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週間国際経済2021(10) No.260 03/31~04/05

今週のポイント解説(10) 03/31~04/05

バイデンさんの大盤振る舞い

1.220兆円投資

バイデン政権は3月31日、8年間で総額220兆円(2兆ドル)規模のインフラ投資計画を発表しました。主な投資先は道路・鉄道、半導体供給網、クリーンエネルギーなどです。財源として法人税率を現行の21%から28%に引き上げ、企業の海外収益にも2倍の税金を課すという案を議会に提出しました。

驚きました。というのもバイデン政権はほんの3週間前にも200兆円規模の経済政策を打ち出したばかりなのです。このときは国民1人あたり最大15万円の現金給付や失業給付の特別加算などを柱としたもので、バイデンさんはこれを「米国救済計画」と呼んでいます。対して今回の投資は「米国雇用計画」と名付けています

200兆円といえばアメリカの年間GDPの10%にあたります。それを連発するなんてすごいなぁともうらやましいなぁとも思います。でも同時に、そんなことしてだいじょうぶなの?そもそもできるの?と心配にもなります。

2.野党の反発

議会制民主主義とは、「税金の集め方とその使い方を納税者の代表が議論するところ」です。その税金の集め方と使い方のことを財政政策と呼びます。財政政策は次のふたつに分かれます。ひとつは「高負担高福祉」、つまり税の負担は大きいけど社会保障は手厚いという政策(これを「大きな政府」と呼びます)、もうひとつは反対に「低負担底福祉」、税金は下げるから社会保障も削減する(ですからこっちは「小さな政府」ですね)。この基本政策を主張し合うのが二大政党政治の基本です。

アメリカでは前者が、今の与党の民主党、後者が今野党の共和党ということになります。その共和党はトランプ政権時代に大型減税で人気を得ましたから、そのときに引き下げられた税率を元に戻すとなれば支持を失いかねません。またバイデン政権もアメリカ社会の「分裂と対立」を克服すると約束していますから、野党支持者を無視するわけにもいきません。

財源とはいっても増税は景気にマイナスだと考えられていますから、そのマイナスを上回るだけの投資効果があるのかも問われます。また法人税率を引き上げるとアメリカから企業が逃げ出さないか心配になります。そこでアメリカ財務相は主要国(G20)に「最低税率導入」を呼びかけています。

そしてバイデンさんは野党を説得するために、この投資計画は「中国との競争に打ち勝つため」と主張しています。中国への警戒は与野党一致しているからです。でもこれもどうでしょう。というのも、アメリカが投資を急増させれば中国からの輸入も急増しますから。

3.景気の過熱、インフレ懸念

このようにツッコミどころ満載なのですが、このバイデン政権の大規模投資には野党だけではなくマーケットも不安を感じています。なんせ、規模が大きすぎるのです。

新型コロナの感染拡大を予防するために移動が制限され、消費がひいては投資が、つまり総需要が萎縮しました。こうなると生産も、つまり総供給も縮小します。しかし財政支出によって徐々に経済も回復し、アメリカのGDPはコロナ前の97%程度にまで戻っています。また供給に対する需要不足も7000億ドルほどまでになっています。ここに2兆ドル、GDPの約10%の財政支出が連続的に追加されるわけです。

これまでの消費控え、現金給付、失業手当などによって貯蓄は膨れ上がってきました。これがワクチン効果などによって消費に弾みがつくと、需要はなかなかそれに追いつかない供給を大きく上回るようになるでしょう。すると景気は過熱し、物価が急上昇することが想定されます。またアメリカの雇用は増大しつつあり、経済学では失業率とインフレ率はトレードオフの関係にあると説明しています。さてインフレになれば景気は一気に腰折れし、株価も大幅に下落するでしょう。

しかし経済回復は「K字回復」と呼ばれているように、業種によって回復速度に大きな違いがあり、所得の格差も広がっています。ですから財政的支援は持続的に必要だと思うのですが、バイデン政権の投資計画は中国との競争を意識してか、そうした国内格差への配慮が不足しているように見えます。

4.「双子の赤字」と高金利ドル高

もちろん財政支出が先行し、増税や経済回復による税収増は遅れますのでアメリカの財政赤字は急拡大します。また需要刺激策によって中国を中心とするアジアなどからの輸入が急増して貿易赤字もさらに巨額なものになるでしょう。こうした財政と貿易のダブル赤字を「双子の赤字」と呼びます。

一方でアメリカの中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は、インフレ予防のために金融を引き締めるのではないかという投資家たちの不安を気遣ってか、一時的に物価が上がっても金融緩和(通貨供給増大)を続けるとアナウンスしています。しかし中央銀行がコントロールできるのは短期的な政策金利だけで、市場が決定すると考えられている長期金利はじわじわと上昇しつつあります。アメリカの長期金利が上昇すればそれに引きつけられてドルが買われ、ドル高になる傾向が強まります。

こうなると、新興国からの資金流出観測が強まります。多くの新興国はドル建てで資金が流入していましたから、ドル高とアメリカの金利上昇は海外債務の膨張になります。これに対して新興国が自国通貨安と資金流出を防ごうとして金利を引き上げると経済回復の足かせとなります。新興国はたいへんだな、いえいえ、その新興国に一番投資や融資をしているのは日本の金融機関なのです。つまり日本の貯蓄がリスクにさらされているのです。

5.基軸通貨国の奢りが心配です

アメリカの国内通貨であるドルは、国際通貨です。世界中の取引決済に利用されている、つまりドル需要があります。ですからアメリカは財政が赤字で貿易も赤字で、それを埋めるためにどんどんドルをたくさん供給しても、それを世界が喜んで引き受けてくれると思っています。これを基軸通貨国特権と呼びますが、果たしてそれは持続可能でしょうか。

バイデン政権の景気過熱を恐れない、あまりに性急で過大な景気対策は世界中にリスクをもたらし、アメリカ経済にブーメランとして返ってきます。そのリスクの兆候を、しっかりと観察していくことが求められています。

日誌資料

  1. 03/31

    ・米、ウイグル弾圧は「ジェノサイド(民族大量虐殺)」 人権報告書で中国非難
    ブリンケン国務長官、香港、ミャンマーも批判
    ・男女平等、日本120位(世界経済フォーラム、156ヵ国中)
    教育は平等も、所得格差・管理職・議員数で大きく遅れ
    ・日インドネシア2プラス2(外務・防衛担当閣僚協議)防衛装備品輸出で署名
    ・香港議会、親中派を大幅増 選挙制度見直しを正式決定 中国全人代常務委
    ・鉱工業生産2.1%低下 2月、半導体不足で車減産
  2. 04/01

    ・米、220兆円投資を提案(31日)インフラ、企業増税で <1>
    バイデン氏、「雇用生み中国に勝つ」 増税上回る効果不可欠
    ・「まん延防止」初適用 大阪・兵庫・宮城 5日から1ヶ月
    ・景況感コロナ前回復 日銀3月短観 輸出・生産拡大 景気「K字型」鮮明に<2>
    機械・電気、海外回復で改善 宿泊・飲食、時短が重荷
  3. 04/02

    ・世界の時価総額1.2京円 3月末 過去最高1年で6割増 GDPを大幅超過 <3>
    ・コロナ接種100万回超す コロナワクチン、欧米に遅れ 米は1日300万人
    ・中国、米欧けん制 ミャンマー情勢 東南アジア外相と協議
    ミャンマー国連大使「日本は投資中断を」 国軍へ圧力訴え
    ・ファイザー「半年後も効果」 コロナワクチン 南ア型にも有効
    ・日米首脳会談4月16日に延期
  4. 04/03

    ・米雇用復調91万人増 3月、ワクチン普及支え 飲食店などけん引 <4>
    少なくともワクチン1回接種、全人口の30%に 黒人の失業率9%台で高止まり
    ・インド、コロナ第2波 1日8万人 ムンバイなど封鎖懸念 <5>
    ・テスラのEV、世界販売2.1倍 1~3月 中国で好調
    ・北朝鮮非核化へ協力 日米韓、高官協議で一致(2日)
    ・独与党、支持2割台に急落 ワクチン接種遅れ不満強く 9月総選挙、政権交代も
    ・米、接種完了で旅行可能 米疾病対策センター(CDC) 経過2週間で国内外に
  5. 04/05

    ・日米首脳会談、気候変動で新協定 脱炭素目標を協議 <6>
    ・米インフラ計画、共和党反発 220兆円「3割に圧縮」要求も 増税にも反発
    ・・LG、スマホ撤退 技術流出懸念で売却断念
    ・日経平均、一時3万円回復 米雇用統計に好感、円安基調に安心感
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