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週間国際経済2019(16) No.184 05/19~05/25

今週のポイント解説(16) 05/19~05/25

先送りされているわけではない日米貿易摩擦

1.トランプ来日

5月25日、令和初の国賓としてトランプ米大統領が来日した。26日トランプさんはツイッターで日本との貿易交渉について、「大部分は7月の日本の選挙の後まで待つことになる。大きな数字を期待している」と表明した。

「大きな数字」、つまりアメリカは日本に大幅な譲歩を求めるつもりだから、夏の参議院選への影響を避けたい安倍さんに配慮して「待つ」ということだ。このディールは4月26日にワシントンで開かれた日米首脳会談で成立していた(⇒ポイント解説№180「安倍さんとトランプさんのウィンウィンな交渉」参照)。

26日のテレビはゴルフ→大相撲→炉端焼きというトランプさんの「日本満喫」(5月27日付日本経済新聞)の様子を流し続けていた。シンゾー、ドナルド「蜜月」がアピールされたかっこうだ。

さてそのシンゾー、ドナルドは26日、11回目の首脳会談に臨んだが、その冒頭トランプさんは貿易交渉について「8月に発表がある」と述べた。そのとき安倍さんは「けげんそうな表情を見せた」(5月28日付同上)。おそらくいきなり飛び出した話なんだろう。

5月25日には日米の閣僚級の貿易協議が開かれているが、そこではまったく両国の溝は埋まらなかった。8月までにあと3カ月しかない。トランプさんは、待つと言いながら急いでいる。

アキレス腱だったロシア疑惑・司法妨害について、捜査を担当したモラー特別検察官は、トランプさんの責任追及は議会が責任を担うべきだと言い、野党はそのつもりだ。次期大統領選挙に向けて民主党からの立候補は連立気味だが、共和党は動きがない。トランプさんはまず共和党候補を早々に固めて、民主党候補たちを個別に攻撃していきたいのだろう。

だから、急いでいるのだ。それなのに待ってあげるのだ。トランプさんは最大限のおもてなしを受けながら、貸しをつくったつもりでいる。シンゾーの大切な選挙に配慮してあげたからだ。しかしかんじんの日米貿易摩擦問題は、実態として先送りされたわけではない。

2.米中貿易戦争のとばっちり

日本の貿易黒字と企業収益が大幅に減少している。昨年度の貿易黒字は7068億円、前年度に比べ約3.8兆円(84.4%)減少した。今年の1~3月期の輸出は前期比2.4%減り、4月の輸出も前年同期比2.4%減、このうち中国向けが6.3%減っている。貿易黒字は9割減となった(5月22日付日本経済新聞夕刊)。

内需の冷え込みから輸入も急減し、1~3月期のGDPは年率2.1%増という結果になっている。GDPを需要面から見ると、Y=C(消費)+I(投資)+NX(純輸出)だが、個人消費は0.1%減、設備投資は0.3%減、輸出も2.4%減だけれど輸入が4.6%減ってNXが増えたからだ(5月20日付同上夕刊)。景気が良いとはとても言えない。

日本の最大貿易相手国(輸出入合計)である中国経済の減速が大きく影響している。その結果、日本上場企業の業績は3年ぶりに減益に転じた(5月13日付同上)。2018年度上半期の純利益は12.6%増だったが、米中貿易戦争が激化した下半期には一転して14.6%の減益となった。これらを受けて内閣府が発表した3月の景気動向指数は6年ぶりに悪化した。

トランプ政権が対中関税25%引き上げを発表したのが5月5日。10連休前の4月26日から5月30日まで日経平均は6%下落し、東証一部の時価総額は約30兆円吹き飛んだ(5月31日同上)。とくにハイテク株の下落が大きい。

ここにアメリカの対中制裁関税第4弾が襲ってきそうだ。第4弾ではこれまで除外されてきた生活に身近な消費財が網羅される。スマホやノートパソコンの比重が高く、ここに部品を供給している日本企業に打撃を与える。任天堂のゲーム機もGショックもアシックスのシューズも、日本企業の中国経由の対米輸出は年間1兆円を超えている。これらに25%の関税がかけられるということだ。

3.ファーウェイ禁輸のとばっちり

トランプ政権は5月15日、ファーウェイへの製品供給を事実上(形式上アメリカ商務省に申請)禁じる制裁措置に踏み切った。ファーウェイとの取引は世界で年間約7兆円規模になる。

アメリカはこの禁輸措置を世界の68社も対象にしている。ここには日本の11社(村田製作所、東芝メモリ、ソニー、三菱電機)が含まれる。これら日本主要製造業の年間およそ5000億円の取引が瞬時にして消える。違反すればアメリカ企業との取引が禁止され刑事罰も科される。

だからといってすでに納入契約を済ませているものも多いだろうから、それを停止すれば損害賠償が請求されることもあるだろう。なのにアメリカ商務省は、どのような製品が規制の対象なのか線引きを明らかにしていない。

アマゾンは日本でのファーウェイスマホ直販を停止する(楽天は出店をやめる予定はないという)。これに続く小売り業は増えるだろう。それらの売上が簡単に他者のスマホで埋められるものでもない。

4.対メキシコ追加関税のとばっちり

今さらかもしれないが、やっぱり驚いた。5月30日トランプさんが、6月10日からメキシコからの輸入品すべてに5%の追加関税を課すと言い出した。その理由がまたとんでもないと思うのだが、国境を超える移民流入に対するメキシコの対策が不充分だということだ。しかも今後の対応次第では最大25%(10月1日に)まで毎月5%ずつ引き上げていくというのだから恐れ入る。メキシコからの輸入総額は2018年で約38兆円というとてつもない規模だというのに。

一部ではこれを中国の「迂回輸出」を阻止する狙いだと言われるが、そうでもなさそうだ。というのは、ロイター通信によれば通商問題を担当するライトハイザー通商代表とムニューシン財務長官がこれを思いとどまらせようとしていたにもかかわらず、トランプさんは彼らを「蚊帳の外」において決めたという。

メキシコとの「国境の壁」はトランプ公約の目玉のひとつだ。しかし与野党ねじれ議会では予算が出ない。そこでトランプさんは「国家非常事態宣言」を宣言し、国防予算を転用しようとした。これに対して米連邦地方裁判所が5月24日に差し止めの仮命令を出した(5月25日付同上夕刊)。

再選を目指すトランプさんのなりふり構わない支持者たちへのアピールなのだろうが、本当にたまらない。このとばっちりをまた、日本企業が受ける。日本企業のメキシコへの直接投資は過去10年間で7倍に、進出企業数は3倍に増えている。

そこに米中貿易戦争だ。日本企業はこのとばっちりを回避するためにメキシコへの集中投資を開始していた矢先だったのだ(6月1日付同上)。もし25%の追加関税が発動されれば、メキシコからアメリカに自動車を輸出する日本企業は「利益がすべて吹き飛ぶことを意味する」という。

マツダ、日産、ホンダの株価は一時9%から4%安に下落した。自動車だけではない。家電企業にとってもメキシコはアメリカ向け最大拠点だ。悩ましいのは、トランプさんが本気かどうかすらわからないことだ。

5.アメリカから兵器を買って貿易赤字削減

トランプさんは27日の首脳会談で、「日本は多くの防衛装備品を買っている。貿易赤字を大幅に削減するとに貢献するのは違いない」と話していた。28日には横須賀基地に行って護衛艦「かが」を視察した。アメリカ大統領が自衛隊艦船に乗り込むのは初めてのことだ。ここでも「日本はF35を105機買う。同盟国のなかで最も多くなる」と評価した。

「かが」は、空母化が決定している。それも短距離離陸・垂直着陸が可能なステルス戦闘機F35Bの搭載が前提だ。さて、このF35Bは1機110億円ほどするという。これをすでに購入決定分に105機を加えると150機近くなる。高性能だから管理維持費もたいへんだ。どう見積もっても2兆円は超える買い物だ。これに空母化改修費もかかる。

防衛装備品といえば、イージスアショア。これも購入が決まってからどんどん言い値が高くなって2機で6000億円、これに運用費が5000億円かかるという。

トランプさんは、これらが対日貿易赤字削減に貢献すると評価しているのだから、ここでも日米貿易摩擦が決して先送りされているわけでもないことがわかる。言うまでもないことだが、この買い物は日本の納税者負担だ。

不思議な話だ。日米貿易摩擦は実態として進行している。合意発表は参院選後にということだから、有権者の是非を問うことはない。安倍さんがそこまでして参院選を重視するのは改憲勢力議席を確保するためだ。

不思議な話だ。空母とステルス戦闘機。政府はF35Bを常時搭載するわけではないから「かが」は攻撃型空母ではなく専守防衛の範囲内だと説明している。世界で最もたくさんF35Bを保有するのに。それは「かが」の空母化とセットなのに。

そんな自衛隊を、憲法9条に書き加えるという改憲だ。

不思議な空気だ。令和祝賀の雰囲気のなかで、こんな大切な話が国会で議論されることもなく、メディアが問題にすることもなく、安倍内閣の支持率は上昇してる。

そう言う意味では、すべてが先送りされている。

日誌資料

  1. 05/19

    ・ファーウェイ禁輸、混乱続く 発表翌日に発効 対象線引き困難
    ・ファーウェイCEO輸出規制に反論「米半導体は不要」「政府に仲裁求めず」
    ・米制裁ドル離れ招く ロシア・イラン 代替決済探る
  2. 05/20

    ・GDP実質2.1%増(1-3月年率) 輸入急減が押し上げ <1>
    予想外の成長も内需陰り 消費・設備投資は減 4~6月ゼロ成長予測
    ・ファーウェイ向け輸出規制 グーグル対応焦点に スマホOS更新停止も
  3. 05/21

    ・米フォード、7000人削減 ホワイトカラー、世界の1割 中国販売半減で
    GMも昨年11月に北米5工場含む世界7工場の閉鎖発表
  4. 05/22

    ・対中輸出6.3%減(4月)2カ月連続減 経済減速響く <2>
    全体輸出2.4%減、輸入6.4%増(イラン制裁による原油高) 貿易黒字9割減少
    ・対中関税第4弾 日本企業、対応に苦慮 移管や価格転嫁の判断急務に
    任天堂ゲーム機、Gショック、アシックス 日本企業の中国からの対米輸出年1兆ドル
    ・米通信部品が下方修正 売上高最大9% ファーウェイ禁輸で
    ・FRB、米企業債務を警戒 過去最大1700兆円 信用収縮リスクも <3>
    ・東南ア成長、米中が重荷 輸出落ち込み大きく
  5. 05/23

    ・ファーウェイ離れ世界で 新スマホ発売延期相次ぐ 国内や英韓大手 <4>
    ・自社株買い急増 9割増3.4兆円(今年度計画)カネ余り設備投資は慎重 <5>
    ・イラン、米制裁打撃大きく 物価上昇や雇用悪化 対話否定、強まる反米
    ・英首相が「再国民投票案」 離脱派も残留派も反発
    ・北朝鮮、核開発なお継続 新拠点相次ぎ発覚
    ・英半導体設計大手アーム ファーウェイと取引停止示唆「米に従う」
  6. 05/24

    ・インド総選挙与党圧勝 モディ首相続投へ 成長加速へ160兆円投資
    ・トランプ氏 ファーウェイ取引材料に 対中貿易交渉巡り言及
    アマゾン、日本で直販停止 ファーウェイ離れ一段と
    ・米、農家救済に1.7兆円 対中貿易戦争の長期化で 補助金を直接支給
    ・米世帯の負担倍増 NY連銀試算 対中関税引き上げで年間831ドル
    ・米中貿易戦争激化なら世界の成長0.3ポイント下振れ IMF試算
    「関税の支払いは米国の輸入業者がほぼすべてを負担している」とも指摘
  7. 05/25

    ・メイ英首相、与党党首辞任表明 来月7日に 対EU強硬路線も <6>
    ・日本企業、データ保護45%が未了 EU規制対応に遅れ 摘発リスク高まる
    ・米、人民元安けん制 為替誘導国に相殺関税検討 日本にも圧力
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