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週間国際経済2020(5) No.216 02/14~02/23

今週のポイント解説(5) 02/14~02/23

新型コロナ

1.予定変更

今回は「アトランティックの孤立」シリーズの積み残しを書く予定だった。テーマは「ドルとポンド」。まずポンドの孤立について下書きを終えていたところだったが、さすがにもう「コロナ」を避けては通れなくなってきた。新型コロナを懸念材料にして世界的に株価が下落し、コロナはまさに「週間国際経済」を股にかけた最大イッシューとなっている。

そう、ぼくはコロナについて書くことを避けてきた。連日数珠つなぎのように溢れるコロナ関連報道に対して、とても不自然なものを感じていたからだ。新型コロナと国際金融市について書く前に、これまで感じていたその不自然なものについて吐露することにした。だから解説ではない。やはり「雑感」だ。でも亡くなった方も多いのに、雑感は失礼に当たると思い、タイトルからは省いた。

2.武漢・湖北省

自民党の一部保守系議員が「武漢熱」という表現を好んで使っているという。野党議員がこれを「差別的表現だ」と批判していた。たしかに差別を煽ることは厳に慎まなければならないが、同時にこの表現は、現象の本質を矮小化するという危険性がある。そしてこの表現こそ、保守系議員たちが漏らしてくれた政権与党の本音かも知れないと思った。

疫学的知見を一切持ち合わせてはいないぼくですら、ウィルスの脅威は人類社会の歴史とともにあって、共同体の広がりに比例してその脅威は増大してきたことくらいは聞いたことがある。そしてこんにち、世界がグローバル社会だということに異論がある人は希だ。

つまり現代のウィルス感染は、つねにグローバル・イッシューなのだ。それが新型であればなおさらだ。どこの国にも経験が蓄積されてはいない。はじめから、国際的取り組みが求められるはずだ。それをローカルな現象と位置づけることは危険だ。それがMARS(中東呼吸器症候群)命名の教訓でもあったはずだ。

それがどうだろう。メディアも政府も専門家たちも、武漢で発生したコロナを、いかにして武漢に湖北省に、そして中国に封じ込めるか、海外への拡散を阻止するかという議論に染まっていた。そんなことができるとでも、本気で思っていたのだろうか。

政府の対策の基本は、武漢・湖北省への渡航歴あるいは接触者、そんなことが1カ月以上続いた。武漢は人口1100万人を超える中国有数の大都市だ。コロナ感染が発覚した時点ではすでに数百万人が武漢の外に出ていると地元当局者が報告している。中国は年間1億人以上が海外に出る。ぼくはその対策がとても不自然に感じられてならなかった。武漢レッテル貼りは、とっくに手遅れなはずなのに。

2015年に韓国でMARS感染者が急増したが、そのときの反省は濃厚接触者の定義を狭くしてしまったことだった。しかし今回日本では、観光バスの運転手もツアー・ガイドもタクシーの運転手も、武漢、武漢、武漢。その感染経路を何度も詳しく説明されても、それで何が分かる。すでに市中感染は始まっているということ認めたくないのか。さらにダイアモンド・プリンセスは隔離されている、だからまだだいじょうぶだと言わんばかりだ。

そうしているあいだに、感染は世界に広がっていく。韓国の場合は特殊なきっかけがあったとはいえ、イタリアでは一人の感染者から瞬く間に広がり、そのイタリアからの渡航者によって海外に広がる。日本でコロナに武漢・湖北省レッテルを貼っているあいだに、世界ではそれに東アジア・レッテルを貼るようになった。そうしてはじめて日本でも、そんなローカル・レッテルは無意味だと憤慨するようになっていった。

3.コロナ情報

警戒と恐怖は違う。何が違うかと言えば、情報の多寡だ。早期感染地域の情報の量が、対策の成否を分ける。その情報の基礎は母数、この場合つまり感染者数だ。その感染者数は検査をしなければわからない。母数がわからなければ、その毒性(致死率など)も統計的に示すことができない。それが恐怖なのだ。

死者数が同じコロナ系ウイルスMARSを超えたとか、その数字単独では恐怖を拡散させるだけだろう。ぼくはずっと、むしろ身近なインフルエンザと比較して欲しかった。周知のように日本では毎年1000万人以上がインフルエンザに感染し数百人が死亡してる。アメリカでは2500万人から数千万人が感染して1万5000人から4万人以上が死亡している。コロナとは違うと言うのだが、予防策(警戒)はほとんど同じだとも言う。

テレビで見たのだが、あるジャーナリスト(?)が専門家に怒鳴っていた。「インフルエンザと比べないでくれ。インフルエンザには治療薬もある」。まったく的外れなタイミングだったが、ぼくはこう切り返して欲しかった、「そうですよね。インフルエンザには治療薬があってもこの致死率なんですよね」と。

話を戻そう。日本では説明がつかないほど検査数が少ない。だから母数となる感染者数がわからない。だから致死率も重篤化の確率もわからない。ダイヤモンド・プリンセスの中の様子もわからない。部屋に閉じ込められた乗客のスマホ媒介でしかわからない。外国籍の乗客・乗員も多いのに、その家族も日本の対応に任せているのに、日本はその情報を封印する。

統計的母数もわからない、現場の映像も示さない、これを情報操作と呼ばすに何をそう呼ぶのかと思う。でも最近までそれが問題にならない。ぼくはずっと、それが不自然に感じてならなかった。

4.ぼくはコロナなの?

こんなことがあった。ぼくは居酒屋で飲んでいた。隣の席に店員さんが食べ物を運んでいた。隣の席は常連さんらしい、「しばらく顔を見なかったな」。店員さん、「じつはインフルエンザで昨日まで寝込んでまして。やっと熱も下がって元気になりました」。常連さん、「よかったな」。なにが「よかったな」や、ぼくはすぐにお会計を頼んだ。

感染拡大予防の第一は、ウイルス・キャリアの自覚だろう。コロナの場合、潜伏期間が長く症状も出にくいという。ならばこそ早急に取り組むべきは、検査体制の整備充実に違いない。しかし日本ではまさにここが、異常なほどに後手後手なのだ。ぼくはずっと、これはインテンショナルだと疑っていた。また誰かの利益(省益とか)が、検査の民間委託を阻害しているのではと疑っていた。当時、そこを徹底的に追及しないメディアが、不自然に感じてならなかった。

政府補助金などで予算を握られている類いの専門家の話は、情報としての価値が低い。でも数少ない専門家が自らの知見を述べるようになった。専門家だから当たり前なのだが、それが日本では「勇気がある」とか、はては「告発者」扱いされてしまう。

例えば韓国と比べても、なぜ日本では検査数が極端に少ないのだろう。検査機関が限定され(国立感染症研究所とその地方機関)、検査の手順が複雑で(なぜ保健所を通さねばならないのか)、責任が不明確(誰が判断しているのか)だからだ。そんなことがやっと先週あたりから指摘され始めてきた。先日テレビである民間クリニックのお医者さんが、胸のつかえを下ろしてくれた、「政府は感染者を減らすのではなく、感染者数を減らしたいのでしょう」。

なるほど、でも、なぜ?オリンピックのため?株価、景気?どれもこれも感染者「数」が増えると困るから?少し考えればわかるだろう。どれもこれも検査体制が遅れて対策が遅れれば、もっと困るでしょう。北海道は感染者が多く、大阪は感染者が一人だけだからまだマシだという話にはならないでしょう。

やっと政府は基本方針を決めた。ざっくり言えば、重篤者以外は個人(あるいは企業)責任だ。それが具体性に欠けると批判されれば、いきなり学校を一斉休校にと言い出した。それほど重大な局面なのに緊急対策予算は150億円、釣り合わない。

なによりまだ、かんじんの検査体制の抜本的是正が見当たらない。民間委託も保険適用も「これから」だ。突き放されて、みんなマスクを求めて朝から並ぶ。個人責任だというならば責任を取らなければ。ところでぼくは、コロナなの?重症になるまで、誰も教えてはくれない。

5.自国第一主義とコロナ

基本に戻ろう。ウイルス感染はグローバル・イッシューなのだ。だからウイルス対策には国際協調が必要だ。予算も乏しく、さして権威もなさそうなWHO(世界保健機関)にそれを背負わすには荷が重い。各国政府の政治的リーダーシップがこれを担わなければならない。

中国で発生し、日本と韓国で感染が拡大した。望むべきはその日中韓が協力することだ。情報を共有し、共同で分析し、足りない物資があれば分かち合う。渡航はもちろんのこと、生産のサプライチェーンの維持補填についても方針を協議し、その方向性を東南アジアなどとも話し合う。そうした国際協調は情報開示を後退させない(情報を隠蔽させない、操作させない)ためにも有効だ。いつまた「新型」に襲われるかわからない。今回のケースの経験は、そのときの被害を最小化するに役立つだろう。

そんな青臭い理想論、非現実的だ。そうだろうか。新型ウイルスの感染に一国で対応しようとすることこそ、非現実的なのだ。疫学的な前進を待つ前に、国際政治ができることがあるはずだ。またそれができなければ、新型ウイルスが発生する度に世界経済の一時休止が繰り返され、多くの生活が破壊される。

さてアメリカは、トランプさんはこう言っている。「アメリカではうまくコントロールできている」、「リスクは依然として低い」、「マーケットもよくなり始めたようだ!」。アメリカはだいじょうぶだといっても、世界がだいじょうぶでなければ、アメリカもだいじょうぶではない。

新型コロナは、自国第一主義で繋がる世界のすき間を突いて拡大している。ウイルスは人類の敵なのに、今、国際社会には「人類」の影も見当たらない。

6.コロナと株安

2月24日以降、突然世界の株価は急落し始めた。現時点でのぼくの結論は、これはコロナの猛威というより、現在の国際金市場の脆さの自己実現だ。それだけに、昨年末以来の浮かれた株価の調整にとどまらず、より深刻な「コロナ・ショック」になるリスクを抱えている。次回にでも、もう少し情報を整理して考えてみようと思う。

今回の趣旨から言えば、市場で問われるべきはコロナの疫学的リスクより、コロナに向き合う政治的リスクだろう。

日本でいえば、情報の隠蔽・改ざん・偽造、論点のすり替え、ほとぼりが冷めるまでの誤魔化し、すぐバレる嘘の無理強い、思いつきの政治判断、後追い的な政策変更、恣意的な政策優先課題、官僚機構および有識者の忖度、責任の不在などが、その政治的リスクだ。

アメリカでいえば、自国だけ良ければ他国はどうでもいい、選挙に有利か不利かだけで政策が決まる、客観的な情報を無視するあるいは攻撃する、国際機関に非協力的で国際協調は避けるなどが、その政治的リスクだ。

これら政治的ウイルスは、新型コロナより手強いが、ぼくたちはその感染の拡大防止と早期克服に努めなくてはならない。

日誌資料

  1. 02/14

    ・米中、制裁関税一部下げ 第1段階合意、きょう発効
    ・ロシア、領土割譲禁止検討 改憲案、プーチン氏が支持
    ・米社、株主還元で債務超過 スタバやボーイング、24社で7.2兆円
    ・米学生ローンあえぐ中高年 総額1.5兆ドル 返せず破産・離婚も
    ・米、ファーウェイを追起訴 北朝鮮と取引隠蔽疑い 米企業の秘密盗み出し<1>
    ・英、波乱の内閣改造 財務相辞任、官邸と確執
  2. 02/15

    ・ドイツ経済、ゼロ成長 10-12月 製造業不振が足かせ <2>
    ・資源需要、世界で鈍化 IEA予測 石油、10年半ぶり減 中国の製造業停滞で
    ・米、対EU関税を拡大 エアバス補助金撤廃迫る 航空機5%上げ
  3. 02/17

    ・GDP年率6.3%減 10-12月実質 5期ぶりマイナス 消費増税や台風響く<3>
  4. 02/18

    ・フィリピン、地位協定破棄を通告 米との同盟形骸化も 8月失効
    ・巨大ITの取引透明化 規制法案を閣議決定 運営状況、国に報告 <4>
  5. 02/19

    ・対米中輸出、大幅減続く 1月 貿易「休戦」も回復遠く <5>
    前同期比2.6%減 14カ月連続マイナス 中国向け6.4%減 米国向け7.7%減
  6. 02/20

    ・中国、春節の旅客数50%減 新型肺炎、小売りも打撃  <6>
    ・中国、3カ月ぶり利下げ 円急落、一時111円台
    ・EU、産業データ域内共有 IT企業の成長後押し GAFA支配に対抗
    ・英、単純労働の流入排除 新移民制度 高度人材に軸足 人手不足・排斥に懸念
    ・FOMC(米連邦公開市場委員会)1月議事要旨 新型肺炎「景気リスクに」
  7. 02/21

    ・米経済「大いなる成長」 トランプ政権、大統領報告で成果誇示
    ・アルゼンチン債務 IMF、民間負担求める 返済は「持続不可能」
    ・アジアの航空 損失3兆円 旅客需要が低下 国際航空運送協会試算
  8. 02/22

    ・「特定技能」合格伸び悩み 海外初年度2400人 目標(4万人)に遠く
    送り出し国「制度は拙速」 労働者ニーズくみきれず
    ・デジタル広告 取引透明に 政府、ルール整備へ 巨大ITの寡占懸念
    ・韓国、新型コロナ感染者346人 3日間で7倍 教会・病院で拡大
  9. 02/23

    ・EU、中期予算案決裂 首脳会議、英離脱後も溝 揺らぐ独仏枢軸
    英拠出金の穴埋め巡り、仏は予算規模維持、独は猛反発
※PDFでもご覧いただけます
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