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週間国際経済2018(17) No.144 05/28~06/03

今週のポイント解説(17) 05/28~06/03

ポピュリズムと異例の金融緩和

1.ポピュリズムとは何か?

「ポピュリズム」、世界情勢を見るうえで今やこれが最重要キーワードのひとつであることに異論はないだろう。しかし、残念なことにその学術的定義に「合意」があるとは思えない。一般に「大衆迎合主義」と訳されるのだが、これはいわばメディアの「合意」にすぎないと思う。この合意に従うと、歴史的にあれもこれも、ここに分類されてしまい、ますます学術的定義からは遠のく。

だから、「今流行りのポピュリズムとは何か」と、その範囲を絞りたい。じつのところぼくは、「反多元主義」という定義が一番しっくりきている。民主主義の基本は多元主義だが、その民主的手続きの結果、反対物が生まれているのはなぜだろう。

かれらの共通点は、「反なになに」だ。反エリート主義、反エスタブリッシュメント、反移民、反EU、既存のメディアも攻撃する。これらはすべて「自分たちだけが人民を代表している」という反多元主義の表れだ。だから外に敵を作ってこれをこれを激しく攻撃するという特徴を共有している。

問題は、どうしてこうした人たちが支持を得て、果てには政権を担うようになっているのか、というところにある。ぼくは、政治学はまったくの素人だ。でも国際金融については素人に毛が生えている。そこで、こう考えた。

「今流行りのポピュリズム」に共通しているのは、世界金融危機以降の経済的格差に対する人々の不満を背景にして、異例の金融緩和による財政規律の緩みがもたらす財政バラマキを使って支持を得ているのだと(この意見に興味のあるかたは、お手数だが昨年12月の「減税を喜ぶ民主主義」シリーズ⇒ポイント解説№125126、今年2月の「適温経済なんて続かない」シリーズ⇒ポイント解説№130‐132をぱらぱらと読んでみてほしい)。

「適温経済」、ゴルディロックス経済と呼ばれる「低インフレ・低金利」という「ちょうどよい温度のスープ」は、財政支出拡大の誘惑を促した。トランプさんは大型減税と大規模公共投資という公約によってまさかの勝利を得た。安倍さんは2度の消費税率引き上げ延期という公約によって衆参絶対多数を得た、というように。

ましてや緊縮財政をEUから課せられてきたイタリア国民の中には、怒りに似た不満が溜まっていた。既存政党は、ユーロを離脱するわけにはいかないからこれも仕方のないことだと考えていた。しかし、ポピュリストたちは違う。違うと主張する。

ポピュリストたちは、異例の金融緩和にどっぷり浸かって、「利息はとても小さいのだから、もっと借金してもだいじょうぶだ」と考えている。

2.イタリアの混乱

3月のイタリア総選挙で、ポピュリズム政党を自称する「五つ星運動」と極右を自認する「同盟」という新しい二つの政党が躍進し、連立政権を組んだ。こうしたいわゆる「非リベラル」政党の台頭は、イタリアだけではない。昨年10月のチェコ、12月のオーストリア、今年4月のハンガリー。共通しているのはEUの財政規律は押し付けだとする反発だ。ポーランドなどはその傾向が著しい。

さてイタリアでは、連立政権の首相指名を大統領が拒否し、あわや再選挙かと大騒ぎとなった。この政治混乱をきっかけに、世界の金融市場が大きく揺れた。きっかけに、というのは、すでに欧州景気にはブレーキがかかっていたことが背景にあるからだ。ユーロ圏の経済成長率は1年半ぶりの低水準に減速し、輸出も落ち込みが目立つようになっていた。

そしてこのイタリア新連立政権も、とても安定しているとは思えない。どうして連立できるのか不思議なくらいだ。「五つ星」は南部シチリアなどの低所得者を基盤としている。だから最低所得制度や雇用促進センターの整備などを訴えた。一方「同盟」は北部欧州より豊かなロンバルディア州を地盤として、富裕層優遇型の大型減税と治安のための移民排斥を主張している。

その結果として共通しているのが財政支出拡大であり、反EUなのだ。でも、イタリアの緊縮財政をひとえにEUの押し付けだとするのは意見が分かれるところだ。イタリアの公的債務は2.2兆ユーロ(約280兆円)、対GDP比130%、ユーロ圏最大というよりもアメリカ、日本に次ぐ規模だ。バラマキをする余地は小さいと思う。

そこに財政支出拡大なのだから、当然イタリア国債は売り圧力にさらされる。10年物国債利回りは一時3.4%と4年2か月ぶりの高さになった。さらにイタリア主要銀行の不良債権比率はユーロ圏平均の2倍以上の大きさだから、債権者である日米独の銀行株が売られた。こうしてイタリアの混乱は、一気に国際金融市場のリスクとして浮上したのだった。

3.不透明感増すECBの「出口」

皮肉なことに、ECB(欧州中央銀行)のドラギ総裁はイタリア人だ。それは関係ないが、2009年末のギリシャ財政危機が南欧危機に広がって以降現在に至るまで、ECBは大量の南欧国債を買い入れて危機を乗り越えてきた。

そして今、巨大な財政赤字を抱えるイタリアが財政バラマキを実行しようとしているのにも関わらず、イタリア国債利回りは危機当時の半分以下だ。それもECBが金融緩和を継続しているおかげだ(別にイタリアのためにやっているわけではないが)。

そのECBは、金融緩和政策の「出口」を予定していた。9月末から段階的に国債購入を縮小し、年内には量的緩和を終了すると見られていた。そこにイタリアの混乱が起きてしまった。

予定通り量的緩和(国債購入)を終了してしまえば、イタリア国債の暴落の材料になりかねない。ユーロ圏第3位の経済規模を持つイタリアだから、そうなれば通貨ユーロ売りの材料になることは間違いない。だからといって緩和終了を先送りにすれば、ECBがイタリアの反EU政策を財政面から支えることになってしまう。

このECBが抱えるジレンマがまた、国際金融市場のリスクとなってきているのだ。

4.それでも世界は協調できない

イタリア政局もリスクだ。ECB金融政策の見通し不透明感もリスクだ。さらにアルゼンチン、トルコといった新興国通貨危機もまたリスクだ⇒ポイント解説№142。でもぼくが最大のリスクと見ているのが、6月8日からカナダのシャルルボワで開かれたサミット(G7首脳会議)の混乱だ。

ここでもまた、親玉級のポピュリストであるトランプさんがかき回していった。トランプ政権の一方的輸入制限措置を巡って、サミットは1対6、つまりアメリカとその他G6(日、英、仏、独、伊、加)との間で貿易を巡る亀裂が深まった。

トランプさんは、「G7は関税をゼロにし、非関税障壁もゼロにし、補助金もゼロにすべきだ」と要求し、応じない国とは「貿易しない」と放言し、そのまま退席して米朝会談のためにシンガポールに飛び立ってしまった。さらに驚くべきことに、首脳宣言が発表された直後、「これを承認しないように指示した」とツイッター1本でひっくり返してしまった。

サミットでは南欧、新興国の金融危機についていっさい触れられることもなかった。先進主要国とされる7か国の首脳が集まってもなにもできない、このネガティブなメッセージが市場に送られたのだ。
 

トランプ政権と「五つ星運動」を、同列に語ることは正しくない。だからポピュリズムの定義について合意することは難しいのだ。しかし、異例の金融緩和が財政規律を軽視する政権を生み、かれらの内向きの政策が国際協調をおおいに損ねている。それが「今流行りのポピュリズム」がもたらしている深刻なリスクだと、そう合意することはできるのではないだろうか。

日誌資料

  1. 05/28

    ・欧州景気にブレーキ 企業景況感4か月連続悪化 米保護主義に警戒感
    ・内閣支持率横ばい42% 加計説明「納得できず」74%
  2. 05/29

    ・伊政局、欧州の火種 新首相候補に親EU派指名 議会は反発、再選挙も<1>
    伊国債に売り圧力 市場、放漫財政を強く警戒
    ・米利上げ3%天井論 来年打ち切る可能性 円高進めば日銀出口影響
    ・求人横ばい1.59倍 4月、失業率も2.5%を維持
  3. 05/30

    ・伊混迷、世界市場に波及 NY株、一時500ドル安 <2>
    政治混乱 景気減速 不良債権 「南欧売り」の様相に 米金利急低下、日米銀行株下げ
    ・外国人、単純労働に門戸 建設や農業、介護 25年に50万人超
    日本語苦手でも資格 政府「骨太の方針」に明記
  4. 05/31

    ・スマホ市場 飽和鮮明 18年世界出荷 2年連続減へ 高機能化で価格は上昇
    ・民泊正式解禁、価格競争促す ホテル宿泊料、昨年度9%低下 訪日客増加後押し
    ・インド首相全方位外交 国際秩序混乱好機に 中ロと関係構築
    ・インドネシア、再び利上げ 3年半ぶり利上げもルピア相場なお軟調
  5. 06/01

    ・米鉄鋼関税に一斉報復 EU・カナダ 摩擦激化の様相 <3>
    EU、米をWTO提訴も紛争処理機能は不全状態
    ・米朝会談へ「実質的進展」 ポンペオ米国務長官、高官協議に手応え
    ・ロシア外相訪朝 金正恩氏に訪ロ要請 「段階的非核化支持」表明
    ・インド7.7%成長に加速(1-3月) 消費・投資けんいん
    ・防衛費「GDP2%」自民が提言(長らく1%目安) 膨張呼ぶ米の風圧
    ・FRB「ボルカー・ルール」緩和提案 米金融規制、簡素で明確に
    ・日欧、米輸入制限を批判 共同声明「安保で正当化できず」
  6. 06/02

    ・米雇用改善、利上げ後押し 5月22.3万人増 賃金上昇は勢い欠く <4>
    ・出生数最少94.6万人 17年、出生率1.43 2年連続低下 晩産化傾向一段と
    最多1949年269万人の3割 1971~74生「団塊ジュニア」の出産ピークアウト
    ・先進国少子化再び G7出生数、昨年800万人割れ 支援縮小、「反移民」
    ・中国、関税下げ炊飯器など1449品目3600億円 日欧に恩恵
    ・南北閣僚級会談 開城に連絡事務所合意
    ・米朝首脳会談12日開催 トランプ氏、再び設定 複数回の可能性言及
  7. 06/03

    ・米、非核化一括合意求めず 「交渉の始まり」 会談実現を優先 <5>
    朝鮮戦争終結も協議 経済支援は日中韓で

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