「 週間国際経済 」一覧

週間国際経済2015(33)  11/11~11/17

※コメントはこちらから記入できます。

今週のポイント解説(33) 11/11~11/17

なぜ国会を開かないのか

1.憲法違反

 政府・与党は12日、野党が求めている臨時国会の年内召集を見送る方針を決めました。秋の臨時国会を開かないのは10年ぶりのことです。この時期の国会は予算編成との兼ね合いから「臨時」とはいえ定例的なものです。また憲法第53条では衆参いずれかの議院の4分の1以上の議員から要求があった場合には臨時国会を開かねばならないと定められています。したがって今回の国会召集見送りは憲法違反にあたります。

 管官房長官は20日の記者会見で「要求があっても開かなかった例もある」と指摘しています。つまり憲法違反の前例があるからまた違反してもいいと開き直るのです。10年前というと2005年の郵政解散の後ですが、このときは臨時国会ではありませんでしたが特別国会が開かれています。

 そういえば今年はまだ通常国会が1回あっただけですよね。気になって調べてみると、やはり1年間で1会期しか国会が開かれなかったことは戦後初のことです。安倍政権の国会軽視、憲法軽視は止まることを知りません。違憲の疑いが強い安保法案を強行可決したばかりです。もちろん国会議員も政府も憲法を遵守しなくてはならないと定められています。しかし違反した場合の罰則はありません。そんなこと、憲法は想定していないのですから。

2.開かない理由は外交日程

 たしかにこの秋以降の外交日程は「目白押し」(公明党山口委員長)です。11月にはG20とAPEC、12月にかけてCOP21、ここまではわかるとして12月中旬にインド訪問、12月末にはイラン訪問が計画されているようです。次は日本経済新聞(11月13日付)からの抜粋です。

 召集見送りには「首相官邸の強い意向があった」との声が与党内にある。(中略)自民党幹部の一人は「年内召集をしないため、首相官邸が『どんどん外交日程を入れろ』といっている」と語っていた。

 つまり国会召集見送りありきの外交日程だということなんですね。それでも憲法違反をする理由にはなりません。それぞれの外交日程は3日間ほどのことですし、すべての国会審議に首相が出席しなくてはならないわけではありません。

3.開くべき理由は山積

 まずは何と言っても安保法制でしょう。先の通常国会での政府答弁は重ねるほどにしどろもどろで何を言っているのか理解できませんでした。各種世論調査でもおおむね80%が「政府の説明は不充分だ」としています。安倍首相自身もそれを認め、「今後とも国民の理解を得るべく努力したい」と言明していたのです。なのにどうして国会召集を見送るのでしょう。

 TPP関連文書も公開されました。説明すべきことは数多ありますが、少なくとも「聖域5項目」は国会決議事項です。これに反したものであるかどうかは国会でなければ明らかにできません。

 まだまだあります。それも日本の将来にとって極めて重要な案件ばかりです。「原発再稼働」、「辺野古基地移設」。他にもマイナンバー制や軽減税率など、政府方針が不明瞭すぎて国民のあいだに動揺が走っているではありませんか。

 そして、経済政策です。本来この時期の臨時国会は予算編成に直結するものだけに徹底的な国会議論が必要です(⇒ポイント解説31「経済政策なき日本経済」参照)。このまま行けば今年一度きりになる通常国会では安保法案一色でした。もちろんそれは重大な課題でしたが、一方でアベノミクス3年間の検証が必要な国会でもありました。しかし一切その議論がなかったと言うべきでしょう。

 それなのに国会が終わるとすぐさま、安倍首相は勝手に「アベノミクスは第2ステージに移った」と表明しました。まさかこれで「第1ステージ」についてはもう何も話すことはないとでも考えているのでしょうか。仮にそうだとしても、「一億総活躍社会」だとか「新3本の矢」だとか、意味のわからない話について意味がわかるように国会で説明することは内閣総理大臣として当然の責務ではないでしょうか。

4.開かないのか開けないのか

 例えば、今回の改造で初入閣した高木復興相には政治資金報告書をめぐる疑惑が浮上しています。これが国会で追及されれば政府にとって大きな打撃にはなるでしょう。しかし比較にならないほど大きな課題が、追及されるべき問題があると思います。

 国会召集が見送られた4日後、内閣府は7~9月のGDP速報値を発表しました。前期比0.2%減、年率換算で0.8%減です。前期4~6月期もマイナス成長でしたから、これで2期連続のマイナス成長となります。2期連続マイナス成長はアメリカやEU主要国では自動的に「リセッション」つまり景気後退とみなされます(日本では何期マイナスが続いても内閣府が認定することになっていますが)。これがアベノミクス3年間の成績簿だと言うことができるのです。

 この時期、機械受注は10%減少しています。これはリーマンショック直後以来の減少幅でした。GDP内訳でも設備投資が2四半期連続で減少したことが大きな特徴です。日本経済新聞ですら「景気回復シナリオ誤算」という見出しを付けるほどです。そう,異次元緩和は投資も消費も刺激することはなかったのです。

 断っておきますが、大企業(上場企業)の売上高経常利益率(企業の稼ぐ力)は来年3月期には9年ぶりに過去最高を更新する見通しです。大企業は利益を上げながらも投資を先送りしているのです。

 さらに地味な記事でしたが、日銀が引当金を積み増しする方針を固めたと報じられました。異次元緩和からの出口(緩和の終了)をにらんでのことです。日銀の国債購入が終了すれば国債価格は下落し(金利は上昇し)、日銀の利払い負担が膨れあがるだろうことを想定したものです。その結果、日銀の国庫納付額は数千億円減額されることになります。いうもでもなく歳入の減少は財政赤字拡大を加速させます。アベノミクスとは何だったのでしょうか。

5.いつ国会を開くのか

 年明け1月4日に通常国会を召集するつもりです。それまでに「一億総活躍社会」対策をまとめ、今年度補正予算の編成に着手するつもりです。これらはその通常国会の目玉となり、夏の参議院選挙(衆参同時もあり)でアピールできる、つもりです。

 莫大な利益を上げながら投資も賃上げも渋る大企業には法人税率引き下げがプレゼントされます。TPP対策として政府の国産米買い上げは現行の1.6倍に増やされ、それでも農家の収入が減れば保険で補償し、その保険料を政府も負担するそうです。歳入は減り歳出は増えるバラマキです。厚労省などは「新3本の矢」のひとつ出生率1.8達成のために男性の不妊治療に助成金を検討しているそうです。そんなことで少子化が止まると考えているのでしょうか。もちろんそんなことは考えていないでしょう。名目が何であれ医師会に対する助成が増えればいいのでしょう。

 野党再編どころかズタズタです。もし臨時国会が開かれていたら、TPPであれ「カネと政治」であれマイナンバー制であれ、とりあえず野党が政策的に連携できる課題が生まれます。ところが年明けの通常国会でバラマキ予算が提出されてこれに反対すれば、野党は不利な選挙戦を強いられます。「安保法制撤回」だけでは戦えません。

 アベノミクスの失敗やTPP合意によって追い詰められた有権者が「一億総活躍社会」予算を目当てに投票する、そんな不条理なことがあっていいものでしょか。

6.最悪のシナリオ

 戦後はじめてだろうが10年ぶりだろうが「国会が一回なくなっただけでしょ」、「どうせ何やってるのか茶番だし」、本当にそうでしょうか。

 安倍政権はこれまで、アベノミクス→解釈改憲→消費増税延長→安保法制→一億総活躍社会というように経済で多数を獲得しその多数で憲法を切り崩してきました。来年の参議院選挙で与党が圧勝すれば、いよいよ憲法改正の前提条件が整うことになります。

 「憲法?」、「安保法制でもう第9条は骨抜きでしょ」。そうではありません。まだ安保法制撤回の法的余地は充分にあります。そして安保法制運用には国会の承認が大前提となっています。自民党憲法改正草案の第98条と99条には「国家緊急権」が明記されています。これは政府が「非常事態」において内閣の権限を強化し、法律と同等の効力をもつ政令を出すことができるとされています。

 戦前、世界で最も民主的といわれたワイマール憲法がどのような経緯でナチスによって無力化されたのか。急いでその歴史に学ばねばならない日本になってしまうとは。

日誌資料

11/11
・耕作放棄地課税1.8倍 農水・総務相検討
 TPPへ競争力 移転促し農地バンクに集約して大型化を後押し
・厚労省 「一億総活躍社会」へ男性の不妊治療に助成検討、年度内にも

11/12
・ミャンマー政権交代へ スー・チー氏政権へ始動 半世紀超す軍主導に幕<1>
 現大統領「平和的に委譲」 スー・チー氏頼み危うさ 地政学の要衝、綱引き再び
20151111_01
・中国デフレの足音 製品価格下落、生産や投資不振 景気下押しの悪循環
 個人消費は底堅く小売売上高は11%増 新車販売も10月は11%増
・TPP対策 農家の収入、保険で補償 保険料は国も負担

11/13
・臨時国会10年ぶり見送り 首相、外交を優先 野党「憲法違反だ」
 憲法53条、衆参いずれか4分の1以上の議員の要求で国会召集の義務
・機械受注10%減(7-9月)リーマンショック後以来のマイナス幅
・VW、強まる中国依存 合弁2社10月新車販売プラス 世界販売は3.5%減 <2>
20151111_02

11/14
・同時テロ128人死亡(13日パリ) 「イスラム国」犯行声明 
 仏大統領「戦争行為だ」国家非常事態宣言
・ユーロ圏、年率1.2%成長(7-9月)先行きには不透明感 <3>
20151111_03

・東南ア財政綱渡り 原油安景気に税収減 景気対策で債務膨張 <4>
 通貨下落、歯止めなく マレーシア年初から2割、インドネシア・タイも1割近い下落
20151111_04
・日銀、引当金積み増し年数千億円、国庫納付は減額 緩和出口にらむ

11/15
・国際通貨基金(IMF)準備通貨(SDR)に人民元採用を提案 <5>
 30日の理事会で最終決定 人民元、国際通貨へ一歩
20151111_05

11/16
・米、仏と空爆強化 対「イスラム国」同時テロ受け 米ロ、シリア停戦協議入り
 ユーロ、対円で6カ月半ぶり安値 一時1ユーロ=130円台後半
・日本GDP実質0.8%減(7-9月年率)2期連続マイナス 景気回復シナリオ誤算
 米欧なら自動的に「景気後退期」 企業、設備投資先送り 外需落ち込み警戒 <6>
20151111_06

11/17
・G20「テロと戦う」特別声明 連帯確認し閉幕(トルコ16日) <7>
20151111_07

・米イージス艦 中国海軍と合同訓練へ上海に寄港
・ドバイ原油40ドル割れ 7年ぶり
・自民がTPP対策案 国産米買い上げ1.6倍
・日本上業企業の利益率が9年ぶりに過去最高を更新する見通し

※PDFでもご覧いただけます
ico_pdf

※コメントはこちらから記入できます。