「 週間国際経済 」一覧

週間国際経済2024(8) No.382 03/24~04/02

今週のポイント解説 03/24~04/02

GAFA vs. 国家

「独占の堀」

ぼくのスマホはiPhoneではない。別にiPhone以外の何かを選んでいるというわけでもない。初めがそれだったという刷り込み効果のようなものだろうか。ディスプレイが割れたとかバッテリーの寿命が尽きたとかで機種変更するときも、基本操作が大きく変わることを嫌がっていただけなのだが、でも不思議なことに「次はiPhone」が候補に上がっていた。

なぜだろう。広告を通じて新型iPhoneの性能などに魅力を感じていたわけでもないのに。そうだ、ほんの数回のことだが、知人から「iPhoneじゃないんですか」と言われた記憶が消せないでいた。なにかぼくのスマホがiPhoneでないことで他人に迷惑をかけたかのような空気感、そして気になるのがメール文末の「iPhoneから送信」という署名、これはなんなんだ。ぼくは好むと好まざるとに関わらず、いつの間にか巨大なアップル経済圏の外で暮らしている非効率的な市民となっているのではないか、まさか、でも不安なときもある。

アメリカ司法省が3月21日、アップルを提訴してくれた。「してくれた」はおかしいか。関連記事で面白かったのが3月23日付朝日新聞の「独占の堀」という言葉、初めて聞いた(読んだのだが)。2022年のこと、アップルのティム・クックCEOにiPhone利用者から、他社製スマホを使っている母にビデオを送れないとクレームがあったかして、そのときクック氏は「お母さんにiPhoneを買ってあげてください」と答えたというエピソード、それがアメリカ司法省の訴状にあるというのだ。つまり同省は、アップルが他社の製品のサービスとiPhoneとの連携を故意に弱めていると指摘、「独占の堀」で消費者を囲い込んでいると結論づけたというのだ。

同日付日本経済新聞では、ガーランド司法長官が記者会見で「アップルは自社製品をよくするのではなく、他社製品を悪くすることで独占力を強化している」と述べたと紹介している。ぼくはとても面白かった。それはまるでアメリカの貿易政策そのものではないか、と。それはさておき、その朝日新聞の見出しは「GAFA vs.国家鮮明」だったり、日本経済新聞の見出しが「国家 vs.4社全面対決」だったりして、なんともおおぎょうなのだ。

そうアップル提訴は、GAFA提訴の大トリだった。すでにアメリカ司法当局は2020年10月にグーグル(アルファベット)、同年12月にフェイスブック(現メタ)、そして2023年9月にはアマゾンを提訴している。なるほど「全面対決」だ。

この背景に、日本経済新聞はアメリカ大統領選挙があると指摘している。いわく「消費者や中小企業の支持を得たい狙いがあるのは明白だ」と断言している。つまりこれらは政治的な裁判だという見立てだ。おそらくぼくの勉強不足なのだろう、「へえ、そうなんだ」と驚いている。たしかにバイデン民主党左派にはGAFA解体論が根強い。アプリ開発者たちはアップルの決済手数料の高さに不満があるだろう。でも政治的意図で始まった裁判ならば、ハードルは高いことだろう。しかも法的根拠は「反トラスト法」だ。さっそく日本経済新聞は「市場独占、立証に壁」と指摘している。

というのも、訴状によるとアップルのスマホは米国内市場の65%以上のシェアを持っていると主張しているが、分母を世界市場にすればそのシェアは2割程度にとどまるからだという。このネタも、ぼくにはとても面白い。だってアメリカは、出荷台数でアップルを抜いていたHUAWEI(ファーウェイ)のスマホをアメリカ市場から締め出している。つまり、自ら競争を排除しておきながら、それでシェアを伸ばしたアップルを「非競争的」だと訴えているのだから、どうもつじつまが合わないのだが。さすがはアメリカ、そこは平気なんだと笑えるのだ。

こうした話は意外と大きな流れになっていて、例えばフロリダ州で14歳未満のSNSアカウント取得を禁じる法案が成立し、こうしたSNSの年齢制限は米50州中35州に広がっているという。そして、やりそうでやらなかったTikTokの禁止がなんと今回は提出から1週間あまりでアメリカ下院を通過した。TikTokは長く中国共産党への個人情報流出の懸念で叩かれてきたが、なんといっても若者たちの支持が高く禁止には踏み切れなかった。それが、突然だ。その背景として4月11日付日本経済新聞では、「若者の間で反ユダヤ主義が急拡大したのはティックトックが原因ではないか」という疑念から、パレスチナ寄りの投稿がイスラエル寄りの投稿の数十倍あると分かったというのだ。これが一気に議会を動かしたということらしい。

「事前規制」

どうも、アメリカの巨大テック企業規制はきな臭いようだ。と、思っていたらEUが3月25日、同月7日に本格的運用が始まったばかりの「デジタル市場法(DMA)」に違反した疑いでアップル、アルファベット、メタの3社について調査を始めたと発表した。DMAは、自社サービスの優遇や自社ソフトの抱き合わせ、あるいは個人データの不正利用などを禁じ、重大な違反には年間売上高の最大10%(繰り返せば20%)の制裁金を科すというものだ。

ここでもやはり問題にされているのは、アルファベットとアップルともにアプリ配信サービスの「開放」が不十分だということだ。2社はスマホOS市場を寡占してアプリ配信で他社の参入を禁止・制限してきた。グーグルは検索サービスで自社の買い物などの検索機能を優遇している可能性があるとみて調査対象としたということだ。

このDMAで特徴的なことは、あらかじめ企業に求める行動を示す「事前規制」だということだ。従来の「EU競争法」(独占禁止法)などの枠組みでは、問題が起きてからそれを止めさせたり罰したりする、つまり「事後規制」であるわけだが、それではデジタル市場の目まぐるしい技術進歩に追いつかない。そこであらかじめ「してはいけないこと」や「こうあるべきこと」を定め、その秩序の中で適正な競争を促し、寡占を抑止しようとしている。

3月27日付日本経済新聞では、これが技術革新やビジネスモデルを縛る恐れもあり、かつ訴訟に発展すれば対立が長引くことも予想されると、心配している。

とはいえ、欧州委員会が決めた規制だ。よく「ブリュッセル効果」と呼ばれるが、EUの規制は、たとえ国際的協定や条約がなくても世界市場に広がる、いわゆる「規範形成力」があると言われている。EU以外の、例えば日本などでも同じ発想で巨大テック企業を規制し始めるならば、いつしかそれが規範となるというわけだ。

巨大すぎるだけでなく「進みすぎる」ことへの警戒

誰のための規制なのか。その規制は、その目的に対して効果的なのか。難しい問題だ。たしかに1970年代のアメリカ司法省によるAT&T(American telephone& telegraph)訴訟と、その結果としてのAT&T分割がなければ通信料金がこれほどまでに安くなることはなかっただろう。巨人IBMが司法省との裁判で傷ついた間隙を縫ってマイクロソフトが台頭し、そのマイクロソフトが他社ソフトの組み込みを司法省と和解することなどで、グーグルなど多くの新興企業がチャンスを得た。

巨大であることすなわち罪なのか。自由で競争的な市場のためには、極論すればどのような法的根拠であれ国家は独占と争い、その裁判が長期化することによって寡占は崩れ、新たな競争を生んだ。それは否定できない歴史なのかもしれない。

しかし今、例えば新聞見出しでも、「国家 vs.」とか「テック支配」とか「膨張テック看過せず」とか。なにか規制する側の政府が追い詰められている空気感があると思うのは考えすぎだろうか。

前例としてあげたAT&TとかIBMなどとは比べものにならないほど、今日のテック企業は巨大だ。iPhone利用者は20億人を超え、フェイスブック利用者は30億人ともいわれる。この地球規模の市場に、生成AIが産まれた。

どうなるのだろう、これからの社会は。かれらはいったい何ができるようになるのだろう。そのとき政府は、いったい何ができるというのだろう。仮に政府が彼らに対して無力になってしまったなら、いったい何が消費者を保護するのだろう。

日誌資料

  1. 03/24

    ・モスクワテロ133人死亡 揺らぐ統制 「イスラム国」声明、11人拘束
    プーチン氏、ウクライナの関与示唆 ウクライナ側は否定
  2. 03/25

    ・為替介入「本気度」試す市場 止まらぬ円安152円台も予想 <1>
    円のキャリー・トレード:低金利の円を借りて高金利通貨で運用
  3. 03/26

    ・EU、米テック3社調査(アップル、アルファベット、メタ) <2>
    アップル;外部からアプリ取得に制約 グーグル;検索サービスで自社サービス優先表示
    メタ;広告目的に同意すれば無料で提供
    膨張テック看過せず 「競争阻害」の新法適用 事前規制で寡占抑止 技術革新縛る恐れ
    ・ガザ即時停戦初採択 国連安保理、米は棄権
    イスラエル、政府代表団の訪米中止 ガザ停戦決議、棄権に反発
  4. 03/27

    ・SNS、14歳未満は禁止 フロリダ州 アカウント取得規制、保護者同意も
    米35州、子どものSNS制限へ 心の健康懸念、中毒性に警戒広がる 実効性に課題
    動画の自動再生を「中毒性のある機能」 自殺要因や児童ポルノ 表現の自由の問題も
  5. 03/28

    ・円安、34年ぶり水準 一時151円97銭 業績追い風、消費には影 <3>
    米欧と金利差 個人が海外投資(NISAなど) 企業は海外利益を現地再投資
    ・人民元安、円売り招く ドル買い取引に円活用
    人民元売り・円買い→円売り・ドル買い
    ・AI技術、米が寡占 半導体・クラウド、シェア7~9割 日本勢、深まる依存 <4>
    GPU(画像処理半導体)はエヌビディア1強 クラウドサービスは米3強で世界の3分の2
  6. 03/29

    ・NY株、最高値更新 5ヶ月連続上昇 堅調な景気追い風
    ・中国、豪産ワイン関税撤廃 19年に1200億円輸出、昨年は99%減
    ・求人倍率低下、2月1.26倍 失業率は2.6%に上昇 人手不足映せぬ政府統計
    ハローワークの求職当たり求人 ハローワーク経由就労は全体の15% 民間経由は39%
  7. 03/30

    ・FRB「利下げ急がない」 議長、米経済の成長強調
    ・外国人材、広がる定着の道 特定技能5年で82万人 企業の待遇改善が不可欠
    19~23年計画の2.4倍増に 分野も自動車運送業、鉄道、林業、木材残業追加して16に
    専門学校の就職、大卒並み選択肢 文科省、186校の留学生認定
    ・ロシア、ウクライナ民間電力大手を攻撃 発電能力の50%喪失
    ウクライナ軍、弾薬「ロシアの6分の1」
  8. 04/01

    ・円相場「急変なき介入」警戒 市場、防衛ライン見据える 変動幅より「152円」
    ・景況感、4期ぶり悪化 日銀3月短観 大企業製造業、ダイハツ生産減響く
    ・トルコ地方選、野党勝利 高インフレ、エルドアン長期政権に不満
  9. 04/02

    ・イスラエル、シリア首都でイラン大使館に空爆 革命防衛隊幹部が死亡 <5>
    イラン「国際法違反」と報復示唆 中東緊迫増す
※PDFでもご覧いただけます
ico_pdf