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週間国際経済2019(28) No.196 08/27~09/06

今週のポイント解説(28) 08/27~09/06

「同盟軽視」のアメリカと日韓関係

1.紙1枚のG7宣言

8月26日、フランス南西部ビアリッツで開催されたG7サミットが1ページ、5項目の宣言文を発表して閉幕した。従来のG7首脳宣言は、30ページ近く数十項目にわたる重厚なものを事務レベルの各国代表が練り上げてきたのに、今回は紙一枚。驚き半分、諦め半分というところか。なんといっても昨年のシャルルボア・サミット(カナダ)では、採択の3時間後にトランプさんが「承認しない」とツイートしてご破算になったのだから。

ところでこのG7サミット、主要国首脳会議と呼ばれる。アメリカ、日本、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、カナダ。経済規模でも軍事力でもなさそうだ。中国も入っていないこのグループは、なぜ「主要国」なのだろう。

サミットは、1975年ジスカールデスタン仏大統領の呼びかけで始まった。その当時は「先進国首脳会議」と呼ばれていたが、一時ロシアが加わって「主要国」に、ロシアを排除したあともそのまま「主要国」だ。それはともかく、ジスカールデスタンさんの構想は工業化された「民主主義国家」が一堂に会して共通の課題を話し合うことだった。

その根元には「普遍的価値観」とやらがあった。人権、言論の自由、法による支配、だから中国は入らない、ロシアも外された。1975年はオイルショックの直後だったから、自由貿易の促進も不可欠だったし、環境問題も重要項目だった。こうした問題についての責任を自認する国々として「主要国」だった。

でもそう、どれもトランプさんが嫌いな話ばかりだ。誰もトランプさんを説得しきれないし、トランプさんは意図的に合意を成立させない。だから「主要国」の概念は壊れてしまった。世界政治は、普遍的価値観という柱を見失った。

2.トランプさんの「同盟軽視」

こうした普遍的価値観というソフトパワーを基礎として、戦後「西側」は軍事同盟というハードパワーを形成してきた。その原点がNATO(北大西洋条約機構)だ。トランプさんは大統領選挙中から、このNATOは「時代遅れ」だとし、大統領就任以降はNATOから離脱したい意向を再三示して周囲から「それはいくらなんでも」と説得されてきた。

それでもトランプさんはNATO同盟国の軍事支出倍増を求めてドイツと激しく対立し、イギリスのEU離脱を歓迎し、北大西洋同盟の結束を揺らし続けていく。これはロシアの望むところだ。ついにNATO加盟国であり、対中東軍事拠点でもあるトルコはロシア製のミサイルを導入し、兵器の共同生産にまで踏み込むようになった。

一方、東アジアはどうだろうか。もちろん最前線は、在韓米軍だ。一言で在韓米軍と言ってもその規模は冷戦崩壊、対イラク戦争への戦力集中などで縮小し続けてきた。米韓連合軍の指揮権も平時はすでに、有事についても韓国に移管される予定だ。さらにトランプさんは、そもそも在韓米軍の必要性を疑っている。米韓軍事演習についても「好きではない。カネを使いたくない」とツイートするほどだ。

日米安保についても、トランプさんは「見直し」が軸だ。日米首脳会談のたびに安倍さんに「不公平だから見直したい」と迫っているようだ。「アメリカが攻撃されても、日本はソニーのテレビで見ているだけだ」、これはさすがに有権者向けパフォーマンスだろうけれど、それがまた支持されている。

トランプさんの安全保障観は支離滅裂なのだが、ある一貫性が見える。それはコストパフォーマンスだ。なるべくアメリカのコストを削減し、日本だろうが韓国だろうが、台湾、サウジアラビアなどがアメリカ製の兵器を買ってくれればご満悦なのだ。それが、じつのところすこぶるコストパフォーマンスが悪いということに気が付いていないだけなのだ。

3.「自国第一主義」と「単独行動主義」

アメリカが過重な安全保障コストを背負った悪い先例は二つ、ベトナム戦争と対イラク戦争、共通しているのは「単独行動主義」だ。そこから導かれるべき教訓は、国際協調と同盟関係強化のコストを惜しんではならないということだと思う。

アメリカの国際協調は、国務省が担う。トランプさんはその国務省予算を大幅に削減し、国際協調派とされたティラーソン長官を解任した。何より象徴的な出来事は、マティス国防長官の辞任だった。マティスさんはNATOの重要性、日米安保、米韓同盟の意義についてトランプさんを諫めることができる「最後の大人」と呼ばれていた。

そのマティスさんも、米軍のシリア撤退に抗議し、「我々は同盟の結束によって強くなるのです」という辞表を公開して去っていった。それからなんと、半年以上もアメリカの国防長官は「不在」だったのだ。

そのすきに、ホワイトハウスにはうようよと強硬派、「単独行動主義者」たちが浮いてきた。かれらの思考は、敵視・非妥協・空爆でおおむね説明できる。それがトランプさんの「自国第一主義」と波長が合った。ただそれも選挙に有利なあいだだけの相性だ。彼らの異端のイデオロギーは、票にならなければ切り捨てられる。

彼らを切り捨てたところで、破り捨てられた国際協調も同盟の結束も、あらためてそれを立て直すには、かなりの追加的コストを覚悟しなければならない。

4.日韓「安保」応酬

韓国文在寅政権は、それまでの保守政権とりわけ朴槿恵政権に対する否定から生まれた。慰安婦問題の日韓外相合意もGSOMIA(軍事情報保護協定)も見直すというのが公約だったし、いわゆる徴用工裁判も朴政権による引き延ばし圧力を批判していた。つまり日韓間で深刻な懸案が噴出することは目に見えていた。かなり双方の政治的調整が必要だと思っていたのだが、日韓の政治的スタンスは「相手を突き放す」で固まっていた。

これは懸念されていたことだ。でもぼくにとって予想外の驚きは、昨年末の能登半島沖で起きた韓国海軍による日本海上自衛隊哨戒機に対するレーザー照射問題だった。こうした事態の前例がどれだけあるのか、ぼくは知らない。でも驚いたのは、次の3点だ。

まず、韓国によるレーザー照射の公表は初めてのことだ。しかも事態が発生した翌日12月21日に岩屋防衛相が記者会見をして韓国政府に抗議した。当事者間の事実確認より前に「政治問題」となったのだ。次に、その当事者間の事実認識が食い違いうと、なんと双方が映像や音声を公開するのだ。ここにはかなりの安全保障上の情報が含まれている。驚きは続く、アメリカがこの問題について何も言わないのだ。

この日、マティス国防長官の辞任が発表されたこともあって、ぼくは当時のブログで「同盟規律の緩み」と書いた。しかし日韓安保応酬はさらに深刻化していく。8月2日、日本政府は輸出管理上の優遇対象国(いわゆるホワイト国)から韓国を除外する閣議決定をした。その理由が「安全保障上の懸念」だった。

さて、たいへんなことになった。もちろん韓国半導体産業に対する打撃もたいへんなのだが、8月24日にはGSOMIA破棄の通告期限が迫っている。

5.日韓GSOMIA破棄

日韓GSOMIAは2016年11月に締結され、1年ごとに自動更新されるが、どちらかが破棄する場合は90日前に相手国に通告しなければならない。そのタイミングで日韓は貿易戦争に突入した。

韓国に対するホワイト国除外について安倍さんは「約束(日韓請求権協定)を守れないのだから貿易管理も守れない」と言うのだから、これが徴用工判決がらみだと韓国が見るのも無理はない。それだけでも文さんは引き下がれない。

さらに具合が悪いことに、「いや徴用工問題は関係ない、安全保障上の適正管理」だと言うものだから、GSOMIA破棄通告期限がクローズアップされる。文さんは8月15日の解放記念日演説で日本との関係改善を呼びかけたつもりだから、それに反応がないことでますます引き下げれない。

そこは「自動延長」でやり過ごせばいい、そうもいかない。北朝鮮と中国を怒らせてしまう。北朝鮮は縮小された米韓軍事演習でも激しく批判する。中国はGSOMIAと関連した在韓米軍の地上配備型ミサイル撃撃システム(THAAD)導入に猛反発している。

アメリカの国防次官補は、韓国のGSOMIA破棄についていみじくも「利益を得るのは中国、北朝鮮、ロシアだ」と指摘した。日本の評論家たちもよくそれを口にする。よくわかっているではないか。そう韓国がGSOMIAを破棄すれば彼らは利益を得て、延長すれば怒るのだ。

ぼくは、文さんの両天秤を傾けたのはアメリカの「同盟軽視」という分銅の軽さだったと思うのだ。

6.米朝会談と日韓安保

トランプさんは金正恩さんとの会談を楽しみにしている。理由は単純だ。ほかに選挙に役立つ外交成果がないからだ。朝鮮戦争の「終結」宣言の手前まで行けば、またこれを「歴史的」だと喧伝するだろう。

トランプさんが金正恩さんと笑顔で軍事境界線を越えたように、たとえそれがトランプさんにとって選挙パフォーマンスに過ぎないとしても、「事実」として残る。こうした事実の蓄積が、米韓同盟、日米安保の存在理由を大きく揺り動かす。

どっちが悪いとか、どっちがもっと損だとか、タマネギがどうだとか、それはその筋の専門家に任せよう。

学生の皆さん。東アジアの政治・軍事構造が地殻変動を起こしている中で、どのようにして相互利益を立て直していくのか、それがぼくたちの座標軸だ。

日誌資料

  1. 08/27

    ・G7覆う自国第一主義 経済政策主導できず <1>
    米との溝に無力感 「反保護主義」盛らず1ページの宣言文書で閉幕
    ・人民元11年半ぶり安値 円一時104円台 金融市場再び波乱 通貨安競争を懸念
  2. 08/28

    ・ロシア・トルコ首脳 兵器の共同生産に意欲 米反発の懸念
  3. 08/29

    ・米「逆イールド」再び 長期金利低下 国債にマネー集中 <2>
    ・英議会の長期閉会承認 合意なき離脱 反対派、余地狭まる
    ・対話欠く日韓 袋小路 優遇除外、韓国はWTO提訴準備 輸出入や観光に影
    米国務長官、日韓の対立「失望」 改善求める
    ・米の天然ガス価格下落 報復関税で対中輸出急減
  4. 08/30

    ・中国、資金流出を警戒 海外送金、不動産の外貨調達制限 <3>
    ・フッ化水素 韓国へ輸出許可 政府、管理強化後で初 日韓供給網は維持
  5. 08/31

    ・韓国、来年度歳出9%増 金融危機後で最大 産業振興「脱・日本依存」狙う
    ・インド、5.0%成長に減速 4~6月 消費・輸出とも鈍化 <4>
  6. 09/01

    ・米「第4弾」きょう発動 世界経済に重圧 トランプ関税、空回り <5>
    対中関税1930年代波に 対中赤字減でも総額増 米経済にも逆風じわり
    ・改憲「議論すべき」77%(日経世論調査) 対韓政策支持7割に
    ・ドイツ州議会選 極右、第2党に躍進 二大政党離れ止まらず
  7. 09/02

    ・中国、米をWTO提訴 貿易協議不透明に
    トランプ氏「対中関税収入、農家に支給」 第4弾の正当性主張
  8. 09/03

    ・韓国、タイとGSOMIA 首脳会談で合意
  9. 09/04

    ・離脱延期案、議会審議へ 英首相「可決なら解散」
    英、合意なき離脱ならEUへ輸出1.7兆円減(国連推計)
    ・「対中交渉、再選後厳しく」 米大統領、WTO提訴に反発
  10. 09/05

    ・香港、逃亡条例案を撤回 行政長官 抗議収束は不透明
    ・英下院、離脱延期を可決 首相の解散提案は不発
    ジョンソン首相 EUに離脱延期申し入れなら「死んだほうがまし」
    ・イタリア、左派連合政権へ 「反極右」で呉越同舟 EU協調探る
    ・日ロ首脳会談 安倍首相「平和条約議論したい」
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