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週間国際経済2016(7) No.46
02/21~03/01

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今週のポイント解説(7) 02/21~03/01

「出口」遠い世界経済(3)=内向きの世界=

1.G20、各国任せの「政策総動員」

 現在世界経済が抱えるリスクとは何か?第一に、「成長エンジンの不在」。アメリカの金融緩和も中国の公共投資も「出口」を探るようになり、どの国民経済も世界的なデフレ(需要不足)をけん引する余力がない。そして第二に、「内向きの世界」。グローバル化の進展によってどの国民経済も一国では自国経済問題を解決できなくなっているにもかかわらず、国際協調の道筋が見えないことだ。
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 2月27日、上海で開催されていたG20(20ヵ国・地域財務相・中央銀行総裁会議)が共同声明を発表した。IMFのラガルド専務理事は「各国の政策当局者が協調行動をとらなければ世界経済が失速する恐れがある」と訴えたが、こうした危機意識は共有されなかった。「最近の市場変動の大きさは世界経済の実態を反映していない」として、「金融・財政・構造改革というすべての政策手段を用いる」としながらその具体策は各国に委ねられた。これは何も言っていないに等しい。

 「政策総動員とは何ですか」と学生から問われれば、「国際的な政策協調を採らないという意味です」と答えるだろう。途上国からの資金流出対策も、乱高下する為替市場に対する協調的介入も、リーマンショック時のような大胆な財政出動も、議論された痕跡がない。世界経済が収縮するなかで国際協調が採られない場合、最も警戒するべきは各国が「近隣窮乏化政策」に走ることだ。したがってG20声明は「通貨安競争」回避を盛り込んだ。しかし何が「競争的な切り下げ」であるかは不透明だし(例えばマイナス金利の拡大はどうなのか)、回避の具体策もなくやはりそれも各国に委ねられている。

 何も決めなかったG20であったにもかかわらず、世界市場では「失望売り」が起きなかった。マーケットがG20に期待していなかったからだ。結果的に各国は依然として「緩和頼み」を継続する。中国は預金準備率を4カ月ぶりに引き下げ、2月のユーロ圏物価が0.2%下落したことを受けて欧州中銀はマイナス金利拡大に動くと見られている。

 果たして国際協調は手詰まりなのだろうか。この問いには前提がある。そう、国際協調は政治的判断なのだ。そして世界の政治は著しく「内向き」になっている。

2.孤立主義に回帰するアメリカ

 「アメリカは世界の警察官ではない」、そう言い切ったアメリカ大統領はオバマ氏が初めてだと言われている。2013年9月10日、9.11同時多発テロ12周年前日のテレビ演説だった。「もう他の国のことには関わりたくない」アメリカ世論を反映したものなのだろう。

 そうだとしても、今年1月12日のオバマ大統領任期中最後の一般教書演説は驚きだった。直前にはサウジアラビアとイランの国交断絶、そして北朝鮮の核実験があったにもかかわらず、これに一切言及しなかったのだから。警察官としてではない、これらの出来事はアメリカ外交が原因だ。イランに対する経済制裁解除のリアクションだし、米朝対話にそっぽを向き続けたことへのアクションだ。中国の南シナ海進出にも触れない。その程度の「アジア重視」なのだ。

 戦後アメリカの「介入主義」はトルーマン・ドクトリンに起源が求められる。ギリシャ・トルコ軍事支援だ。つまり中東産油国へのコミットメント、エネルギー戦略が根幹にあった。シェール革命は、この戦略の前提を変えてしまった。アメリカは世界最大の産油国であり、ついに石油輸出国になっている。

 アメリカの孤立主義への回帰現象は、大統領選挙予備選でも色濃い。今回最大の特徴はトランプ旋風だが、ではなぜトランプ候補は支持されるのだろうか。エスタブリッシュメント攻撃への賛同が一般的な分析だ。しかしそれだけだろうか。トランプ発言は支離滅裂だし一貫性もない。それでも孤立主義的傾向は明白だ。メキシコ国境の壁だけではない。「日本、ドイツ、韓国を守るつもりはない」、「IS(イスラム国)空爆はロシアに任せればいい」、「ピョンヤンの問題は北京が解決するべきだ」。

 このトランプ候補に最初に降参したのがブッシュ候補だったのも象徴的だ。かれのプラカードには「Jeb」と書かれても「Bush」の文字はなかった。共和党、民主党を問わず有力候補の全員がTPPに否定的だ。オバマ大統領が主張する「世界貿易のルールは誰が書くのか」など耳も貸さない。有権者は深刻な格差問題に怒っている。他の国のことや世界のためになどを語る候補は、レースに残れない。

3.欧州の分裂

 いうまでもなく欧州統合の要は独仏連合だ。そこにほころびが見え始めたのがギリシャ支援に対する温度差だった。フランスはギリシャがEUに留まることを大前提にしていたが、ドイツはそうではなかった。厳しい財政削減を要求し、財政支援については冷淡だった。一方でメルケル独首相のシリア難民受け入れ姿勢は驚くほど寛容だった。彼女にとって「ドイツはどうあるべきか」と「EUはどうあるべきか」に質的な違いは見られない。量的な、負担の軽重に違いがあるだけだ。

 オランド仏大統領もこれに同調していたが、昨年11月のパリ「同時多発テロ」が事態を一変させた。難民受け入れとテロの脅威が感情的に重なり合わされてしまった。フランスはシリア空爆の先頭に立つようになり、ウクライナ問題に対する態度もドイツとの不協和音が拡幅していく。独仏連合の基礎は安全保障と歴史認識だった。ここに齟齬が生まれた。これがフランス、ドイツのみならず欧州全体に極右勢力の台頭を許す隙を与えたのだ。

 キャメロン英首相は昨年5月の総選挙で「EU離脱問題」を国民投票で問うと公約してしまっていた。当時は離脱多数は想定していなかっただろう。しかしEU「移動の自由」が難民問題ととらえられ、その難民問題は想定外に深刻化した。冷静に考えればEU離脱と難民流入問題解決は直結しない。フランスとの二国間協定があり、仮にEUを離脱してEEA(欧州経済地域)に参加しても「移動の自由」ルールからは逃れられない。
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 英欧の距離は英米の距離に反比例していた。ところがイギリスはEU離れしながら同時にアメリカ離れしている。まずはアメリカが呼びかけたシリア空爆をドタキャンした。次にアメリカが釘を刺していたアジアインフラ投資銀行(AIIB)参加を突然決定した。続いてアメリカが嫌がっていたIMF準備通貨(SDR)人民元採用も積極的に支持した。

 もはや欧米とは何なのか、独仏と米英の国際力学では説明がつかなくなっている。その理由は明らかだ。そうすべての国が「内向き」を強めているからだ。

4.世界と対話できない中国

 中国は初めてG20議長国を務めた。そしてそこで前例のない取材制限を行った。中国が国際社会に対する発言力を高めたい一心であることは疑いようがないのだが、その発言力は一方的な発信であって「対話」ではないようだ。

 人民元の国際的地位は飛躍的に高まった。しかし中国人民銀行に存在感はない。「ない」のは対話する意思がないからだ。対話の経験もないからだ。例えば昨年8月の「人民元ショック」だ。人民銀行は人民元の対ドル・レートの基準値を前日終値とすると突然発表した。この措置自体は人民元自由化の一環であり妥当なものだと解釈することができる。しかしマーケットはパニックに陥った。中国は一方的に人民元を切り下げていくつもりだという印象を与えてしまったのだ。

 「上海株ショック」にも同様のことが見られる。中国証券監督管理委員会は相場の急変時に取引を強制終了する「サーキットブレーカー」制度を突然導入し数日でやめてしまった。これが混乱に拍車をかけたとされている。そして上海G20 の一週間前にこの証券当局トップを更迭してしまった。

 中国経済減速感が不透明なのは中国が発表する主要経済統計が怪しげなところにも原因がある。GDP成長率をはじめ、それを信じる市場関係者は皆無だろう。そこに中国共産党は1月末に国家統計局長を突然解任した。理由は「重大な規律違反」だ。

 どうして不信の芽を国際市場に撒き散らすのだろう。せっかく議長国を務めたG20で財政政策を含む政策総動員と通貨競争回避をまとめたのに、その直後に追加金融緩和(預金準備率引き下げ)を決めた。マーケットは中国に大胆な財政支出を期待していたのに、人民元安を想起させたのだ。
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 中国共産党には国際市場と対話する経験も能力も不足しているが、なによりその余裕が感じられない。彼らが恐れているのはマーケットの反応ではなく、そう国内の不満だからだ。中国経済最大の課題のひとつは過剰設備の整理だ。2月19日には大手国有企業の造船会社の破産処理を行った。上場造船企業の破綻は初めてのことだ。これは過剰生産業界「救済」から「淘汰」へと舵を切ったと見られている。当然、失業者は増える。

 構造改革はかなり長期にわたる道のりだ。国内不満の発火点との競争だ。「腐敗追放」運動もタネが尽きている。国際的地位において図々しいほどに上昇志向を見せる中国も、じつのところ「内向き」なのだ。

5.こうなるとすべての経済が「内向き」になる

 資源価格の急落は、資源国を内向きにしていく。典型的なのはサウジアラビアだ。OPECの盟主に原油生産量調整の余裕がなくなった。減産して原油価格が上昇したときには非OPEC産油国にシェアを奪われてしまうからだ。そこにイランも復帰してくる。国内では初代国王の息子兄弟後継者が一巡して世代交代の時期と重なった。

 経済制裁をものともしないプーチン政権も強気なのではない。弱気を国民に見せられないのだ。財政の大半を石油輸出に依存するロシア経済。原油高の時期に経済構造改革を怠った。無理もない。彼の基盤はエネルギー利権だったのだから。リオでオリンピックを開催するブラジル経済も昨年、6年ぶりにマイナス成長に陥った。とくに家計消費が前年比で4%減少した。失業率は高まる一方、通貨安で高インフレに見舞われオリンピックどころではないのが国民世論だ。ここに国営石油会社ペトロブラスの不正献金疑惑が怒りに火を注いでいる。
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 昨年末にAECを発足させた東南アジアも統合深化のモチベーションを失っている。南シナ海の領有権を巡る中国との関係は、もちろん一致できない。資源価格安も資金流出もそれぞれの国民経済に与える影響は一様ではない。つまり結束の軸が見当たらない。

 「内向き」の世界は、相互依存の利益を蝕み世界経済を縮める。そして縮んだパイを奪い合う。自分が得をするためには他が損をしなければならない「ゼロサムゲーム」に陥ることが最大のリスクだ。世界は、そのリスクに直面している。

 

日誌資料

02/21
・英国民投票6月23日に キャメロン首相、EU残留呼びかけ
 残留の道のり険しく 閣僚にも離脱論 ロンドン市長「離脱支持」

02/23
・シリア停戦で米ロ合意 27日から「イスラム国」は対象外
・米朝、平和協定で接触も決裂 北朝鮮、核カードに執着
 21日米国務省報道官が明らかに 北朝鮮から交渉提案も非核化を拒否

02/24
・マイナス金利の余波 生保運用、利回り確保難しく逆風一段と
 「貯蓄型」相次ぎ販売停止 個人資産、選択肢減る
・円、一時2週間ぶり高値 111円台後半 長期金利は低下続く <1>
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・東南アジア、輸出急減速 主要5ヵ国、15年13%減 資源安や中国減速で
・訪米中のサウジ石油相、減産に消極姿勢 NY原油、大幅下落31ドル台
・米中外相会談(ワシントン23日)北朝鮮制裁に「重要な進展」南シナ海は平行線

02/25
・日本、長期金利最低更新 マイナス0.055% 安全志向一段と

02/26
・米シェール赤字4兆円 昨年の大手7社、黒字から一転 <2>
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・国勢調査で初の人口減 5年で94万人減少 人口減の波、大都市にも <3>
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02/27
・シリア「一時停戦」発効 大規模衝突なし なお臨戦態勢
・米が北朝鮮制裁を安保理提出 党・軍に標準 金正恩体制に打撃

02/28
・G20財務相・中央銀行総裁会議(上海27日)「全ての政策手段総動員」<4>
 具体策、各国に委ねる 「緩和頼み」厳しさ増す 資本流出対策で指針作りに合意
 ユーロ圏、日銀マイナス金利を暗に批判「競争的な切り下げにつながるのではないか」
 中国「通貨切り下げ競争回避を確認できたことは重要」
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02/29
・G20声明に市場警戒解かず 原油安や中国問題解決遠のく
 「政策総動員」実行力見定め円高・株安に
・東南アジア5ヵ国4.4%成長(10-12月)消費・公共投資下支え <5>
 伸び率は前期より0.2ポイント上昇 4四半期ぶり前期を上回る
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03/01
・ユーロ圏物価0.2%下落(2月、5カ月ぶりマイナス)追加緩和を後押し <6>
 原油安、成長も鈍化 マイナス金利拡大か 欧州中銀、10日に理事会
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・中国が追加金融緩和 預金準備率4カ月ぶり下げ <7>
 景気不安・上海株安に対応 人民元売り圧力も 発表直後3週ぶり安値
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