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週間国際経済2015(26)  09/23~09/29

今週のポイント解説(26)

一億総活躍社会

1.アベ・エコノミクス

 よく知られているように「アベノミクス」は1980年代前半レーガン米政権の経済政策「レーガノミクス」(レーガン経済学)に由来しています。従来の経済学の常識からは外れているという、少しからかいのニュアンスを含むものでした。したがってレーガン大統領自身はレーガノミクスという言葉は使いませんでした。

 アベノミクスも、基本政策がそれまで「禁じ手」とされていた中央銀行による大量の国債購入でしたから「アベ経済学」と呼ばれ出したのです。なぜか安倍首相はたいへんお気に入りの様子でご自身が連発されていますね。9月24日、自民党の総裁に再選された安倍首相が「アベノミクスは第2ステージに移ります」と言い出すものですから驚きました。その内容を聞いてもっと驚きました。いくら「アベ経済学」だろうと、それを経済学で説明することは極めて困難だからです。

2.「新3本の矢」

 第1ステージ(?)のアベノミクスは「大胆な金融緩和」「機動的な財政政策」「成長戦略」の3本の矢で構成されていると説明されていました。日銀は年間80兆円もの国債を購入し公共事業も急増しました。しかし具体的な成長戦略は打ち出されないままで、国民のほとんどは景気回復の実感がありません。まずはこの3年間のアベノミクスを検証してから次の段階に行くなら行くべきだと思うのですが。さて、また3本の矢です。繰り返しますが、ぼくはその内容に驚いたのです。

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(1)「GDP600兆円の達成を明確な目標に掲げたい」

 と、おっしゃいますが。現在日本のGDPは約500兆円です。いつまでにという期限は示されませんでした。総裁任期は3年ですからぼくは「3年間で!」と驚きました。年間5%以上の成長率です!あとになって、これは2020年までの目標だと説明が加えられました。これは6月の経済財政諮問会議による「骨太の方針」と同じ期間です(ポイント解説14参照)。それでも年間3%成長です。昨年はゼロ成長、直近の4-6月期はマイナス成長でした。日本経済が年間3%成長を達成したのはバブル経済のピークだった1991年が最後です。バブルでも起こすつもりでしょうか。

(2)「夢を紡ぐ子育て支援、出生率1.8」

 現在日本の出生率は約1.4です(1人の女性が生涯に何人の子供を産むのかを推計した合計特殊出生率)。いったいどうすれば日本の女性は急に出産するようになるというのでしょう。

 「幼児教育の無償化・結婚支援・不妊治療支援」、その財源については一切触れられていませんが、そもそもそういう問題でしょうか。

 アベノミクス3年間で正社員は56万人減って非正規雇用は178万人増えました。「待機児童ゼロ」は安倍政権の公約でしたが今年4月時点で2万3000人増えています(保育士が2017年には7万人不足するという試算もあります)。安倍首相は「50年後も人口1億人を維持する」と言いますが、そのためには出生率を2.0以上にする必要があります。結婚したくてもできない、子供は欲しいが産めない若者たちの経済的事情に寄り添っていると言えるでしょうか。

(3)介護離職ゼロ

 家族の介護を理由に仕事を辞める人は年間10万人います。要介護3以上で自宅で介護施設入所を待っている人は15万人います。具体的な施策も財源も示さずに「ゼロ」にすると言い切る政治感覚に驚きました。

 これらが安保法案可決で沈んだ内閣支持率浮上に向けた、来年夏の参議院選挙に向けたものであることは明らかです。しかしそれが心を痛めている人々に対して根拠もなくエサをまくだけのものであるならば、驚きを通り越してしまいます。

3.一億総活躍社会

 ぼくはこの言葉が恐ろしい、いやおぞましいと言ったほうがいいでしょうか。とても嫌な歴史的記憶を伴うものですし、政治に活躍を強制されているようで馴染めません。

 第1ステージでは「すべての女性が輝く日本」というスローガンがありました。何のことなのかわかりませんでした。第2ステージでは、日本の女性は仕事と出産・育児と介護すべてを担うことが「活躍」とされています。一方で高齢者の就業機会を増やす考えも明らかにしています。「経験や智恵を持つ人材がふえることはチャンスだ」と。

 現在日本は労働人口が毎年50万人減っています。総人口が30万人減っています。これでは高いGDP成長率は望めないというのが、そもそもの経済学です。経団連も「もはや移民に頼るしかない」と提言しています(ポイント解説17参照)。

 移民といえば今世界の国々はそれぞれ1万人を越えるシリア難民を受け入れています(ポイント解説24参照)。日本は昨年「3人」でした。シリア難民以外を入れても「11人」です。国連総会に出席した安倍首相はこの問題について外国メディアの質問を受けてこう答えました。

 「人口問題としてとらえますと我々は移民を受け入れる前に女性の活躍、高齢者の活躍、出生率を上げていくことにまだまだ打つべき手があるということであります」

 これに対してAP通信やロイター通信は「人道問題を人口問題に」、「難民より国内問題」と発信しワシントンポストや英ガーディアンなどで大きく報じられました。英BBCなどは「これで国連安全保障理事会入りを考えている」と困惑しています。

 戦禍から逃れる難民をまず労働力としてとらえる人権感覚にも驚きますが、同時に「一億総活躍社会」の本質を見たようで心が沈みます。テレビ出演をしていた管官房長官が福山雅治さんの結婚ニュースに対して、赤ちゃんを産んで「国家に貢献して欲しい」と笑顔で応えたこたが話題になりましたが、笑えません。

4.第1ステージの検証を

 この安倍首相会見に対するマーケットの反応を見てみましょう。もっとも注目されているのが(出生率や介護離職問題は相手にもされないでしょう)、「新3本の矢」には「成長戦略」が抜け落ちている、あるいは見えないことです。そもそも旧(?)3本の矢でも異次元緩和や財政出動はいわゆるカンフル剤的な役割で、問われていたのは「成長のエンジン」だったからです。しかし「岩盤」ともいわれる規制に手を入れることは選挙に不利だという政治判断から、アベノミクスにはエンジンがなくなったのではないかという観測です。

 同じく注目されているのが「追加緩和」です。それだけのGDP成長率を目指すならばさらにカンフル剤が必要になるのではないか、という観測です。しかし日銀は掲げている「物価上昇率2%」という目標を当初2015年中という期限から2016年前半に先送りし、さらに修正を余儀なくされている状態です(10月3日付日経)。8月の消費者物価指数も28カ月ぶりにマイナスになりました。

 しかしここで追加緩和に踏み切っても、それが物価に反映されるには時間がかかります。2017年にかかれば消費税率引き上げと重なることになります。またすでに生活品(食品・家電など)の値上げは相次いでいます。さらに金融緩和によって物価を上げる必要があるのでしょうか。

 それでも第1ステージには「経済学らしさ」があります。デフレ克服のために期待インフレ率を示し、「物価が上がるから今のうちに買っておこう」「値段が下がらないから生産を増やそう」となるだろう、という学説です。それが理論的にどうなのかはともかく、実際の政策としてどうだったのかを検証することもなく「目先」を変えて「第2ステージい移る」というのは、どうも不真面目な感じがします。かりに不真面目だとすれば、それは日本経済がマーケットの信頼を失うことに繋がります。

 10月2日に発表されたアメリカの雇用統計は芳しくありません。利上げは年明け以降になる見方が出てきています。FRBの判断が不透明さを増すとNY株価に変調として現れ日本株安となり、ドル買いが止まれば円高になるかもしれません。ここで日本経済が信認を失えば財政再建のメドが立たない日本国債は売られ長期金利が上昇しかねません。

 安倍首相は「デフレ克服は目前だ」と言い切りますが、悪いシナリオはリアリティを強めているのです。真面目さを、求めます。

日誌資料

09/23
・VW、不正で大揺れ 排ガス規制逃れ、対象世界で1100万台
 対策費用として特損8799億円計上 7-9月、赤字転落も
・EU、難民12万人分担、賛成多数で可決(EU臨時閣僚会議22日)
 中東欧諸国、なお反発姿勢 今年の難民申請100万人(OECD見通し)
 ⇒ポイント解説(24)参照
・アジア開銀見通し 中国成長率6.8%に下げ アジア新興国全体も下方修正<1>
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09/24
・習近平主席が公式訪米「人民元、市場に委ねる」輸出刺激策を否定
 米中企業の連携訴え 外資規制を緩和へ ボーイングから300機購入
 ⇒ポイント解説(20)参照
・ローマ法王、オバマ大統領と会談(23日ワシントン)24日に米議会で演説

09/25
・安倍首相が総裁再選会見 「アベノミクスは第2ステージに」<2>
 ⇒今週のポイント解説
 2020年へ「新3本の矢」「1億総活躍プラン」 出生率1.8へ支援(現在1.4)
 GDP600兆円達成を(時期は示さず) 介護離職ゼロ目指す 問われる具体策・財源
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・日本消費者物価、8月0.1%下落 原油安響き2年4カ月ぶりマイナス <3>
 実感なき物価下落 食品・家電など値上げ相次ぐ
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・イエレンFRB議長講演 米利上げ「年内が適切」先送り観測けん制
 緩和継続期待に歯止め 中国減速懸念、影響は限定的
 ⇒ポイント解説(25)参照

09/26
・米中首脳会談(25日ワシントン)南シナ海、平和解決要求 <4>
 対話演出に腐心 サイバー攻撃問題など相互不信なお解けず 南シナ海は平行線
 隠せぬ対立 オバマ氏国内意識、妥協難しく 習氏、強気崩さず 人民元市場化は約束
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・VW、排ガス不正で株急落 時価総額4兆円失う ドイツ株指数も9カ月ぶり安値
 VW社内、違法性を2011年に指摘と独紙報道(27日)

09/29
・シリア巡り米ロ応酬(国連総会討論演説28日)<5>
 オバマ氏「アサド政権退陣を」 ロシアのウクライナ介入も非難
20150923_05
・シリコンバレー中印に接近 巨大市場に意欲アピール
・カタルーニャ独立派勝利(州議会選挙) スペイン混乱にEU警戒
・日ロ首脳会談(28日国連本部)領土交渉前進へ対話継続 <6>
 プーチン大統領来日「年内のベストなタイミング」を探る
20150923_06
・日経平均1万7000円割れ 1月以来、一時600円下げ
 NY株も312ドル安 以下月ぶり安値の1万6001ドル台

 

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