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週間国際経済2019(13) No.181 04/23~05/02

今週のポイント解説(13) 04/23~05/02

データ社会の市場と人権

1.第4次産業革命とニュー・モノポリー

「第4次産業革命」という言葉を初めて耳にしたのは2016年のダボス会議(世界経済フォーラム)だった。その翌年の2017年4月にはアメリカ市場の時価総額トップ5がGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)とマイクロソフトが独占し、「ニュー・モノポリー(新しい寡占)」が指摘されるようになる。

第4次産業革命の源泉は、「現代の石油」と呼ばれるデータであり、このデータの独占がGAFA収益の源泉であり、そこからプラットフォーマーという言葉も生まれた。

グーグルの検索シェアは80%に達し、米デジタル広告費の半分はそのグーグルとフェイスブックに流れ、そのデータを利用するスマホ用OSの世界シェアはグーグル(アンドロイド)とアップルだけで97%、ネット通販市場ではアマゾンが日米欧でトップシェアを握る。データは集めるだけではなく、それらを解析して使えるようにしなければならないが、それを担うのがAI(人工知能)であり、この分野の人材もビッグ5に集中している(2017年7月14日付、2019年4月26日付日本経済新聞など参照)。

つまり第4次産業革命は、それまでの産業革命とは違って、極めて短期間で生産と消費を別次元に移行させ、そしてなにより初めから独占が成立しているところに第一の特徴があるといえるだろう。

したがってその弊害もまた、極めて短期間で問題視され、規制が動き始め、そのモノポリーたちのビジネスモデルには早くも曲がり角が訪れているようだ。

2.規制(公正競争、プライバシー、課税)

①公正競争

4月25日付日本経済新聞によると、日本政府は巨大IT企業に対する規制のうち、公正な競争を求める案をまとまた。例えば、ネット通販モールに出品する中小企業に対し、不利な取引条件を押しつけているという懸念がそれだ。規制案の骨子は、取引条件開示を義務づける新法の検討だ(日誌資料<1>参照)。

すでにEUは、グーグルを3回、独占禁止法(EU競争法)違反で摘発している。今年2月にはドイツが、フェイスブックの個人データ収集に大幅な制限を命じた。

なるほどぼくもそうなのだが、特定の情報サービスを使えば使うほど便利になる。購買も検索も履歴がすぐに出るし、関連情報も提供してくれる。だから、よほどのことがない限り他のサービスには移らない。結果的に競争は阻害される。

しかもプラットフォーマーたちは、その巨大な収益を新興企業の買収資金にあてるから、市場における新しい競争の芽は摘まれてしまう。

②プライバシー(個人情報保護)

ほとんどの情報サービスは無料で利用できる。しかしこの「無料」というのは「対価なし」ということではない。ぼく一人の個人情報など誰の役にも立たないが、これが数千万人ともなれば莫大な経営資源だ。購買、閲覧履歴から位置情報まで、これらが解析されて「ターゲティング広告」に利用される。

しかもこれら個人情報は、ぼくが使っていないサービス企業とも共有される。そのうえ大量に流出されることも度々だ。2018年3月のフェイスブックの個人情報流出問題が潮目を変えた。データ収集の目的を利用者に通知し、個人が「使わせない権利」を行使できるように規制が強まっている。

③課税

資本主義は過去100年、課税と企業の物理的拠点が結びついていた。しかしデジタル企業は店舗や営業所などを設けなくとも、いとも簡単に国境を超えて顧客と向き合う。そこで莫大な利益をあげているのだ。

この問題はずいぶん前から指摘され、2012年にはEUでアイルランドなど低税率国にGAFAなどが利益を集めて税額を圧縮していることがわかった。EUは「デジタルサービス税」の導入を検討したが低税率国の理解を得ることができず、問題視する各国独自課税の検討や、G20などでの議論に委ねている状況だ。

3.独占と競争

モノポリー(寡占)は競争のない状態、ではない。独占と非独占との競争に置かれている。もちろん圧倒的な強者であることには違いないのだが、「優越的地位の乱用」は多くの先進国で法的に禁じられているし、個人情報の保護も急速に整備されてきている。

ひとたび規制の流れが動き出せば、プラットフォーマーたちは収益源であるデータ収集力が衰え、コストは急増する。

そしてモノポリーは、独占と独占の競争に置かれている。今やGAFAのなかの「棲み分け」は崩れ、互いの事業を侵食しあうようになった。5月3日付日本経済新聞では「フェイスブックやグーグル、アップルはいずれもアマゾンの主力のネット小売りに進出。一方でグーグルとフェイスブックの牙城だった広告分野はアマゾンがシェアを伸ばしている」、「動画サービスにはGAFAすべてが参入し、AIスピーカーも4社が市場を取り合う」と紹介している。

さらにGAFAはGAFA外、そう外国企業との競争に置かれている。データが利益の源泉ならば、通信速度は決定的な競争条件のひとつともなる。5G(次世代通信規格)は、第4次産業革命を次のステージに進める中核的技術のひとつだ。

その5Gに関する特許出願数シェアで中国が34%(内ファーウェイが15%)、ついで韓国が25%、対してアメリカは14%に留まることがわかった(5月3日付日本経済新聞)。このままでは5G事業で使わざるを得ない技術の特許(標準必須特許、SEP)を欧米は手放し、中国は特許料を支払う立場から受け取る立場に転ずる可能性が出てきた。

規制コストを背負いながらも、「長期戦に備えるために短期決戦で負けられないのも事実」なのだという(5月1日付同上)。

4.規制と成長のジレンマ

こうした問題を評論するとき、よく出会うのが「規制と成長のバランス」という言葉だ。しかし、おおむねこの類いは「規制を穏やかに」というお願いが込められている。経団連は早くも3月に、「慎重な検討が必要」という声明を発表して政府の規制検討に反発を示した。

こうした圧力は、例えば政府の個人情報保護案から「忘れられる権利」が見送られたことにも表れている。個人が企業に自分のデータを消してもらう権利だ。これはEUの一般データ保護規則(GDPR)に明文化され、カリフォルニア州も新法でこれに続いた。

プライバシー保護という観点からは当然の権利だと思うのだが、なんといっても企業側のコスト負担が大きい。データを集めるのは簡単だが、削除するのは手間がかかるというのは不正コンテンツ監視などもそうだ。

しかし時間の猶予はないと、ぼくは思っている。ただし、データ規制は国際的合意のもとで進めなければならない。ここが難関だ。最も先進的なEUですら内部に不協和音が響き、国際的取り組みは、中国封じ込めに向かう。それでは、動かない。

5.デジタル社会と格差

それでも規制は急ぐべきだ。それほどデジタル技術の進歩は急速で、デジタル解析は驚くほど精密(すぎる)からだ。そして、そのうえに立つ第4次産業革命は社会格差を取り返しがつかないほどにまで拡大する危険性をはらんでいるからだ。

第4次産業革命がそれまでの産業革命と大きく異なっている特徴は、短期間で変化し、かつ初めから独占が形成されていることだと指摘した。またひとつ特徴的なのは、それまでの産業革命は、雇用を増やしたのだ。

また古い資料で恐縮だが、2017年7月15日付日本経済新聞は「置き去りの労働者」という見出しでこう指摘している。「230万人対66万人。(一部省略)ウォルマートとITビッグ5合計の従業員だ。5社が束になってもウォルマート1社の3割に満たない」。「アマゾンの雇用増は小売業の失業増と裏腹だ」。「AIを軸とする第4次革命で少数精鋭の傾向はもっと強まる」。

第1次、第2次産業革命は、生産力の急速な発展に見合うだけの労働者の急増が必要だった。これが、民主主義の基礎となった。孤立しておれば弱者のままの個人が、主権者となった。これが第3次革命から変化を見せ、第4次革命で省力化は加速する。ここにフェイクニュースの大量拡散が重なり、民主主義はさらに蝕まれる。

もうひとつ、どうしても共有したい言葉がある。それは「バーチャルスラム」と呼ばれる、デジタル社会が生み出す新たな貧困だ。AIが個人の信用や将来性を測る「スコアリング」という技術に伴う問題だ。

4月22日付日本経済新聞で紹介されているのはベトナムの融資アプリだ。スマホ料金の支払いやフェイスブックの友人などのデータが900点満点で評価され融資条件が決まるという。世界で銀行口座がない層が17億人いるというが、こうしたスコア融資が新興国で広がっている。

ただ、機械的なデータ分析でいったん低い評価を受けると、あらゆる社会サービスから除外され、その状態からなかなか抜け出せなくなる。その結果、G20 だけでもで5.4億人のバーチャルスラムが生まれるという試算があるという。
 
 

さて、こうしたスコアリングはぼくたちの日常のなかでも、早足で忍び込んできている。EUが昨年導入した一般データ保護規則では、こう定められている。「個人は機械だけに重要な決定を左右されない権利を有する」。第4次産業革命時代の「人権宣言」を起草するならば、そこに必ず書き入れるべき一文だと、ぼくは思う。

日誌資料

  1. 04/23

    ・米、イラン原油全面禁輸 日本などの特例5月2日撤廃 供給源で先高感
    ・先端人材55万人不足 経産相試算 30年、AIやIOT 急増する需要に追いつかず
  2. 04/24

    ・19年度版外交青書 対北朝鮮「最大限の圧力」文言削除
    「北方四島は日本に帰属する」も 日韓関係は「非常に厳しい状況に直面」
    ・ハーレー、米からタイへ移管 対中輸出拠点 欧州向け現地生産も 追加関税回避
  3. 04/25

    ・巨大IT規制多面的に 政府案公表 「忘れられる権利」見送り <1>
    個人情報保護法、利用停止権で対応 成長との両立図る
    ・日銀、緩和継続を明確化 金融政策決定会合「少なくとも来春まで」
    ・ファーウェイ 英が一部容認 5G、携帯大手に配慮(すでに銅製品使用)
    ・テロ未対策なら原発停止 規制委、二度延長許さず 13基に期限迫る
    ・韓国マイナス成長 1-3月0.3%減 設備投資が急減 中国企業台頭も影
  4. 04/26

    ・ロ朝首脳会談(25日ウラジオストク) 段階的非核化を支持 米けん制
    プーチン氏「6ヵ国協議を」に正恩氏は触れず 中ロ首脳、北京で会談(26日)
    ・「一帯一路」首脳会議始まる 「債務のワナ」に対応策 批判受け低姿勢演出
    相手国の財政、持続可能性を配慮 インフラ建設、国際ルール順守
  5. 04/27

    ・米成長率3.2%に加速 1-3月、輸出増が押し上げ 消費減速先行き懸念も<2>
  6. 04/28

    ・日米首脳会談(26日ワシントン) 貿易交渉「早期妥結に協力」 <3>
    合意時期、駆け引き続く トランプ氏「今回合意できないか」 安倍氏「大統領線前に」
    トランプ氏「他国に劣後嫌だ」 自動車数量規制・為替条項、残る不安
  7. 04/29

    ・トランプ氏「日本、対米投資4.4兆円」詳細不明 「大量の防衛装備購入も約束」
    ・アフリカ融資全額保証 政府、インフラ種出 中国に対抗
  8. 04/30

    ・グーグル29%減益(1-3月)増収も市場予想に届かず 広告収入に陰り <4>
    ・サムスン「総崩れ」、半導体64%減益(1-3月) ディスプレイ赤字 <5>
    ・欧州政治、内向き脱せず スペイン総選挙 与党勝利も極右躍進
  9. 05/01

    ・アップル、減収減益(1-3月) 中華圏落ち込み 業績底打ち感も
    ・ユーロ圏、1.5%成長(1-3月年率) 個人消費が堅調
  10. 05/02

    ・イラン原油制裁除外撤廃 米、各国に対応迫る 中国は反発、輸入継続も<6>
    ・ファーウェイ、テレビ参入 年内にも 5G・8Kに対応へ
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