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週間国際経済2020(19) No.230 07/01~07/10

今週のポイント解説(19) 07/01~07/10

新型コロナvs財政

1.第一波で使い切ってしまった財政

パンデミックに対して世界各国政府は、一部の例外を除いて程度の差こそあれ大規模な移動制限で臨んだ。IMF(国際通貨基金)の言葉を借りれば「大封鎖」だ。そのIMFは6月24日に改定した世界経済見通しで、2020年の成長率をマイナス4.9%と予測し、経済損失は2年間で約1300兆円と試算した。

ILO(国際労働機関)は6月30日、今年4~6月の就労時間は感染拡大前の昨年10~12月に比べて14%減ったと発表した。フルタイムの労働者4億人が職を失った計算になる。「第二波」が押し寄せる悲観的シナリオでは、今年10~12月の就労時間は前年同期比11.9%減ると予測している。

こうした雇用危機に対して日米欧各国が採用した雇用支援制度は1億人が利用し、政府負担は100兆円に達している。そしてそれらが、この夏から期限切れが相次ぐ(7月3日付日本経済新聞)。

イギリスは、従来の給与の8割と社会保険料を政府が負担しているが10月末に期限を迎える。イタリアの給与保障はまもなく終わる。フランスも段階的に縮小し、ドイツの賃金減少6割補助も12月末までだ。アメリカの中小企業の給与支払い肩代わりは12月末まで、日本の雇用調整金上限1日1万5000円引き上げも9月末が期限だ。

一方でパンデミックは第一波が収束していないか、第二波が到来するリスクが高まっている。雇用支援だけではない、世界のパンデミック経済対策の総額はすでに10兆ドル(約1070兆円)を超えている。世界のGDPに占めるその割合は、リーマンショック後の2009年(1.7%)の2倍以上になるというIMFの試算もある。

さて、さらなる財政支出で移動制限を続けるのか、移動制限を緩和して経済活動を再起させるのか、世界は軸足の置き方に迷いながら進んでいる。今回はEU、アメリカ、日本の取り組みを整理しておこうと思う。

2.EU

欧州委員会は5月13日、域内の移動再開に向けた戦略を公表した。人数制限や予約制、感染状況などがその骨子だが、観光産業への依存度が高い南欧諸国への配慮が色濃い。なんといってもヒトの移動の自由は、EUの根幹に関わる問題だ。 

そして5月18日、メルケルさんとマクロンさんはテレビ会議で独仏首脳会談を持ち、ここで新型コロナ感染拡大で打撃を受けた欧州経済復興のため、5000億ユーロ(約60兆円)規模の基金を設立することで合意した(5月20日付日本経済新聞)。

EU全体で借金をして財政支援をするという試みで、いわば共同債務だが、驚きを持って受けとめられた。というのも他のEU加盟国の債務を肩代わりをするということに誰より反対していたのが、財政が健全なドイツだったからだ。メルケルさんは言う、「EUの歴史で最も深刻な危機に、それにふさわしい答えが必要だ」と。

もちろんEU経済あってのドイツ経済だ。マクロンさんにとって、いやフランスにとってもEUの財政共有は悲願だ。これを受けて欧州委員会は5月27日、新型コロナ感染からの復興計画を公表したが、新たに補助金と融資からなる7500億ユーロの基金を創設し、すでに合意した支援策と合わせて総額1.85兆ユーロ(約220兆円)規模になる。この補助金には返済の必要がない(5月28日付同上)。

しかし、全加盟国の同意が前提だ。財政規律を重んじる「倹約4ヵ国」(オランダ、オーストリア、デンマーク、スウェーデン)は23日、反対を表明している。欧州委員会は、これがたんなる南欧諸国の債務肩代わりだけではなく、環境やデジタルといった共通の成長分野に投資するものでもあると強調する。それが復興基金財源として、国境炭素税やデジタル課税が浮上する背景ともなっている。

移動制限で加盟国が内向きになり、イギリスは離脱し中国が揺さぶる。EUは存在意義を問われている。共通債券に近い構想で再結束を測るのだが、その復興が結局ドイツの一人勝ちにつながるのではないかという懸念も拭えない。

メルケルさんは引退し、マクロンさんの支持は下がる一方だ。EUとしての方向性は示されたが、道は険しい。

3.アメリカ

トランプさんの頭の中は「国益より再選」とボルトンさんが分厚い本を書かなくても、けっこう多くの人が知っている。トランプさんの軸足は、はっきりしている。感染拡大防止より早期の経済回復だ。トランプ政権が経済活動再開の指針を発表したのが4月16日だった。でも米疾病対策センター(CDC)が指針を策定したのは5月20日、この間CDCは「より甘い」基準を設けるようトランプさんから圧力をかけられていたという。

その前に、与党共和党が知事の州を中心に政府基準を満たさずに行動制限を緩和している。アメリカでの感染拡大は、6月から急加速した。1日平均3万人を超えて行き、7月には5万人、ついに6万人と急増し、7月8日に累計で300万人を超えた。トランプさんは経済優先だったつもりだろうが、規制を緩めた地域では再規制の動きが拡大している。

アメリカ政府・議会は3月末に総額2.2兆ドルの新型コロナ対策を打ち出した。これはGDPの10%を超える規模だ。これで4月の個人所得は前月比で10.5%増え、そこに制限緩和が重なって、5月にはアメリカの小売売上高は前月比で17.7%増えた。

驚くべきことだ。アメリカでは今、4人に1人が失業している。失業率は改善(4月14.7%、6月11.1%)されているが、潜在的失業も増えている。トランプ政権はそれまで平均で週380ドル程度だった失業給付を週600ドル加算し、「失職者の76%が以前の給付水準を上回る失業給付を受け取っている」(ゴールドマン・サックス)という。ここに最大1200ドルの現金給付が加わった。

新型コロナ感染対策であり、大統領選挙対策でもある。しかし、この失業給付の増額措置が7月末で打ち切られる。これで月400億ドル(約4兆3000億円)の個人所得が失われかねない(7月10日付同上)。航空会社の雇用支援も9月末で切れ、ユナイテッドは従業員の4割(3.6万人)を削減する可能性があると社内に通知した。

大統領選挙まで3カ月以上ある。野党・民主党は失業給付の加算を年末まで延長するように求め、トランプさんは1200ドル現金給付の第2弾を検討しているという。しかしアメリカの財政赤字は前年の4倍、4兆ドルに達し、GDP比では第2次世界大戦時並みに膨張している。

大統領選挙が終わっても新型コロナvs財政の戦いは続くのに、アメリカ財政は壁に突き当たっている。

4.日本

昨日テレビを見ていると、北海道大学の西浦さんが「野球に例えるとまだ2回の裏のコロナ側の攻撃中だ」と言い、京都大学の山中さんは「なにもしないと10万人が感染死することを忘れてはいけない」と警告していた。

安倍政権もこの戦いは「長丁場」だと言っていたが、どうやら序盤戦に戦力を集中投下してしまったようだ。担当大臣の西村さんも「もう緊急事態宣言とかは嫌でしょ」と意味不明なキレかただったし、小池さんも東京都の貯金を使い果たしたようだ。安倍さんは最後の解散総選挙用に消費税率引き下げという切り札を隠し持っているともいわれるが、例えそうだとしてもそれは選挙対策であってコロナ感染対策ではない。

最初のほうで、感染対策と経済回復の軸足の置き方が悩ましいと書いたが、もしかしたら日本は感染対策の軸足がもう折れてしまっているのかもしれない。東京では過去最大の感染者数増を記録しているが休業要請もなく、なんと「Go to キャンペーン」は前倒しで実施するという。たしかに、休業補償では休業を補償できないことは明らかだが。

感染拡大予防と経済活動再開の両立は難しい。難しいけど「基本」はある。「モーニングショー」ではないが、ぼくはしつこいくらい「検査と隔離」を言い続ける。

ここで日本の新型コロナvs財政を見てみよう。安倍さんは緊急経済対策としての第一次補正予算(4月)と第二次補正予算(5月)を合わせて「国内総生産の4割に上る空前絶後の世界最大級」と昭和映画の宣伝文句よろしくアピールしていた。この「事業規模」というのが「張りぼて」だと、ぼくは第一次補正のときに書いた(⇒ポイント解説№221)。

第二次も手口は同じだ。日本経済新聞ですら「透ける規模優先」、「かさ上げ」、「ふくらし粉」(5月28日付)と辛辣だ。6月19日付でも「選別甘く」、「既存事業の衣替え顕著」とまだ言い足りないようだ。

その通りなのだが、この中には真水と言われる実際の国費支出が第一次で約27兆円、第二次で約33兆円、合計約60兆円が含まれている。ぼくがここで言いたいのは、その1割でも「検査と隔離」に使われたのか、ということだ。

こんなことを言うと、お決まりのように検査を増やせば医療崩壊を招きかねないと返される。いや、医療崩壊は検査数ではなくこの分野に対する財政資金投入で決まるのではないだろうか。すると保健所が目詰まりだと返される。どうして保健所を通さねばならないのか、感染症法による行政検査だからだ。あれ、でも空港の検疫では保健所を通さない、あぁそれは検疫法によるから。それじゃ法律を見直さなければ、いや国会は閉じている。

水掛け論だ。でも悔しい。リアルな財政支出の1割、つまり約6兆円だけでも「検査と隔離(医療体制を含む)」に投じられていたら、と。それでどれだけヒトの移動(つまり経済活動)を支えられたことだろう。

財政は民主主義の基礎だ。だから今回のタイトルは本来、「新型コロナvs民主主義」とするべきだったんだろう。

日誌資料

  1. 07/01

    ・香港国家安全法が施行 中国、統制強化 一国二制度危機 <1>
    ・独仏首脳会談「国境炭素税は必要」 EUで検討本格化へ
    ・景況感11年ぶり低水準 日銀6月短観マイナス34 コロナで停滞鮮明
  2. 07/02

    ・テスラ、時価総額22兆円 トヨタ超え自動車首位へ
    ・日本車販売、米で34%減 4~6月6社 米3社は35%減 販売店休止響く
  3. 07/03

    ・対中制裁「香港自治法案」、米議会を通過 トランプ氏が署名判断
    ・米輸出5.8%減 10年ぶり低水準 貿易赤字は6.4%増
    ・雇用危機、迫る第2波 支援制度、日米欧で期限切れへ 負担すでに100兆円
    ・米失業率改善11.1% 6月 「潜在的失業者」は増加
    ・プーチン体制、「信任」で自信 ロシア改憲、賛成78%で成立
  4. 07/04

    ・石炭火力、抑制に転換 低効率100基、休廃止方針 経産相 <2>
    高依存、世界から批判 欧州の「全廃」とは一線 送電網、再生エネ優先へルール見直し
    ・ユーロ圏失業率7.4% 5月 2カ月連続悪化 若者の拡大警戒
    ・株保有、日銀伸び最大 昨年度1ポイント強上昇5.7%に 企業の緊張に緩み
    ・税収、昨年度2兆円減 法人税が1.5兆円落ち込みの10.8兆円
  5. 07/05

    ・「自由への攻撃、すぐ止めさせる」 トランプ氏、左派を非難
    ・米軍、アジア太平洋シフト ドイツ駐留3割減 海空中心に中国と対峙 <3>
  6. 07/06

    ・中国、東シナ海でも演習 3海域(南シナ海、黄海)同時、影響力を誇示
    ・格下げ最多 世界で1400社 中銀支援で債務拡大 危機先送り懸念も
  7. 07/07

    ・中国半導体2.2兆円調達 昨年の2.2倍 政府系が支援 米に対抗、国産化加速
    ・英、ファーウェイ段階的排除 現地報道 5Gで米に追随
    ・熊本豪雨、死者49人 福岡・佐賀・長崎に特別警報
  8. 07/08

    ・米、WTO来年7月脱退 資金拠出最大 国連に正式通告
    ・経常黒字5月27.9%減 旅行収支の黒字縮小 <4>
    ・ユーロ圏マイナス8.7%成長 今年見通し下方修正 縮小幅が最大
  9. 07/09

    ・米、コロナ感染300万人超 営業規制、再び広がる 1日6万人、最多に <5>
    ・米経済「財政の壁」迫る 失業給付増打ち切りなら個人所得4兆円消失も
  10. 07/10

    ・バイデン氏が経済対策 米製造業に75兆円投資 500万人雇用創出めざす
※PDFでもご覧いただけます
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