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週間国際経済2023(33) No.367 10/25~10/31

今週のポイント解説 10/25~10/31

世界がポスト・バイデンに備えだした

経済好調でも評価されないバイデン氏

FRBが1年半で5%以上金利を上げても、アメリカ経済は好調です。消費が底堅く、7~9月の実質経済成長率は4.9%と主要国で抜きん出た高成長です。それでもバイデン政権の経済政策運営に対する支持率は37%、これはトランプ政権で最低だった45%を下回っています(10月27日付日本経済新聞夕刊)。記事では物価高や金利高による負担増が背景だと書いています。

たしかに市民は経済統計で政策を評価するわけではありません。生活実感、そしてこれからの見通しですよね。ぼくはアメリカ国民の先行き見通し予測は間違っていないと思います。経済の体温計、長期金利5%近辺というのは発熱外来ものだと書きました。これから住宅や自動車購入のローンを組むのは控えがちになるでしょう。すると景気は冷えます。

もっと大きな問題は、これからの借入れではなく、これまでの借金です。11月8日付日本経済新聞夕刊に、アメリカで7~9月にクレジットカードの支払い延滞が8%を超え、これは12年ぶりの高さだという記事がありました。年齢別では30~39歳で深刻な延滞が急増しているということです。自動車ローンを抱える世代、同時に学生ローンを背負っている世代です。全米で4000万人以上の借り手がいる学生ローンは、コロナ禍で3年半の支払い猶予を受けていましたが、10月から返済が始まりました。

クレジットカード大手は「滞納と焦げ付きは24年半ばから後半に向けてピークを迎える」と見ています。そうした予想から、金融機関は貸し付けに慎重になるでしょう。それがまさに大統領選挙のヤマ場と時期が重なるのです。バイデノミクス(バイデン政権の経済政策)が共和党からの格好の攻撃対象となることは間違いありません。そしてこの30代、大卒者の多くは民主党支持者だと見られていますから、バイデンさんは敵からも身内からも批判されながらの選挙戦ともなりかねないのです。

訴訟されても起訴されてもトランプ支持は固まる

妙な話です。トランプさんは連邦議会襲撃など4つの刑事事件で起訴されています。またそれ以外に裁判所は、トランプ一族が企業の資産価値を偽って不正に銀行から有利な条件で融資を受けたとして、11月6日にNY州地裁にトランプさんを呼び出しています。裁判所はこの金融詐欺をすでに認定しています。そんな人物が来たる大統領候補だなんて、アメリカでも初めてですし、他の民主主義国でもなかったと思います。

トランプさんは、これらの裁判沙汰は「政治的な魔女狩りだ」と司法を批判しています。なるほど、裁判は政治利用だと言うためにいち早く立候補を表明したんだなとぼくは思いますが、アメリカ世論は違います。じつはトランプさん、起訴されるたびに共和党内支持率が上がっているのです。11月7日時点の世論調査で平均支持率が58%と2位の候補の13%を大きく引き離しています。また次もバイデン対トランプになった場合、トランプさん46%、バイデンさん44.6%とわずかですが上回っているのです。

さらに揺れる激戦区

2大政党のアメリカ政治ですが、民主党支持者と共和党支持者の数は拮抗していて、両者の対立と分断はかつてないほど深くなっています。また民主党(ブルー)支持者が多い州と共和党(レッド)支持者が多い州があってそれぞれの地盤となっています。11月5日配信ロイターでは「赤い州は一段と赤く、青い州は一段と青く」と分析し、はやり注目するべきは「揺れる州(スイングステート)」で、22年の上院選では得票率差が5ポイント以内だった接戦州は6州だったといいます。

また民主党対共和党とは言っても、人口比で3割対3割といったところで、残り3割は無党派層です。やはり若くなるほど無党派の比率は高くなります。つまりバイデンさんがトランプさんに勝つためには、若い無党派層、とくに激戦区でのかれらの支持がとても大切だということになります。

そして今、バイデンさんの民主党支持層内部で、さらに若い無党派層の中で、ましてや激戦区において、揺れて、揺れて亀裂が生まれている理由のひとつが、バイデンさんのイスラエルに対する一方的な肩入れなのです(⇒ポイント解説№364「パレスチナ問題、アメリカの内政と外交」参照)。

今、アメリカの若者たちのなかでパレスチナに連帯する声が広がっています。ユダヤ人のなかでもイスラエルのガザ侵攻に対する批判の声が高まっています。マイノリティ社会でもガザ侵攻が「弱いものイジメ」だという同情が強くなっています。

それまでは、バイデン民主党は、例えば人工妊娠中絶や同性婚といった人権問題、地球環境問題やウクライナ支援といったリベラルな政策に求心力がありました。これでじゅうぶんにトランプさんと戦える陣営を構えることもできたでしょう。しかし世論は移ろいます。脱炭素は、ストで存在感を示した自動車会社労組にとって支持できるものではありません。そしてデトロイトがあるミシガン州は「スイングステート」で、アラブ人が多い州です。一方、ウクライナ支援にも「疲れ」が隠せません。そうするうちにバイデンさんはなんと、トランプ政策に寄り始めています。

その典型は「国境の壁」です。ブルームバーグ通信によると(11月10日配信)、スイングステートでも南部のジョージア州やアリゾナ州などでは、ウクライナや中東といった外交上の危機より、メキシコ国境警備を最優先事項とみる有権者が3倍もいるというのです。バイデンさんは公約で、トランプさんの売りだった「国境の壁」は作らないと言っていたのに、10月5日、新たに約32キロの「壁」を建設すると発表しました。こうしたブレも支持率に影響するでしょう。民主党内の左派から中道までまとめていた理念が崩れています。 実際に、10月初めの世論調査では、スイングステート6州のうち5州でトランプ氏が支持率でリードしています。

薄れるアメリカ外交の存在感

専門家ならば驚かないでしょうが、ぼくが驚いていることは、イスラエル首相のネタニヤフがアメリカの言うことを聞かなくなっていることです。バイデンさんは当初はイスラエルに「自衛の権利と責務」があるとして、イスラエルの過剰な報復を後押ししたのですが、内外の批判からネタニヤフのやり過ぎを抑えにかかり出しました。ブリンケン国務長官が11月3日、イスラエルに再訪問して攻撃の一時停止を働きかけても無視、11月6日にバイデンさんがネタニヤフに電話をして「人道目的での戦闘の一時停止」を求めても「受け入れない」とはねつけました。

たとえ世界で孤立しようともアメリカはイスラエルと共にある。軍事的にはもちろん経済的にも。国際政治的にも、例えばアメリカは国連安保理で80回以上拒否権を行使していますが、その半分はイスラエルに関するものでした。そのアメリカの国務長官ならまだしも大統領直々の求めを「受け入れない」とは。

驚いたあとに、ふと思ったのです。ネタニヤフはアメリカを袖にしたのではなくバイデンの先を見ていると。トランプさんとなら、なんでもできるからです。国連管理のエルサレムにアメリカ大使館を移し、国連決議違反のヨルダン川西岸への入植を容認し、はてはゴラン高原をイスラエルの領土だと宣言する。そんなトランプなら、と。

ネタニヤフ政権の支持率はイスラエルで急落しています。もともと30%にも足りませんでした。ネタニヤフは汚職の疑惑で公判中です。首相を辞めれば有罪でしょう。だから司法「改革」などを強行して、これを批判する大規模デモに包囲されていました。アメリカ国内のユダヤ人社会でもネタニヤフはもちろんイスラエル建国も支持していない勢力があるのです。そんなネタニヤフの肩を抱き固く握手するブリンケンとバイデン。にもかかわらずその要求は無視される。いや、無視することでネタニヤフはポスト・バイデンに賭けているのではないかと。もしそうならば、ガザ侵攻はパレスチナ人を追い出すまで止まらない可能性があります。

プーチンさんも習近平さんも、そしてEUも

ウクライナ軍が領土奪還に向けた反転攻勢を開始して5ヶ月、領土奪還はロシア占領地全体の0.3%程度にとどまっている、11月3日付の日本経済新聞です。しかもアメリカの対ウクライナ支援は底をつき始めています。トランプさんになれば、おそらく打ち切られるでしょう。それをプーチンさんは待っているのかもしれません。

バイデン政権のイスラエル支援は、中東の軍事的緊張を高め、アメリカ軍はこれに備えなくてはなりません。同時にウクライナ支援も継続しなければなりません。これでアメリカは二面対応です。これが三面、つまり「台湾有事」がこれに加わればたいへんです。だから中国との関係を改善しておかなくてはなりません。今ホワイトハウスは総動員で米中首脳会談実現に奔走しています。

そんなアメリカを同盟国は(賢い同盟国は)見ています。興味深かったのはドイツ外相が国連総会出席のために訪米したとき、かれはまずテキサス州の知事(共和党)と会い、そしてワシントンで共和党のマコネル上院院内総務と会談しています。共和党とのパイプ固めでしょうね。11月8日、欧州委員会はウクライナのEU加盟交渉の開始を勧告しました。あきらかに急いでいます。アメリカのウクライナ支援打ち切りを恐れているように見えます。また、オーストラリアのアルバニージー首相は11月6日訪中し、北京で習近平さんと会談しました。モリソン前政権で最悪の関係となった中国との貿易を正常化すると確認しています。こうした動きはもちろん、来年春の台湾総統選挙にも影響が現れるでしょう。

アメリカの自国第一主義復活を、あるものは待ちわび、またあるものは恐れ備え始めています。バイデンさんは混乱し迷路に入り、しかもタフではなさそうです。バイデンさんは、自分が造った観念的な仕切りで世界を整理整頓しようとしてきたように見えます。その仕切りのひとつが、どこでもいつでも繰り返してきた「法の支配」と「国際法の遵守」でした。ところがパレスチナ問題に関しては、その影も形も見えません。そうりゃそうでしょう。イスラエルがそれに反しているからです。

バイデンさんの観念的な仕切りは世界を整理することはできませんでした。しかしトランプさんは、あの人は、散らかすだけ散らかして、いっさい片付ける様子もないのです。もし復活すれば、自国第一主義はいっそう極端なものになるでしょう。国際協調には見向きもしないでしょう。対立と分断と利己主義で支持を固めようとするでしょう。

パレスチナ停戦は今、最優先の世界的課題です。ここで述べたようなポスト・バイデンがどうだこうだと語るまでもなく、ガザで起きている「何人であろうと、どんな理由があろうと、たとえどんな罪を犯していたとしても、そんなこと人間に対してやってはいけない」という根源的な感覚だけに依拠しても、ぼくたちは即時停戦を求めるべきなのです。

日誌資料

  1. 10/25

    ・岸田首相「所得税減税を含め早急に検討」、5兆円規模
    所得税減税4万円 低所得者世帯に7万円
    ・日本のGDP、4位転落 ドイツに抜かれる IMF今年予測 長期低迷映す
    ・日本車、岐路の世界戦略 最大市場・中国で失速 三菱自が生産撤退発表 <1>
    北米・東南ア、EV挽回急ぐ
    ・米株、金利高で割高感 投資妙味薄れ株安圧力に 長期金利5%の重圧
  2. 10/26

    ・ガザ搬入物資、平時の4% 食料・水不足に拍車 医療崩壊の危機 <2>
    ・中国、資金の流出加速 9月8兆円超過、7年8ヶ月ぶり水準 人民元に下押し圧力
    ・フォード・労組、暫定合意 スト終結へ 協約更新「25%賃上げ」
    ・EU、風力産業に金融支援 安価な中国製流入、業界から不満 競争阻害か調査視野
    ・バイデン氏、イランに「反撃」警告 中東米基地攻撃、関与の見方
  3. 10/27

    ・世界の中銀、利上げ転機  平均金利、物価と逆転 <3>
    欧州中銀、11会合ぶり見送り
    ・米GDP、4.9%増 7~9月、個人消費けん引
    ・偽情報対策、EUとX火花 中東情勢緊迫で拡散やまず <4>
    対応調査、罰金も視野 欧州撤退論も浮上
    ・米下院議長内紛抱え船出 共和党保守派ジョンソン氏選出 ウクライナ予算、溝深く
    ・ガザ戦闘一時中断を要請 EU、首脳会議で合意 人道回路確保求める
  4. 10/28

    ・ガザ地上戦「拡大」 イスラエル軍、空爆強化 ネット・電話遮断も
    ・国連総会 人道的休戦、決議を採択 米反対、日本は棄権
    ・米中、来月首脳会談へ協力 高官合意 意思疎通で衝突回避探る 関係安定を重視
    ・マスク氏、ツイッター買収1年 私物化に高まる批判 万能アプリ、道半ば
  5. 10/30

    ・米大統領、イスラエルに人道尊重念押し 地上作戦拡大で
    ・内閣支持33%、発足後最低 所得減税「適切でない」65% <5>
  6. 10/31

    ・所得税減税は「一時的措置」政府経済対策 賃上げ税制、対象拡大 <6>
    ・長期金利上昇一時0.955% 10年ぶり水準 日銀政策修正にらむ 円一時148円台
    ・イスラエル、ネタニヤフ首相「停戦ない。停戦はテロへの降伏だ」
    ・米自動車スト、ビッグ3終結へ GMも暫定合意 労組会長「正式に停止」
    ・米共和党、イスラエル予算発表 内国歳入庁予算削減充てる 財源で溝
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