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週間国際経済2020(9) No.220 03/25~04/02

今週のポイント解説(9) 03/25~04/02

コロナとの戦い

1.Common Enemy

マクロンさんもトランプさんも、事態を「戦争」と呼ぶ。だとして、この戦争では人と人は戦わない。敵は新型コロナ・ウイルスただひとつであり、この共通の敵と70億人の「我が軍」が対峙している戦争だ。

マーティン・ウルフ(英フィナンシャル・タイムズのコメンテーター)は、こう書いている。「国家間の連帯を、各国内の連帯と同じくらい強くする必要がある」、「敵意より連帯を、内向きなナショナリズムより世界的な連帯を選ぶか」、「ウイルスとは異なり、人間には選択肢がある。」(4月1日付日本経済新聞、翻訳掲載)。試練にさらされている。

つまり、悪い選択肢もありうるのだ。70億人がバラバラに、あるいは互いに敵対して戦うという選択肢だ。それはウイルスの、選択肢なき自己増殖加速に加担する。では誰がその選択をするのか。ひとりひとりの「私たちとは、すなわち70億人である」という自覚にかかっている。それがパンデミックなのだ。

パンデミックはいずれ収束する。しかしその後の世界について、ぼくたちは選択を迫られる。例えば、地球環境問題だ。21世紀になって、3度目のコロナとジカ熱、エボラ出血熱を人類は経験している。ウイルスは動物から人間に感染する。つまり動物と人間との関係の急激な変化の影響を受ける70億人の選択なのだ。

さて、当面の戦いについて語ろう。ぼくは今回の内容が楽観的にすぎると批判されることを、あえて警戒しない。今、日常感覚が悲観に大きく傾いているなかだからこそ。アランが『幸福論』で語っているように、悲観は気分に属するものであり、楽観は意思なのだ。

2.Stay Home

ウイルス感染の拡大は、人の移動に比例する。ウイルスは、自力では増殖できない。そして新型コロナのあくどさは、症状のない人の感染力があなどれないということだ。

AFP通信によると、3月29日時点で世界で33億8000万人以上が政府による外出制限措置の対象となっており、世界人口の4割超が自宅にとどまるよう迫られている(4月1日付同上)。さてはCGかと見紛うばかりのタイムズ・スクエアやシャンゼリゼ通りの風景は、極度の混乱による極端な秩序だった。

“social distancing”、この味気ない言葉の、しかしその真意は、distance(距離)ではなくsocial(社会)にこそある。距離だけでは秩序を形成することはできない。そこに社会的連帯感があってこそだ。よく言われる「離れて繋がる」ということだ。むしろ今、距離なき社会は連帯感が弱いのだ。

ヨーロッパやラテン・アメリカのコミュニティーで、時間を定めてベランダや窓辺に身を乗り出して歌い、音を鳴らす。隣人が隣人であることを伝えて励まし合う、最前線の医療従事者にエールを送る。罰金(強制)だけではなく、休業および給与補償(福祉)によって支えられているからこそ、社会秩序たりうる。もちろん補償は充分ではない。ただ、納得できるぎりぎりの公平さがあるのだろう。それが、政治だ。

さて国と国とは。「離れて繋がる」ことができるだろうか。

3.国際分業の利益

リーマン危機からの世界経済回復は、善し悪しは別としてアメリカの4兆ドル金融緩和と中国の4兆元財政投資が支えたことは事実だ。しかし、対コロナ戦争は米中貿易戦争と並行している。コロナとの戦いの前にすでに貿易戦争は経済的資源を浪費し、今も疲弊させ続けている。その上にだ、彼らの外交茶番が世界の足を引っ張った。

3月になって米中は互いに互いのメディアを国外追放にした。12日には中国外務省副報道局長が「米軍が武漢にウイルスを持ち込んだ」と言い出した。16日にトランプさんがツイッターで「チャイニーズ・ウイルス」と言い、20日に中国新華社は「トランパンデミック(Trumpandemic)」とやり返す。

ところがこの泥仕合は重篤化しなかった。23日には中国外務省が、米軍ウイルス持ち込み説を「狂った言論」と打ち消した。27日には米中電話会談で、トランプさん「我々は緊密に連携している」、習さん「できる限り支援を提供したい」。その後も中国の感染者発表数が少なすぎるとやらのイザコザがあったが、喧嘩にはなっていない。

今こんな喧嘩をしていたら、トランプさんの選挙に追い風とならないし、中国の国際的イメージをさらに傷つける。言うなれば民主主義と国際世論が、両者を諭したのだ。お互い様の、持ちつ持たれつ。それが、例外なくすべての国の利益なのだから。

感染爆発もピークアウトも、その波は世界同時ではない。波と波の間に、支援できる国が現れる。ニューヨーク州のクオモ知事がアメリカ全土に医療支援を求め、そして「必ずお返しができる」と訴えるように。

キューバや中国は医療チームをイタリアに派遣し、ドイツとスイスは、フランスとイタリアの重症者を国境を越えて受け入れている。その中国やドイツにも第2波感染が避けられないという。今助けなければ、あとで助けてくれる人がいなくなる。

対コロナ国際連帯もまた、資源(戦力)の効率的配分、国際分業の利益なのだ。

4.ワクチン

いうまでもなく、コロナとの戦いの終戦は集団免疫だ。免疫なき感染者を治療しながら、弱毒化させた抗原、つまりワクチンを早く多くの人に投与して免疫を作ることだ。専門家は開発に18カ月だとか2~3年かかるとか言うものだから気が遠くなる。

無理もない。開発から治験、審査を経てようやく製造され、かつ販売規制もかかる。こうしたリスク&ベネフィットをクリアしなければならない。ここにコスト&ベネフィットが追加される。巨額の資金が必要なうえ、感染がいつ終息するかわからないから投資回収の見通しが立たない。また規制は国ごとに違いがあり、手続きが重複するというコスト、そして医薬品一般は、あらゆる製品の中でも最も非関税障壁が高いというコスト。

3月27日付日本経済新聞によると、主要7ヵ国(G7)は、ワクチン開発支援で実績ある国際研究機関(候補はノルウェーに拠点を置く官民連携国際機関)に数十億ドルを拠出する方向で調整に入った。中国やインドなど20ヵ国・地域(G20)とも協力していく方針だという。

素晴らしい。これでかなりのコスト(とくに時間)が軽減される。さらに民間企業との競争によるコスト軽減も期待できる。実際、アメリカ製薬大手のジョンソン・エンド・ジョンソンが3月30日、新型コロナ予防ワクチンの提供を2021年初めにも始めると発表した。治験は9月までに始めるという(4月2日付同上)。

この戦いがいつまで続くかわからないから士気が低下する。いつまで耐えるかわかり始めてきたら勇気が出る。それまでは、人工呼吸器と専門的医療従事者だ。人工呼吸器はドイツの最大級メーカーが年間生産量を4倍にする。稼働が大半停止しているGMもフォードもトヨタも加勢する。おぼろげながら、「人類」が見えてきた。

5.Too Little、 Too Late

せっかく元気が出てきたから、日本のことは書かないでおこうかと迷っていた。too littleといえばアベノマスク1住所当たり2枚だが、このことについてここでは語らない。そう、これは「戦い」ではないからだ。

世界が注目する日本のtoo littleは、検査数だ。韓国とは比べものにならないが、100万人あたりの検査数がドイツの17分の1だ(日誌資料5)。医療崩壊を防ぐためだというのは嘘ではない。人口10万人あたりのICU(集中治療室)のベッド数は、ドイツの4分の1、イタリアやスペインよりも少ない。too littleだ。だから本来重症者以外を退院させて隔離する施設を用意しなくてはならない。too lateだ。

検査はしなくても感染者は増える。感染爆発の前に人の移動制限をしなくてはならない。too lateだ。移動制限をする以上、休業補償や給与補償が必要だが、日本はその財源がtoo littleだ。日本の財政赤字は対GDP比で200%以上ある。世界でも断トツの比率だ。諸外国がGDP比10%の財政出動をしても、とてもそうはならない。アベノミクスは、財政再建公約を先延ばしし続けていた。そこでやっと思いついたのが、「世帯」に30万円。その給付対象世帯はtoo littleだ。しかも自己申告、too lateだ。

話題の「非常事態宣言」については、そもそも改定特措法そのものがあまりにずさんだ。だから効果も疑わしいし、リスクも大きい。しかもそうした「宣言」を用意しながら使わないというマイナスの宣伝効果を発揮している。動けない間に、対策がtoo lateになる。

6.日本こそ国際連帯を選択するべきだ

ぼくはJoJoに安倍さんの前で持ち歌の”Too little,too late”を歌って欲しいと願っている。愛想尽かしの別れ歌だ。ただ安倍さんはともかく、日本が絶望的に手遅れであるわけではないことは、もちろんだ。かりに日本がそうならば、世界も手遅れだ。

孤立してはならない。むしろ国際的連帯を主導するべきだ。クオモNY州知事は絶望していない。NYはアメリカで最初に感染爆発が起きたが、最後ではない。クオモさんは支援を懇願しているのではなく、世界に対してリーダーシップを発揮しているのだ。

日本には、隣人がいる。武漢にも大邱にも台湾にも。壮絶な最前線を戦った医療チームの経験や、検査体制のノウハウや、一時的なピークアウトによって余剰となった医療備品。直ちに彼らに支援を要請し、早期に日本の感染をピークアウトさせ、予測されている中国や韓国の次の感染拡大に対する支援体制を整えるべきだ。

また世界金融危機に備えて、通貨スワップの拡充はもちろん「最後の貸し手」創出による流動性確保、投機に対する金融規制、サプライチェーンの維持保全再建。日本が主導できることはいくらでもある。そして東アジア共同で低所得新興国への支援を強化し、制裁的関税を大幅に引き下げ、世界経済のブロック化を阻止しなければならない。

冒頭のマーティン・ウルフからの引用を追加しよう。「パンデミック後に、以前より悪い世界ではなく、より良い世界を後生に残そうとするか」、「ここはうまく選ぼう」。

その将来の「うまい選択」は、現在の処方の基礎となる。

日誌資料

  1. 03/25

    ・東京五輪21年夏に延期 IOC、首相提案を承認 新型コロナ収束見通せず
    延期コスト最大3000億円 組織委など試算
    ・英、外出禁止強化に転換 脆弱な医療インフラ懸念
    ・インド全土封鎖 首相が演説 新型コロナで21日間
    ・武漢、来月8日封鎖解除 「終息宣言」の布石に
  2. 03/26

    ・米上院2兆ドル対策可決 NY株、1ヶ月半ぶり続伸
    ・日経平均一時900円安 東京都の外出自粛要請で
    ・G7外相会議 最低限の移動確保、実務者間で協議合意
  3. 03/27

    ・G7、ワクチン開発支援 数10億ドル拠出へ調整 G20とも協力
    ・米感染者数、中国抜き最多 世界50万人超す 外出制限20億人に
  4. 03/28

    ・米、企業・個人に安全網 2兆ドル経済対策成立へ 早期回復へ直接支援<1>
    給与肩代わりや家計に現金給付 財政赤字も2兆ドル超へ
    ・GMに呼吸器生産命令 トランプ氏、国防生産法適用 トヨタは増産支援へ
    ・英首相、新型コロナ感染 保健相も陽性 対策指揮は継続
  5. 03/30

    ・米欧工場、半数が停止 中国8割「正常」 来年度計画6割が生産減 <2>
    ・米中韓から入国拒否 政府方針 欧州は英も追加
    ・米行動制限1か月延長 4月末まで 「米コロナ死者20万人も」高官が呼びかけ
  6. 03/31

    ・米家計資産、12兆ドル減 1~3月 リーマン危機超え 消費に打撃 <3>
    ・「中国が偽情報流布」 新型コロナ巡り 米国務長官が批判
    ・韓国、1400万世帯に総額8000億円給付
  7. 04/01

    ・世界人口の4割自宅待機 米、3分の2の州で移動制限
    ・株、リーマン以来の下落率 世界の市場21%(1-3月)
    債券、新たな選別の動き 中央銀行の購入対象か否か
    ・サウジ、減産要請を無視 世界で日量2000万バレル過剰も
    ・GPIF(年金積立金運用)、海外運用に傾斜 為替リスク高まる <4>
    19年度運用実績は約8兆6000億円程度の赤字 損失額最大
  8. 04/02

    ・コロナ検査、世界に遅れ 1日2000件弱、ドイツの17分の1 <5>
    ・安倍首相「緊急宣言」現時点は否定 全世帯に布マスク 政府配布1住所2枚
    ・NY株続落973ドル安 トランプ氏「とても厳しい2週間」発言受け
    ・異業種協力、既存工場を活用 人工呼吸器増産、米が総力 GMやテスラ
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