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週間国際経済2019(9) No.177 03/26~04/01

今週のポイント解説(9) 03/26~04/01

消費税の「問いかた」

1.「消費税についてそんなふうに考えたことがなかった」

4月5日に新学期が始まった。甲南大学での前期担当科目は「現代アジア経済Ⅱ」(約150名)と「世界と経済」(約70名)だ。ぼくはどの授業でも30分ほどを「週間国際経済」の解説に使う。またどの授業でもリアクションペーパー(授業に関する小レポート)の提出を求める。今回最もコメントが多かったのが「イギリスのEU離脱」と「消費税率引き上げ」に関するものだった。

イギリスのEU離脱については4月12日にひとつの期限を迎えるから、その結果を見てからのほうがいいだろう。そこで今週は消費税について考えることにしよう。

もちろん、というか、学生たちのなかで消費税率引き上げに反対する割合は圧倒的多数だ。まず景気への悪影響を心配する。次に税の使われ方に懐疑心がある。また、なんであれ余分に支払うのが嫌だという気持ちもある。

ぼくは授業のなかで消費税については10分も喋っていない。賛成とも反対とも言っていない。それでも学生たちの多くは強い関心を持った。その関心は、消費税について「そんなふうに考えたことがなかった」ことからきている。

すべての学生が「財政学」を履修しているわけではない。だから「税」については一般的な若者たちと大きな認識の差はないだろう。だから数ヶ月後の増税を前に、基礎的なことを整理しておく必要があると思った。

2.税と民主主義

議会制民主主義とは「税の集め方とその使い方を納税者の代表が議論して決める」ということだ。徴税は国家権力によるもので、市場メカニズムによるものではない。だから議会(国会)で民主的に決める。

税金なんて少ない方がいいに決まってる、そういうものではない。財政政策は大きくふたつに分かれる。「高負担(高い税率)・高福祉(厚い社会保障)」と「低負担・低福祉」だ。だから「低負担・高福祉」を唱える政党なんて嘘つきに見えるのだが、これは減税で景気を良くして、その結果税収を増やすという論法だ、とここではかばっておこう。

さて、「税の集め方」には大きく2種類ある。ひとつは法人税や所得税のような「直接税」と、もうひとつは消費税(海外の付加価値税)のような「間接税」だ。なにが間接かというと負担者と納付者が違うから間接なのだ。コンビニで買い物をした人が税を負担するが、これを納付するのはコンビニだ。

この間接税(消費税)の特徴は、納付者の対象が広いことと税収が景気に左右されにくいことだ。所得が限られている高齢者からも徴収されるし、企業収益や個人所得の増減に影響されにくい、いわゆる「安定財源」というものだ。

だからこれは社会保障費に充てられることが多い。ヨーロッパなど付加価値税率(消費税率)が20%前後の国が多いが、これは教育費や医療費などは社会が面倒をみることで、貧富の差を平等化しようという考えによる。

「高負担・高福祉」(大きな政府)と「低負担・低福祉」(小さな政府)のどちらがいいのか、それは選挙で決める。だから二大政党というのは、これらどちらかのありかたを基本にすると考えていい。税とは「国のかたち」のなのだ。

3.財政赤字

日本には1989年まで消費税がなかった。高度経済成長期には直接税の税収も増えていくし、人口年齢構造も若いので社会保障費支出も少なくて済んだ。でも高度成長が終わり、少子高齢化が見えてくると新たな財源が必要になってきた。それが消費税だった。でもはじめから反発が強かった。増税は選挙に不利だから政治家たちは避けたがる。

だから今の消費税率8%というのは、先進国(OECD加盟国)で最低水準だ(アメリカは州によって税率が違う)。世界で最も少子高齢化、つまり税の負担者が減り社会保障費が増えている国なのにだ。

当然、財政赤字は増える。1000兆円を超えた。GDPが500兆円を超えたところだから、その2倍を抱えている。そんな国は他にない。赤字を埋めるために国債を発行し、この国債を銀行や保険会社が買うから、国は国民に借金をしていることになる。でもこの借金を返済するのも結局は国民の税だ。国の収入源が他にないからだ。

財政赤字が膨らむ原因は大きくふたつ、ひとつは社会保障費の膨張ともうひとつは借金返済額の膨張だ。消費税を2%上げると5兆円近く税収が増える。この半分を社会保障費(子育て、介護、年金)に使って、半分を借金返済に充てましょうというのが「税と社会保障の一体改革」(2012年民主党・自民党・公明党の3党合意)というものだった。これはおおむね高い支持を得ていた。

社会保障費を受給する高齢者にも「受益者負担」を増やしてもらい、借金を少しずつでも返していって、次の世代が過重な負担を強いられないように、社会保障制度を持続できるようにということだからだ。

不思議なことに、その消費税率引き上げに高齢者の過半は支持しているのに、若者の大半は反対している。

4.税で票を買う

消費税率引き上げは2015年10月に8%から10%に引き上げると法律で定められていた。安倍内閣はそれを2014年11月と2016年6月の2度延期すると言い出して、それを公約にして自民党は1回目の延期で衆議院選挙、2回目の延期で参議院選挙で大勝した。

あらかじめ決められていた増税の延期は実質的には減税になるから年間5兆円近く、2019年10月までの4年間で20兆円近い減税だ。さらに安倍政権は法人税率も2012年の37%から2018年には29%台にまで引き下げているから、凄まじい減税政権だ。支持率が高いのもうなづける。

さらに2017年の衆議院選挙では、いきなり幼児教育無償化が自民党の公約になった。消費税率引き上げの増税分のうち、財政赤字削減に使うはずだったものをこちらに回すというのだ。

そして今回の参議院選挙を前に、消費税率引き上げとともにキャッシュレスの買い物には最大5%のポイント還元を税金でやりますと言い出した。

みんな、喜んでいる。なにか施しを受けた気分になっているならば、残念ながらそれは錯覚だ。将来の増税や社会保障費削減分を今使うだけの話なのだから。

5.財政再建と金融緩和

安倍政権は基礎的財政収支(年度の歳出はその年の歳入でまかなう)の2020年度黒字化を公約にしていた。でもこれは、あっさりと5年も先送りにされた。まだ借金を増やすつもりだ。

近年、各年度の財政赤字額は減っているが、それは借金の利息が小さくなっているからだ。国の借金は国債の発行でまかなうのだが、年度の発行額以上を日銀が買っている。だから国債価格は安定し、利回りも小さくなっていることによる。

でも、もう日銀もこれ以上国債を買えなくなってきている。買う人がいなくなれば国債価格は下落し、利回りも高くなる。ということは、借金の利息が大きくなる。財政赤字はそのとき、急増する。

さきにみたように、日本の累積財政赤字は1000兆円を超えている。でも民間の金融資産は1800兆円を超えている。だからだいじょうぶだ、という話をする人たちがいる。なにが、だいじょうぶなんだろう。

この民間金融資産は、人々が将来のために節約して貯めてきたものだ。預金金利はつかないし、昨年なんか株価が下がって損もしている。でもせっせと貯めている。なにも政府の借金返済に遣うつもりなんか、毛頭ない。将来の消費のためであって、将来の増税に備えているわけではない。これをあてにされたんじゃ、たまったものではない。

貯蓄を増やすから消費は増えない。消費が増えないから投資も増えない。そうしているあいだに、少子高齢化はぐんと加速していく。

6.目先の心配、将来の不安

消費にかかる税金が増えれば、消費が萎縮するのはなりゆきだ。また消費税は逆進性といって所得が低い層の負担が大きいという問題が指摘される。税は消費税だけではないのだから、富裕層の資産や大企業の内部留保金にも相応の分担をしてもらえばいいという意見もある。

いずれにせよ、どこかで増税は避けられない。景気がよくなれば税収が増えるとかいうのだが、実際のところ日本の景気は拡大しているが税収は増えていない。

とにかくみんな、当面の増税は先送りして欲しい。選挙が近い政治家はもちろん、大企業の偉い人たちも自分の定年のあとのほうがいい。大学3年生が、「なんでよりによって自分が就活のときに!」と嘆くのも当然だ。

そりゃ、目先の心配はリアルだ。若年層の多くが消費税に反対するのには理由がある。でもその若者たちが心配しているのは就職だけではない。育児、介護、医療費、年金、そう「将来」なのだ。

税のありかたは「国のかたち」だ。学問とは「問いかたを学ぶ」と読む。正解を覚えることではない。今、経済学を学ぶ皆さんの「問いかた」がどう鍛えられるのか、それがこの国のかたちを決める。

日誌資料

  1. 03/26

    ・イスラエル主権米承認 トランプ氏、ゴラン高原巡り署名
    1967年第3次中東戦争でシリア領を占領 国連は認めず撤退を求めている
    ・英、離脱案で「人気投票」 議会あす実施 首相主導権奪う狙い
    英政府EU案に代わる複数案への議員の支持動向を探る
    北アイルランドとアイルランドの国境問題が解決するまでイギリスがEU関税同盟に留まる
  2. 03/27

    ・EU、ファーウェイ排除せず 5G採用で 各国判断、監視は強化
    ・AI人材、年25万人育成 政府、大学に対応促す 全学生に初級教育 <1>
    ・米の原油生産45年ぶり首位 昨年、ロシア、サウジ抜く <2>
    エネルギー覇権転換点 外交・通商トランプ流加速 相場の振れ幅拡大
  3. 03/28

    ・19年度予算成立 過去最大101兆円 消費税対策に2兆円 <3>
    首相「増税延期はリスク」 方針変更なら混乱 景気減速、経済対策で対応
    2014年11月→衆院解散総選挙 2016年6月→参院選
    ・米経常赤字10年ぶり水準 昨年8.8%増の54兆円(4885億ドル) <4>
    貿易赤字は10.4%増、輸出が低迷 米「双子の赤字」懸念再び ドル信認に傷
    財政赤字は4年連続で1兆ドル超え 減税で消費刺激 輸入拡大
    ・月末のEU離脱回避 英、具体策なお決まらず メイ首相「離脱案承認で辞任」
  4. 03/29

    ・英離脱、メイ首相辞任カード不発 残り2週間、見えぬ選択肢 <5>
    ・新興国の通貨安トルコが拍車も アルゼンチン、ペソ最安値圏 ブラジルも株安
  5. 03/30

    ・英離脱案、三度目の否決 次の期限は来月12日
    英・EU離脱案から「政治宣言案」を分離、「離脱協定案」だけを諮り反対多数
    ・ファーウェイ最高益 2018年12月期決算 売上高、通信会社向け減少
    スマホなど消費者向け45%増 基地局など通信会社向け1.3%減 米の排除呼びかけ影響
    ・韓国、来年から人口減に 2065年46%が高齢者 日本抜き先進国首位
    ・米1月物価指数、1.4%上昇に 2年4カ月ぶり低水準
  6. 03/31

    ・保育所新設3割減 大手6社19年度 保育士不足響く
    「待機児童ゼロ」(政府目標20年度末)暗雲
  7. 04/01

    ・外国人材受け入れ拡大へ 改正入管法きょう施行 5年で34.5万人見込む
    ・ローソン全店セルフレジ 4月開始、10月までに1万4000店導入
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