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週間国際経済2024(10) No.384 04/10~04/18

今週のポイント解説 04/10~04/18

ひとり暮らし高齢化

少子化の果て

たしかに自明の理ではあるのだけれど、あらためて言われてみたらハッとするし、具体的に数字で表されたらドキッとする。少子化が進めば一人暮らしが増えるだろうし、その一人暮らしも高齢化する、つまり独居老人が増えるということだ。

国立社会保障・人口問題研究所(社人研)が4月12日に発表した世帯数の将来推計によると、1世帯あたりの平均人数は9年後の2033年に1.99人と初めて2人を下回る。一人暮らしの世帯の割合は2020年の38%から増加し続け、2050年には44%になる。そしてもちろん高齢化が進み、その2050年には65歳以上の一人暮らしが全世帯の21%になる(4月13日付日本経済新聞)。人口にして1083万人、2020年の1.5倍近くだ。

そうした一人暮らし高齢化の最大の要因は、未婚率の上昇だという。50歳時点で一度も結婚したことがない人の割合(生涯未婚率)は、2020年国政調査では男性で28%、女性で18%だった。これでも思っていたより高い数値だと感じていたのだが、それが社人研の2050年推計では男性で60%、女性で30%になるという。

つまり将来日本の高齢社会は、子どもを持たず、おそらく一人っ子が多いだろうから兄弟姉妹もいない、いざというときに頼れる近親者のいない一人暮らしの高齢者が急増する社会になる可能性が高いということなのだ。以前からいわゆる独居老人問題は問われていた。一人暮らし高齢者は認知症の進行も速く介護度も上がる。詐欺の被害も増えるだろうし、自然災害時の対応も心配だと。

少子化対策と言えば、議論も予算も圧倒的に子育て支援に偏る。しかし考えてみると当たり前の話だが、少子化対策には出生数を増やすという課題もあるだろうが、一方で少子化の結果、少子化の果ての社会にどう向き合うのかという課題もあるはずだ。

婚姻

昨年2023年、日本の婚姻数は90年ぶりに50万組を下回る見通しだと、2月17日付日本経済新聞はこれを「結婚氷河期脱却見えず」という見出しで報じた。2005年と比べて20数万件減っている。

先の4月13日付日本経済新聞によれば、これは女性の社会進出に対応する仕事と育児の両立支援が整っていないこと、経済的に不安定なため結婚を望んでいてもかなわないケースが目立つとしている。やはり非正規雇用比率の高さが大きいのだろう。一昨年3月の連合の調査だが(2022年6月9日付日本経済新聞)、初めて就いた仕事が正社員の女性は「配偶者がいる」63%、「子どもがいる」57%に対して、非正規だった女性はそれぞれ34%、33%と如実な差が出ていた。

また2050年といえば、バブル崩壊後のいわゆる「就職氷河期」世代が65歳になる、なろうとする時点だ。正規雇用ならば厚生年金にも加入しているが、国民年金だけならば満額で月7万円弱。一人暮らしならば住居費を一人の年金で負担しなければならない。兄弟や子どもからの支援も期待できない。こうして生活保護を受けざるを得ない高齢者が大量に生じることにも備えなくてはならない。

世帯とはなにか

未だに「標準世帯」という行政用語が生き残っていて、それがモデルとなる制度設計も残存している。それを修正するとかいう次元ではなく、もう「世帯」という発想そのものを見直すべきだと思う。

かつて深刻な出生率の低下からその回復に成功したスウェーデン、その政策転換の基本は「子育ての社会化」、そして課税制度を「家族ごと」から「個人ごと」に変えた。それで既婚女性も自分の所得にインセンティブが働いたという。1970年代の話だ。日本では未だに「年収の壁」が問題になっている。再び問おう、今もなぜ「世帯」なのだろう。

そして、同性婚。昨年2月に首相秘書官のLGBTQに対するあからさまな差別発言があったが、これを報じたBBCニュースでは「日本はいまだに伝統的なジェンダーの役割分担、伝統的家族観に大きく縛られている」と指摘した。その通りだと思う。G7で唯一認めていない同性婚を直ちに法的に保証すれば、日本でも間違いなく未婚率は減り、したがって一人暮らし高齢者は減るだろう。

フランスでは20年前に同性婚が認められたが、2021年には独身女性や女性同士のカップルの人工授精や体外受精も合法化した。いや、かつては人口の7割がカトリックだったフランスではやはり「伝統的家族観」が重んじられていた。それがおもに女性と性的マイノリティの努力によって「多様な家族形態」が行政の基本となっていった。そして現在、出生数の60%ほどが婚外子だ。つまり、どのような家族形態であっても生まれてきた「子どもの権利」は同等だ。ちょっと感動する話だが、考えてみればそれはとても自然なことではないだろうか。

移民政策

日本にはまだ、移民政策がない。安倍さんが「いわゆる移民政策はとらない」と断言し続け、それが自民党保守派の合意だったからだ。しかし今、日本に住む外国人は315万人、昨年は前年比で24万人以上増えた。外国人労働者は22023年10月末時点で初めて200万人を超え、日本の労働人口に占める割合も2%に近づいている。

これからも日本の労働市場は、日本人の生産年齢人口の減少を外国人労働者流入で補う方向で形成されていくだろう。言うなれば、事実上の移民は存在し増えているにもかかわらず、しかし移民政策がないということだ。保守的な人々とその人々を支持層とする政治は、外国人の増加を移民政策として議論することを許してこなかった。そのため事実上の移民増加による社会的軋轢に対する対策に予算が付かない。共生コミュニティは育ちにくく、外国人労働者の職場および社会的地位は不安定なままにおかれる。その結果、世界の労働力にとって日本は、魅力的な社会ではなくなっていくだろう。

それを保守と呼べるのか

安部首相(当時)はかつて子ども手当について、「子育てを家族から奪い去り国家化しようとするものだ」と語り、子育ての社会化を批判していた(2016年3月1日付産経新聞)。菅首相(当時)は、「私が目指す社会像、それは自助、共助、公助です」、「まず自分でやってみる、そして家族、そのうえで政府のセーフティーネット」だと語った。

こうした現実問題の実態から乖離した社会観を、はたして保守と呼んでよいものだろうか。さらにかれら「保守政治」は、包括的で寛容な社会観をも拒否してきた。同性婚どころか選択的夫婦別姓すらも拒んできた。それは有権者の支持を得てきたわけだから、それも民主主義の結果だ。しかしその彼らが語る「伝統的家族」と、それを単位として構成される社会を前提とした制度設計に、これからも資源を投入し続けることはもう許されないと思う。

保守政治を名乗るのならば、岸田さんに限らず嘘をつかず誤魔化さず、現実を直視して実現可能な選択肢を、それがたとえ耳障りの悪いものであっても、誠実に提案し続けていかねばならないだろうし、そうでなければ存在理由そのものを失うことになるだろう。それが民主主義なのだから。

⇒ポイント解説 №310「出産する人生 描けず」№337「異次元の少子化対策」№378「少子化、異次元の無策」など参照。

日誌資料

  1. 04/10

    ・物価高、家賃も動かす 昨年、指数25年ぶり上昇 資材高騰で維持費増
    ・日本にデータセンター マイクロソフト、AI需要に対応 4400億円投資 <1>
    ・米中、産業支援で応酬 イエレン氏訪中 対ロやTikTok平行線
    ・習氏、ロシア外相と面会 プーチン氏訪中協議か
  2. 04/11

    ・日米同盟「最大の強化」首脳共同声明 防衛協力、緊密に 岸首相訪米
    ・習氏、台湾次期政権に圧力 馬前総統と8年半ぶり会談 「独立反対、高く評価」
    ・円一段安、一時153円 NY株422ドル安 米利下げ観測後退 日米の金利差拡大で
    ・米消費者物価3.5%上昇 3月 米インフレ再燃懸念 バイデン氏再選に影
    ・韓国総選挙 与党が敗北 最大野党、過半数超す <2>
  3. 04/12

    ・岸首相米議会演説 中国脅威「戦略的な挑戦」世界で日米協働 <3>
    安保「米と分かち合う」同盟、最大のアップグレード 議員ら称賛、総立ち15回
  4. 04/13

    ・進む人口減ゆらぐ制度設計(国立社会保障・人口問題研究所推計) <4>
    1世帯平均2人未満 2033年1.99人 未婚・単身高齢者が増加 日本人83万人減(昨年)
    ・中国輸出1.5%増 1~3月 車堅調、1年半ぶりプラス
    ・日米比が初の首脳会談 海洋秩序、中国の威圧抑止 重要鉱物で供給網
    ・中東緊迫NY株475ドル安 原油は半年ぶり高値
  5. 04/14

    ・米ドル1強 新興国に逆風 インフレ再燃、通貨防衛も <5>
  6. 04/15

    ・イラン、イスラエルに報復 領土直接攻撃は初
    米大統領「イランへの反撃反対」、イスラエル首相に 日経平均一時700円安
    ・公取委巨大IT新法 課徴金売上高20%以上 アプリ配信独占防ぐ
  7. 04/16

    ・イラン報復「作戦は完了」 イスラエル、99%迎撃と主張
    イスラエルの出方焦点 中東に戦火拡大リスク 米、反撃を支持せず
    イラン、衝突の幕引き図る 経済疲弊、激化望まず 国内強硬派に「戦果」強調
    ・米小売売上高0.7%増 3月、予想上回る 雇用が下支え
    ・全米で反イスラエルデモ 「金門橋」は一時封鎖 シカゴ、テキサス、NYでも
  8. 04/17

    ・中国、官製投資で底上げ 1~3月、実質GDP5.3%増 デフレ圧力根強く
    ・格安中国EV、市場揺らす テスラ、人員10%削減 米の脱炭素戦略に転機
    ・米インフレ退治に誤算 FRB議長「予想以上に時間」利上げ先送り示唆
    ・止まらぬ円安、内需に影 ドル高が主導、154円台
    米利上げ後退 有事の買い 原油高
    ・貿易赤字3年連続 昨年度5.8兆円 資源高一服で73%縮小 <6>
    ・中国、経済で欧州に最接近 ショルツ首相訪中 中独首脳会談
    習氏、EV規制回避狙う ショルツ氏、保護主義に反対 米大統領選見据えくさび
  9. 04/18

    ・オラクル、日本にデータセンター投資 10年間で1.2兆円
※PDFでもご覧いただけます
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