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週間国際経済2023(10) No.344 04/02~04/08

今週のポイント解説 04/02~04/08

需要と供給

激動する需給関係

第2回目の授業の基礎知識パートでは、需要と供給の法則について学びました。ちょっと退屈な内容でしたよね。でも今世界は、この需給関係が激動する渦中にあります。

コロナ禍の行動制限下では、多くの財・サービスの消費が「蒸発」と形容されるくらいに減りました。当然その分野の生産も萎縮し、需要も供給も小さくなりました。例外もありました。そう、マスクなどは急増する需要に供給が追いつかなくて、びっくりするくらい高価なものになりましたよね。まさに希少性です。

そしてパンデミックが落ち着きを見せ始めて経済が再開されと、それまで抑制されてきた需要が一気に爆発します。リベンジ消費とか呼ばれていました(変な言葉です)。でもそれに供給が追いつきません。すると全般的に物価が上昇し始めます。そこにウクライナ戦争が始まり、石油、天然ガス、穀物の供給が急減したものですから、世界は戦後かつて経験していないほどのインフレーションに襲われました。

こうした大きな流れを頭に置きながら、最近の特徴的な動きを観察してみましょう。

原油減産

4月2日、OPECプラスが5月から世界需要の1%に相当する日量110万バレル超の原油の減産を決めました。OPECというのは中東産油国中心に結成された石油輸出国機構で、「プラス」のおもな加盟国はロシアです。減産というのは供給を減らすわけですから、需要が一定ならば原油価格は上がります。

原油価格はコロナ禍の行動制限による需要の急減で大きく下がりました。さらに脱炭素の動きが加速し、化石燃料に対する投資も縮小し、もう「座礁資産」だとも言われていました。それが経済再開で需要が回復したところにウクライナ戦争が始まり、米欧はロシアの石油を輸入しない(禁輸)という制裁に踏み切りました。つまり世界市場への供給が減少するのですから、一気に原油価格は高くなりました。

その後、OPECプラスが減産幅を少し小さくしたり(供給増)、中国のゼロコロナ(需要減)などで原油価格は落ち着きを見せていました。しかし今回の追加減産(供給減)でまた高騰し始めています。

4月4日付の日本経済新聞記事の見出しに「産油国、米との分断鮮明に」とあることにも注目しましょう。アメリカは世界最大の産油国ですが、脱炭素の影響でシェールオイルの生産が低迷しています。そこでインフレを抑制するためにサウジアラビアなどに増産を要求しているのですが、逆に減産を追加されてしまいました。サウジアラビアとイランの国交正常化を中国が仲介したことに見られるように、中東へのアメリカの存在感はかなり薄くなっています。また増産することでプラスメンバーのロシアの生産枠を奪わないように配慮しているとも言われています。こうした国際政治の動きもまた、原油需給に影響しています。

エネルギー安全保障という意識から、世界の(残念ながら日本を除く)再生エネルギー導入は加速しています。IEA(国際エネルギー機関)によるとウクライナ戦争前の2021年の1.4倍になっています。だからこそサウジアラビアなどは脱石油依存経済を目指して、今のうちに高い原油価格で稼いでおこうという算段です。

半導体不況

4月3日付夕刊に「サムスン営業益96%減。半導体不況が直撃」という記事がありました。韓国のサムスン電子は半導体メモリーで世界の40%近いシェアを持っています。コロナ特需(特別な需要)がありました。パソコン、タブレット端末、ゲーム機など。こうした需要が一巡し(欲しい人はそれをだいたい買った)、そこに行動制限が解除されたので需要が急減し、在庫が積み上がった(過剰供給)ということです。

4月11日付夕刊には「パソコン世界出荷29%減」という記事がありました。この1~3月の出荷台数ですが、前年同期比の減少はもう1年続いています。なかでもアップルの減少幅が40.5%と最大だったそうです。ぼくもオンライン授業のためにノート・パソコンを買いましたが、同じ頃にずいぶんたくさんの人が買ったでしょうが、こういったものは一度買うとしばらく買いませんよね。反動がきつい分野です。

「シリコン・サイクル」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。もともと半導体は約4年おきに需要の山と過剰供給(在庫)の谷を繰り返します。設備投資の規模が大きく技術革新のペースが早いためだと言われています。そこに特需があったわけですから、山も高くなれば谷も深くなります。

また、供給網(サプライチェーン)が複雑なのも半導体の特徴です。半導体製造装置から半導体製造、部品の組み立てから最終製品、これがいくつもの国をまたぎます。そうしたことからも米中デカップリング(切り離し)の影響も大きく受けます。

半導体不況は長引く見通しです。そして半導体は「川上」、つまり消費財生産に先行する分野ですから、このシリコン・サイクルの谷は世界経済の先行指標になってきました。心配ですね。

アメリカの雇用

コロナ禍の行動制限からの経済再開で需要が回復し供給が追いつかないからインフレになる、でもそのうち生産も回復するだろうから、それは一時的なものだという見方がありました。しかし、そこにウクライナ戦争という供給制約が起きました。

さて、アメリカは食糧もエネルギーも輸出国ですが、インフレの粘着性がすこぶる強いのです。その背景には労働市場の需給逼迫があると見られています。コロナ禍でアメリカは戦後最大の失業率を記録しました。経済再開後、企業の求人(労働力を買う=需要)は急増しましたが、それに求職(労働力を売る=供給)がなかなか追いつかず、人手不足で賃金が高騰し、これが物価を押し上げてきました。

今年1月の失業率は3.4%と半世紀ぶりの低水準になり、3月の3.5%も完全雇用(働く意思のある人はすでに職に就いている)状態です。平均時給も3月は2月より0.3%増え、前年の3月より4.2%も伸びています。日本の実質賃金は2月もマイナス2.6%と11ヶ月連続で減少し、消費もコロナ前の2019年2月より4.4%減っていることと対照的ですね。

ただ、ここにきてアメリカの労働市場も落ち着きを見せ始めています。2月の非農業部門の求人件数(需要)は993万件台、前月から63万件以上減り、減少は2ヶ月連続です。ピークは昨年3月の1203万件でしたから、需給逼迫はかなり緩和してきていると言えるでしょう。

アメリカは、この粘り強いインフレを止めるために大幅な利上げを連続してきました。物価と金融政策については第3回の授業で説明しますが、ようは金利を上げることで需要を抑え込もうとしているわけです。

とはいえ、金利が高すぎると、物価を抑える前に景気が悪くなりかねません。シリコンバレー銀行の経営破綻に見られるように、金融市場も不安定です。なんとかアメリカの人手不足が解消して、利上げが収まってくれないかと、アメリカのみならず世界が注目しています。

日誌資料

  1. 04/02

    ・日中、危機管理を重視 外相4時間協議 懸案巡り応酬
    ・チャットGPTに警戒論 イタリア一時禁止 米で差し止め要請
    データ収集の手法が不適切 個人情報保護に関する法律に違反 公平性に欠ける
  2. 04/03

    ・欧州首脳、相次ぎ訪中 仏大統領ら習氏と会談 ウクライナ巡り協力模索 <1>
    ・英の産業競争力低下鮮明 自動車生産、66年ぶり低水準 EU離脱で魅力薄れる
    ・トランプ氏支持率上昇 大統領選候補 起訴後にリード拡大
    ・OPECプラス追加減産 来月から日量110万バレル超 NY原油8%高 <2>
    米との分断鮮明に ロシアに追い風、インフレ懸念再び
  3. 04/04

    ・フィンランドのマリン首相辞任 議会選挙で敗北 NATO加盟負担重く <3>
    ・中国特許 EV・再エネ向け革新電池(ナトリウムイオン) 世界の過半 日米に先行
    ・韓国輸出3月14%減 6ヶ月連続減少 半導体など主要品不振
  4. 04/05

    ・フィンランドNATO加盟 NATO西側国境の大部分に 対ロシア抑止力大幅強化
    ・蔡英文台湾総統、中米2ヵ国を訪問 「断交ドミノ」阻止へ瀬戸際
    ・トランプ氏、無罪主張 起訴の34件、罪状否認 「来年選挙への介入」主張
    ・米求人、2ヶ月連続減 2月993万件 市場予想下回る <4>
    ・中国、磁石技術禁輸へ EV部品 レアアースで主導権
  5. 04/06

    ・金融不安 長期化の恐れ 米融資残高2年ぶり減少幅 不動産投資、危うい膨張
    ・蔡英文総統、マッカーシー米下院議長と会談 米、台湾との絆を強調
  6. 04/07

    ・仏中首脳会談(6日北京) 習氏、マクロン仏大統領らを厚遇
    経済で接近 企業トップ50人同行 中国から航空機160機受注
    ・フォンデアライエンEU委員長、習氏と会談 台湾問題で応酬「現状変更に反対」
    ・消費支出、4ヶ月ぶり増 2月1.6% 旅行支援が押し上げ 2019年2月比4.4%減
    ・サムスン営業益96%減 1~3月 半導体不況が直撃 <5>
    ・実質賃金2.6%減少 2月 光熱費抑制で下落幅縮小 <6>
  7. 04/08

    ・米雇用、23.6万人増に鈍化 3月、失業率は3.5%に低下
    ・少子化対策、財源に保険料引上げ浮上 世代の偏り是正課題
    ・トヨタEV26年150万台 世界販売、米で生産
    ・中国軍、台湾周辺で演習 10日まで、蔡氏訪米に反発
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