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週間国際経済2024(12) No.386 05/02~05/09

今週のポイント解説 05/02~05/09

政策的為替介入

第1ラウンド、4月29日

4月29日、午前10時30分頃にまとまった円売り注文が出て円安が加速して一時1ドル=160円台にまで円は急落した。これはある程度は予想されていたことだった。26日には日銀が追加利上げ見送りを決定したがしかし、これは市場に織り込み済みの材料だった。能登半島地震があり、ダイハツ工業の出荷停止措置の影響が出る頃に、ふつう中央銀行は利上げを繰り返さない。

より大きな材料は、アメリカの通貨金融政策だ。25日にイエレン米財務長官がインタビューで、為替介入は「極めてまれで例外的な場合に限る」とクギを刺し、同時にドル高容認姿勢を示した。そして米金利先物の値動きから政策金利を予想する「フェドウォッチ」で、25日午後に、年内利上げ確率について「1回」が約4割になってこれが最多となった。年初には6回程度とずいぶん楽観的な見込みだったのに。そして26日には「1回以下」が6割に達した。

つまり、ここまでの155円台から158円台へ1週間で3円の円安加速は、アメリカのインフレ長期化警戒、ドル高容認姿勢、それによる米長期金利への上昇圧力が、ドル買いを促したことによるものだった。

すると4月29日、日本は祝日だ。取引は薄いから売り買いが為替レートに大きく影響する。また国内の輸出企業によるドル売り円買いがない。さらに5月1日にはFRBの政策決定会合(FOMC)が予定されており、ここで何か新しい材料が提供されないとも限らない(パウエル議長発言のニュアンス変更など)。まとめて円を売るなら、今だ。

るるこうしたことから、4月29日の一時160円台は予想されていたと言ってもよいだろう。しかし、これがかりに160円35銭を割り込むならば、フェイズが変わる。というのも、それは1986年12月以来の安値となる。これまで「34年ぶりの円安」を繰り返していたが、その節目を越えてしまう。

29日の午後1時過ぎから、大規模な円買いが断続的に入り、154円台にまで円が急騰した。市場では直ちに、日本財務省・日銀による政策的為替介入だという見方が広がった。財務省は「ノーコメント」だ。しかし翌30日に公表された5月1日の日銀当座預金残高見通しによると、5兆円規模の円買い介入があったと見られている。「覆面介入」だった。円売り同様、祝日で商いが薄いゆえに、相場を動かす効果は強かった。

しかしその後また157円台へと、円安基調は変わらなかった。たとえ大規模な介入があったとしても、日米金利差は大きく開いたままなのだから。

第2ラウンド、5月2日

別にどちらかの肩を持つわけではないが、5月2日の円買い介入「劇」は痛快だった。日本時間5月2日早朝はNY時間5月1日夕刻、パウエルFRB議長の記者会見で金利は据え置くが利上げ再開は否定された。日米金利差は広がらないのだから円売りが緩む、そして利益確定のドル売り(円買い)が進む。そこに、まさにそこに大規模な円買い注文が発生した。

円相場は1ドル=157円台から一気に153円台に上昇した。2度目の介入があったに違いない。介入規模は3兆円以上だと見られている。3日のNY市場では一時151円台後半にまで上昇したのだか。財務省・日銀の8兆円強の円買い介入によって、週間の値幅は8円強にのぼったわけだ。

何度も繰り返しになるが、これで円安トレンドに変化があるわけではない。円安阻止は一時的効果しか期待できない。が、しかし、日本通貨当局の円安進行を容認しない姿勢は強いメッセージとして市場に届いたと思う。実際に少なくない投機筋は損を出しているだろうから、これまでよりは円売り投機に慎重にならざるを得ないはずだ。

第3ラウンドはあるのか

じつは介入が実行されるまで、介入は行われないだろうという見方がやや強かった印象がある。というのも、介入の効果が疑わしいというか、せいぜい一時的なものに過ぎないと見くびられていたからだ。しかし、介入があった。そして一時的であれ効果はあった。すると今度は円買い介入の「余力」が探られるようになる。

政策的為替介入の元手となる政府保有外貨準備は約1兆2900億ドル(約200兆円)ある。このうち実際に介入に使える原資としてバンク・オブ・アメリカが試算するところによると3000億ドル(約47兆円)ほどだという。だとすれば5兆円規模で「あと8回」ということになる(5月2日付日本経済新聞)。いや介入原資は当面現預金の1550億ドル(約24兆円)だという見方もあるから、その場合2回目の3兆円を差し引いて残り20兆円なのか。こうした見方を日本財務省は全面否定する。「いつでもやる用意がある」(神田財務官、9日)と大見得を切る。そうだ、余力を測られることこそ一番たちが悪い。

しかし、「いつでもやる」は信用できない。神田氏は介入原資の限界についても「まったく間違っている」と断言する。しかし、2度目の介入があった後にもイエレン米財務長官は13日、為替介入について「機能するとは限らない」し、「極めてまれなこと」と従来の見解を繰り返した。介入が繰り返されることにクギを刺したと見るのが自然だろう。ドル安転換は、アメリカのインフレ再燃に繋がりかねないのだから無理もない。そして4月25日には「(介入については)事前に協議があることが期待される」と述べている。

やはり円売りとは違って円買い介入には、物理的にも政治的にも限界があるのだと思う。さすがに外貨準備のうちアメリカ国債で運用しているものまで売って円買い原資にすることなど、そうとうハードルは高いのだ。

円安は進むのか

介入には一時的効果しか期待できないし、何度も繰り返せるものでもない。残念ながら、つまるところ為替レートは日本の通貨当局がどうこうできるものではないのだ。巷では日銀に利上げを要求する声もあるが、量的緩和(大規模国債購入)を続けながら政策金利を少しほど上げたからといって、あまたある円売り材料が軽くなるわけではない。

やはり、アメリカがどうにかならないと、そうインフレが収まって、利下げに転じてくれないことには外為市場のトレンドは変わらない。

じっさいのところ、第2ラウンドの為替介入によって円相場は157円台から一時153円台に上昇したが、それがさらに151円台にまで進んだのは介入効果ではない。5月3日アメリカ労働省が発表した4月の雇用統計で、就業者数増が市場予想を大きく下回り雇用の過熱感が和らいだ。これが転機となったのだった。

市場とは現金なもので、これで景気の軟着陸シナリオが浮上し、早くも「冷え込み」を警戒する声が出始めたくらいだ。つまり利下げの環境が整ってきたというのだ。利下げ観測からNY株は10日まで5ヶ月ぶりに8日続伸する。

市場が調子に乗らないように(調子に乗るとインフレが再燃しかねない)、パウエルFRB議長は14日にインフレ鈍化には予想以上に時間がかかると戒めるが、15日発表の4月消費者物価指数(CPI)は3.4%上昇と3ヶ月ぶりに伸びが鈍化し、同日発表された4月の小売売上高は前月比横ばいで、これも市場予想を下回った。

歴史的円安は一服か

「歴史的」とは大げさだ。しかし相場は153円前後で落ち着きを見せ始めている。政策的為替介入の効果は一時的とは言われるけれども、円の「フリーフォール」も懸念された160円割れから、最も緊迫した「一時」をよく乗り越えたと評価することができると思う。

だからといってこの150円台の円安で、日本の生活の物価高負担が収まるわけではない。3月の実質賃金は2.5%減、これで24ヶ月連続マイナスだ。これはリーマンショック前後を超えて過去最長を更新するものだ。同じく3月の消費支出も実質1.2%減で、こちらは13ヶ月連続のマイナス。さて、4月の賃上げ、5月の定額減税で、物価と賃金の「好循環」の兆しがみえるかどうか。そうしたなかで日銀の利上げとFRBの利下げが重なれば、一時しのぎの為替介入は大成功だったということになる。

そこでぼくが心配しているのが為替介入の「成功体験」だ。介入すれば円高になるという誘惑だ。5月10日に開いた経済財政諮問会議では「日銀は円安圧力緩和を」との注文が出たという。そういえば、9月には自民党総裁選がある。

為替介入という政策に、安易に政治が介入しないか。どうでもいいといってはなんだが、こんな政権の支持率浮揚のために、せっかくの為替安定シナリオに不純物が混入しやしないか、やれやれそれも心配だ。

日誌資料

  1. 05/02

    ・米金利6会合据え置き FRB インフレ収束「進展なし」量的引締めは減速
    揺らぐ年内利下げ パウエル氏、開始時期に言及せず
    ・円急騰 一時153円台 FOMC後4円超上昇 円買い介入の見方 <1>
    市場、円買い介入余力探る 「あと8回」の見方も
  2. 05/03

    ・沈む円、悪循環回避へ発動 2度目の介入観測、計8兆円か
    縮まぬ日米金利差 日銀に圧力 追加利上げ判断難しく 円安基調なお 成長戦略、急務に
    ・NY原油80ドル割れ 1ヶ月半ぶり 米の需要減速観測 中東停戦への期待も<2>
  3. 05/04

    ・円上昇、一時151円台 米雇用4月17.5万人増 市場予想(24万人)下回る
    米雇用の過熱感和らぐ 失業率は3.9%に上昇
    ・アジア、通貨防衛に走る インフレ再燃なら経済減速懸念 為替介入でけん制 <3>
    ・日米豪比、共同訓練を拡大 防衛相会談 中国抑止へ調整
  4. 05/05

    ・円変動、週間8円強 先月29日の電子取引額 22年介入時超え
  5. 05/06

    ・バフェット氏、鈍る株投資 手元資金最高 高金利・株高背景に
  6. 05/07

    ・米、弾薬供給を停止 イスラエル向け、米報道 ガザ戦闘開始後で初
    ハマス、休戦案「受け入れ」 イスラエル「要求には遠く」
    ・英地方選(イングランド)で与党大敗 総選挙に暗雲 政権交代が現実味
    ・習氏訪仏 EVなど「過剰生産、存在しない」 仏・EU首脳に反論
    ・IMF専務理事「円相場下落は劇的」 日本の対応に理解
  7. 05/08

    ・円安進行、薄氷の抑止 為替介入・米景気にらみ綱引き <4>
    米消費者物価が焦点 米経済に減速の兆し 日銀総裁、首相と面会
    ・プーチン氏「対話は欧米次第」通算5期目が始動 ウクライナ巡り反論
    ・中国、欧州の包囲網に対抗 習氏訪仏、「脱米国1強」訴え 首脳会談
    親中2国(ハンガリー、セルビア)も訪問へ
    ・米年内利下げ「ゼロ回も」 ミネアポリス連銀総裁 指標見極め
    ・米商務省、ファーウェイへの半導体輸出許可取り消し インテルなど対象か
    ・認知症患者、30年に523万人 高齢者の14% 8年で80万人増 厚労省推計
    仕事と介護両立困難→損失9兆円 人材確保、テック活用必須
    ・TikTok、米政府を提訴 規制法成立「禁止は違憲」 表現の自由、争点に
  8. 05/09

    ・日銀総裁 円安巡る発言、軌道修正「物価に影響及ぼしやすく」
    ・中国、香港株にマネー流入 配当積み増しや割安感 上昇率、米株を一時逆転
    ・台湾輸出、中国依存が低下 1~4月30%、22年ぶり水準 デジタル供給網分散
    ・実質賃金3月2.5%減 24ヶ月連続マイナス 過去最長に <5>
    ・外貨準備1.8兆円減 4月 米金利上昇で「証券」減少
    ・トヨタ営業益5兆円 前期 日本企業初、HV伸びる
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