯は3割を超えた。この多くは低年金高齢者だ。

同じく厚労省は6月30日に昨年の国民年金納付率が65%だったと発表し、ここには低所得などで保険料を免除・猶予されている人は算出から除かれているが、それらを含む実質的な納付率は40.5%にとどまったとしている。この1年で加入者数は93万人減っている。将来の無年金者急増、そして納付者の急減は、待ったなしだ。

4.アベノミクス

待ったなしは、アベノミクスのエンジンとやらも同様だ。にもかかわらずその見直しが国会で問われない。

そのエンジンを「ふかして」、成長による税収増で消費税率引き上げ延期分を埋め合わすというのだが、昨年度税収は所得税・法人税・消費税すべてが前年度を下回った。こんなことはリーマンショックの影響を受けた2009年度以来のことだ。しかも2016年度は経済成長率がプラスであったにもかかわらず減収となった。

 

そもそもその「アベノミクスのエンジン」とやらは一体何だったのだろう。成長戦略の「目玉」とされたのはTPPだった。それについては触れることもないだろう。主力エンジンは「異次元緩和」だった。

日銀の年間80兆円に達する莫大な国債購入によって資金供給量を2年間で2倍にし「物価上昇率2%」を達成する、忘れてはならないがこの目標は日銀と政府の共同声明で共有されてきたた目標だ。

異次元緩和でデフレを克服し、物価上昇率2%を達成して消費を刺激する、というものだった。そのエンジンの性能を今週の「週間国際経済」から拾ってみよう。

総務省が30日に発表した5月の家計調査によると、消費支出は0.1%減少した。これで1年9カ月連続で消費は前年を下回っている。物価は0.4%上昇した。一方、消費者庁の調べではこの夏のボーナスの使い道は「貯蓄」が43.3%と圧倒的だった。旅行が22.8%、ローンの支払いが20.2%。

問題はそれだけではない。物価が1年後に「上昇する」と答えた割合は75.4%と3カ月連続で70%を超えている。つまりアベノミクスが算段するように人々は値上がりに備えて「今のうちに買おう」ではなく、「おカネをためておこう」となっているのだ(6月27日付日本経済新聞)。

それでもまだ、アベノミクスなのだろうか。エンジンは日銀の国債購入だ。しかし市場に国債は残り少なくなっている。6月28日付日本経済新聞によると、国内の銀行や農協などの国債保有額は前年比17%減って、5年間で半分になった。マイナス金利政策で国債を持っていても運用益が出ないから日銀に売って少しでも目先の収益を確保しようとしているという。その日銀の国債保有額は500兆円を超えている。

5.国会の空洞化と支持率

内閣支持率は下落した。議会とは「税金の集め方とその使い方を納税者の代表が討論して決めるところ」だ。その本来の役割を果たしていないから「空洞化」だと言うのだが、それでは本来の姿であれば、つまり財政、社会保障、成長戦略などが公約に照らし合わせて議論されていたならば、その支持率はどうなっていたのだろうか。話し方を「反省する」ていどで済んだのだろうか。

そして、それでも40%前後を維持しているのだ。だれが支持しているのだろう。

朝日新聞の7月4日付世論調査では、「支持」が38%で「不支持」が42%だった。不支持が支持を上回ったのは2015年の安保法制国会直後以来のことだ。心配なのはその世代別支持率だ。

男性の18~29歳と30代では支持率がいずれも5割を超え、60代、70歳以上では3割台だった。安倍内閣支持基盤は世代的には「若者たち」なのだ。しかも格差が「広がってきている」は78%、少子高齢化の進展について「不安だ」が89%だった。

格差は広がっている、少子高齢化は不安だ、それでも若者たちの過半数は安倍政権を支持している。格差と少子高齢化を問う国会ではなかったからではないだろうか。

安倍政権は「反省」して「信頼の回復に」つとめるらしい。誰に向かっているのだろうか。そう若者たちは「支持」してくれているし、投票にも来ない。3割にまで低下した高齢者たちの信頼を回復しようとするのだろう。財政赤字と社会保障のツケがさらにまた、若者たちにまわされる。

今週の「週間国際経済」の始まりは極めて不愉快が記事だった。あのお騒がせの自民党2回生議員たちが、2020年度の基礎的財政収支黒字化目標の撤回と、消費税については増税凍結どころか「5%への減税」も提案してるというのだ。

あの消費税率引き上げ延期総選挙で国会議員になったかれらは、安倍1強の揺らぎに不安をおぼえ、また税で票を買おうとしているようだ。そんな人たちによる「多数の力」だったのだ。

日誌資料

  1. 06/26

    ・対日直接投資が過去最高 昨年度3兆円超 企業買収などで
    ・自民2回生 基礎的財政収支黒字化目標「撤回を」提言へ 消費税5%も
  2. 06/27

    ・老老介護深刻に 昨年65歳以上54.7% 75歳以上同士が初の3割超 <1>
    ・英、閣外協力で合意 メイ政権北アイルランド地域政党と EU離脱で温度差も
    ・「ボーナスは貯蓄」43%(消費者庁) 物価上昇を警戒、消費節減
  3. 06/28

    ・米車販売、金融から逆風 ローン焦げ付き急増 <2>
    サブプライム貸倒率1割に迫る リース終えた中古車流入で新車販売不振
    ・銀行の国債保有最低に 3月末前年比17%減 地銀、当面の利益優先 <3>
    ・アマゾン、国内1兆円超 小売り大手の半数減収2年連続
    ・スコットランド 議席大幅減で独立の住民投票棚上げ
    ・フェイスブック利用者20億人 サービス開始13年
  4. 06/29

    ・ユーロ上昇、127円台 1年3カ月ぶり水準に 一時1ユーロ=1.13ドル
    デフレ懸念和らぎ欧州緩和「出口」を意識 国債利回り上昇加速
    ・ファーウェイ(華為)が日本に大型工場 中国勢で初、技術と人材取り込み
    ・中国消費2021年に680兆円に拡大 アリババ予測 品質重視の中間層成長
    2016年比39%増の6.1兆ドルと予測 日本は18%増の3.3兆ドル
    ・稲田防衛相発言、政権に打撃「自衛隊としてお願い」 都議選影響、自民は懸念
  5. 06/30

    ・アジア投資銀最高格付け 米ムーディーズ、資本の厚さ・運営評価 <4>
    「Aaa」海外での低金利資金調達、低金利融資に向け前進 「後ろ向きな米に変化も」
    ・米、台湾に武器売却 トランプ政権で初 中国大使が批判
    ・米、中国の銀行に制裁 北朝鮮の資金洗浄に関与
    ・消費支出5月0.1%減少 1年9カ月連続のマイナス 物価は0.4%上昇
    ・税収、成長頼みに限界 昨年度、所得・消費・法人そろって減 <5>
    ・メルケル氏、米政権を批判「保護主義は過ち」 G20(ハンブルグ)控え圧力
    ・「イスラム国終わった」イラク首相 象徴モスク奪還で声明
  6. 07/01

    ・米韓首脳会談(30日ワシントン)米「FTA再交渉」提案 <6>
    対北朝鮮「断固たる対応」同盟の重要性確認
    ・国民年金納付率昨年度65% 実質(免除・猶予含む)は40.5%
  7. 07/02

    ・米韓首脳会談 トランプ氏、経済で実利狙う
    対北朝鮮、過度な強硬論封印  文氏「南北対話に支持得る」 FTA再交渉には慎重な対応
    ・企業の現預金 世界で膨張 10年で8割増の1350兆円 有望な投資先なく

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