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週間国際経済2021(31) No.281 09/20~09/26

今週のポイント解説(31) 09/20~09/26

習近平さんの文化小革命 中国はどうなっているのか その2

1.文化大革命

毛沢東さんは、中国の抗日戦争から建国の指導者です。その毛沢東さん、1950年代末からの経済政策に大失敗して事実上失脚します。そして権力を奪回しようとして起こした大衆運動(1965年頃~76年)を文化大革命と呼びます。この時期ぼくは、中学生から高校生だったのですがなぜかとてもこの文革に興味があって、雑誌などで特集があれば欠かさず読んでいました。その後も10冊をはるかに超える関連書籍を読んでいます。それでも、どうしてここまでの大混乱になったのか、説明することができません。一時期わかったような気がしたこともありましたが、今となってはやはり理解できません。ましてやあれから45年経って、今の中国を見るキーワードのひとつに浮上するとは思ってもいませんでした。

中国現代史には初歩的な知識しか持ち合わせていないぼくですが、「中国はどうなっているのか」を観察するために今回はあえてこの「文革」を軸にして考えてみることにします。

2.急加速する中国の国家統制

中国では今、経済・社会・文化・教育など全領域で中国共産党による締め付けが強化されています。この夏の主な動きを時系列で並べてみましょう。その前提として、できれば7月中旬に書いた「中国共産党100年」(⇒ポイント解説№273)読んでください。今から見るのは、その中国共産党100年式典(7月1日)以降の動きです。

7月25日、中国規制当局がネット大手テンセントの音楽配信とゲーム動画配信について是正命令を出したことが報じられました。8月3日には国営新華社通信系で「ゲームは精神的アヘンだ」と批判する記事が掲載されました。8月14日付日本経済新聞では教育分野での統制強化に関する記事がありました。上海では新学期から小中高で「習近平思想」が必修化され、小学校の英語試験が禁止されたということです。8月20日には個人情報保護法が成立し、個人データ(自動車の走行データも)の海外への持ち出しが厳しく制限されます。9月1日にはデータ安全法が施行され、国内で扱うあらゆるデータを国家が管理する体制となりました。その前日8月30日には習近平さんが共産党の会議で「独占禁止を強化する」と述べています。

この間に大きなターニングポイントがありました。習近平さんが8月17日「共同富裕」という目標に向けた政策を発表しました。それは報酬・税金・寄付を通じて所得配分を計るというものです。これ以降、大手IT企業、テンセント、アリババ、スマホのシャオミ、TikTokのバイダンスなどからの高額寄付が相次ぎます。

続けます。9月2日には共産党中央宣伝部が芸能人を厳しく管理して思想教育を教育すると芸能関係企業に通知を出しました。9月8日付の日本経済新聞では中国で芸能界に一斉締め付けが起きているという記事がありました。有名女優の脱税摘発やアイドルのファンクラブによる資金集めに対する規制などが連発していると。同時に反日ムードも高まります。

3.今のところ「小」革命

どうですか。たしかに不気味だけれど、中国的には大事件と言うより小事件の連続といった感じですよね。たとえば習近平さんの「金言」が学校で必修化されたとのこと、たしかに文革のときも「毛語録」が大流行しましたが(毛沢東さんの金言集です。日本の本屋さんでも平積みだったんですよ)、これを手にかざした紅衛兵(毛沢東思想を熱狂的に支持する若者のたち)は、学校でおとなしく勉強するどころか教師を吊し上げていましたから。文革当時は、すべての権威に対して反乱することが正しかったのです。

9月8日付日本経済新聞の見出しは「よぎる文革の記憶」とあります。大げさなようですが、かといって的外れでもないと思います。40年以上昔のこととは言え、「文革の記憶」は今も中国の人々に深く刻まれているでしょうから。そういえば文革も、当初は「文芸整風」という文化的荒廃に対する批判から始まりました。そうした記憶が刺激されても不思議ではありません。

もちろん文革と比べれば、その規模、範囲、期間において比較にならないという意味で、今はまだ文化「小」革命です。しかしぼくは、両者に共通点も感じます。その第一に、中国において経済政策の転換が求められていること。最初のほうで言いましたが、毛沢東さんは経済政策で大失敗し、社会主義建設を巡る共産党内の路線闘争に敗れています。大雑把に言えば「徹底した中央統制による集団化」(毛)か「部分的に生産と消費の自由を認める」のかといった基本方針の対立です。

そして現在も、前回ポイント解説で書いたように「中国経済の壁」を巡る経済政策の転換が問題になっている、それが共通点です。ちなみに、これは後から大事になりますが、文革は最終的に毛沢東さんの死後に鄧小平さんの路線、「4つの近代化」と「集団的指導」(個人崇拝からの脱却)が勝利します。

第二に、こうした共産党内の主導権争いが、今の規制強化の背景に感じられるという共通点です。当時、毛沢東さんは「階級闘争」は永続的だと呼びかけました。だから中国共産党内で実権を持ち、資本主義に走る幹部を根こそぎ追放しなくてはならないと。これは共産党内部の「権力闘争」ですよね。それが大衆運動になるところが毛思想の特徴です(偉そうに言っていますが、なぜその権力闘争があれほど大規模、広範囲、長期間にわたる大混乱になったのか、ぼくにはまだ謎のままですが)。

前回のポイント解説では、中国経済の壁その4.として「習1強体制」をあげました。来年秋の3期目長期政権に向けての国内締め付けが「壁」となっていると。すると経済成長を犠牲にしてまで「1強体制」を維持しなくてはならない理由があるはずだと思うのです。

4.3つの派閥

こうしてみると中国政治における保守派と改革派の権力闘争は1960年代から激しく繰り広げられていたのですよね。文革が終わって鄧小平さんたちの改革派が主導権を獲得した1970年代末以降もその水面下では闘争は続き、改革・開放が決定的な路線となったのは1990年代になってからのことです。ここから中国経済は本格的に外国資本を受け入れ、WTOにも加盟し、香港も返還されて、驚異的な高度経済成長期に入ります。

この時期に、絶大な権勢を誇ったのが江沢民さんを頂点とするグループでした。鄧小平さんによって総書記に抜擢され国家主席になった(1993年)江沢民さんの共産党内の基盤は弱かったので、江沢民さんは自分の部下たちをどんどん幹部に登用して派閥を形成していきます。江沢民さんは上海市党委員会のトップだったので、このグループは「上海派」と呼ばれます。時代を背景にした振興派閥だと言えるでしょう。

時代が高度経済成長期で、とくに外資に対する許認可権限を通じて賄賂や汚職が横行するようになります。これに反発していたのが中国共産党下部組織である共産主義青年団の出身者で、「団派」とも呼ばれています。

文革で失脚し復活した鄧小平さんは、個人に権力が集中することを恐れ、集団指導体制をもう一方の改革の柱としていました。共産党トップに5年2期までという任期を設け、ポスト江沢民体制として、次のトップに「団派」の中心人物である胡錦濤さん(2003~2012年国家主席)を指名していました。

胡錦濤さんたちは言わば叩き上げの共産党エリートですから、改革開放は認めるものの格差拡大、とりわけ急成長する沿岸部と停滞する農村部の格差を是正しようとし、上海派の腐敗を問題視していました。しかし1997年に鄧小平さんが他界したこともあったのでしょう、上海派の猛烈な抵抗にあいます。

その胡錦濤政権の任期が来た2012年の党大会で、後継者に指名されたのが習近平さんでした。習近平さんは上海派でも団派でもありません。習近平さんのお父さんは副首相まで務めて文革中に失脚しました。習さんのように革命第一世代の子弟たちは「太子党」(偉いさんの子どもたち的なニュアンスでしょうか)と呼ばれています。

今日本はどうなっているのかを問うときにも、自民党派閥がキーワードに浮上していますよね。中国はどうなっているのかを問うときにも、この上海派、団派、太子党の3つの派閥の勢力図はけっして無視できるものではなさそうなのです。

5.習近平1強体制

習近平指導部の反腐敗運動は凄まじいものでした。まず標的になったのが上海派です。彼らを共産党最高幹部(中央政治局常務委員会)から追放します。最高幹部だけではありません、「トラも叩けばハエも叩く」(習近平)というように地方の派閥幹部も粛清していきます。

さて、ここからが問題です。習近平さんは同じグループだと言われていた太子党のライバルたちも「腐敗」容疑で追放します。ついに2期目には団派からも、李克強さん(首相)などを除いて最高幹部に登用しなかったのです。そしてなんと憲法を改正して5年2期、つまり最高権力者は10年で交代するという「集団指導体制」を否定し、党規約に習近平さん自らを中国共産党の「核心」(譲ることのできない最重要なもの)と明記したのでした。

この2017年の党大会は、アメリカの対中強硬政策の転機になったと言われています。アメリカ政界は中国の改革開放による経済成長が政治的民主化を促進すると考えていたようでした。ちょっとうがった見方をすれば、アメリカは習近平体制の10年が終われば、また上海派が主導権を握ると期待していたような気がします。「腐敗」は「利権」ですからね。団派とも太いパイプがあります。でも、習近平体制だけはだめだと。

6.習1強は習「孤立」か?

トランプさんだけではありません。2017年の党大会以降、アメリカ議会は超党派で対中強硬政策に急傾斜するようになりました。あれだけ蜜月といわれたドイツも、時間をかけて中国と距離を取るようになっています。イギリスは香港問題で対中強硬に急転換しました。

そうした国際情勢のなかで、来年秋に習近平体制3期目の可否がかかる共産党大会が予定されています。習近平さんが上海派や団派の反撃を警戒していることに疑いの余地はありません。またその反対勢力の背景に、外国勢力の影を見ているのだと思います。

さて、話を「文化小革命」に戻しましょう。まず習近平さんは国内大手ハイテク企業を叩き、女優さんやアイドルたちを叩いています。「ITも叩けば芸能も叩く」ですね。じつはこの大手ハイテク企業と芸能界のほとんどは上海派とつながりが強いことは中国では常識だということです。なるほど改革開放の申し子たちですからね。

さらに今、大騒ぎになっている大手不動産会社「恒大集団」ですが、あの恒大の本社は広東省にあり、広東省は団派の地盤で、つまり恒大と団派は密接な関係にあることが多くの報道で指摘されています。だから事態収束の財政支援をしないとか、するとか。

もう予定した字数を超えてしまっています。ここまで2回の「中国はどうなっているのか」の中間まとめは、「今中国は成長の壁のなかで権力闘争が激化している」ということになります。そして成長を犠牲にしてまで権力闘争に勝利しても、その習近平1強体制は何によって支えられるのか、国内的にも国際的にも孤立するのではないだろうか。それは世界経済にとっても大きなリスクであるに違いない、というところでしょうか。

それでも中国共産党中枢にとって最大の脅威は、派閥でもなくアメリアによる包囲網でもなく、あるいはそれと並んで、やはり国内の不満なのだと思っています。次回は(他に大きな出来事が起こらなければ)、その国内不満に対応するスローガンとしての「共同富裕」とは何なのかについて、勉強したことを書きたいと思っています。

日誌資料

  1. 09/20

    ・働く高齢者4人に1人 65歳以上、最多の3640万人(総人口の29.1%)
  2. 09/21

    ・世界株安、リスク回避広がる 恒大不安が波及 NY株一時600ドル超安 <1>
    日経平均、3万円割れ
    ・中国のTPP加盟申請 マレーシアが支持 貿易拡大に期待 日豪とは温度差
    ・「ユニバーサル・スタジオ北京」開業 中国、景気浮揚に期待
    世界で5カ所目 大阪のUSJの2倍以上の大きさ 中国当局と米企業の共存共栄の構図
    ・世界で干ばつ相次ぐ 米やブラジル、収穫や物流に打撃 食糧供給のリスクに
    ・ロシア下院選 与党勝利 議席3分の2維持確実 プーチン氏、5選へ基盤固め
  3. 09/22

    ・恒大処理が占う「習経済」 金融危機回避 富裕層にたたき 政策バランス苦慮
    ・国連総会 習氏「海外の石炭火力新設中止」表明 気候変動で協調姿勢 <2>
    バイデン氏「米中新冷戦、志向せず」 米中、衝突回避へ駆け引き
  4. 09/23

    ・台湾、TPP加盟申請 加盟国に対中の踏み絵 中国の反発必至 <3>
    ・東南ア財政悪化 通貨安のリスク コロナで追加対策、緩む規律
  5. 09/24

    ・パウエルFRB議長 緩和縮小11月にも、利上げ来年視野 <4> <5>
    米、危うさ残す政策転換 インフレ・景気減速懸念
    ・米仏、関係修復へ一歩 首脳電話協議 仏大使の帰任決定
    ・ベトナム 中国TPP加盟支持か 「経済・情報共有の用意」 最大の貿易相手国
    ・中国恒大、債務不履行は一旦回避 不動産に「共同富裕」の重圧 第2の恒大恐れも
  6. 09/25

    ・中国、仮想通貨を全面禁止 人民銀「海外取引も違法」
    ・新興国、高まる債務リスク 米欧金利、「正常化」にらみ上昇 ドル高進行負担重く
    ・EU、アップルに圧力強化 充電器の端子統一法案 新たな火種に
    ・英仏首脳が電話協議 マクロン氏、協力構築「提案待つ」
    ・対中経済制裁。揺れる米政権 産業界、バイデン氏に不満
  7. 09/26

    ・対中国、インド引き込む 日米豪印対面首脳会議(24日、ホワイトハウス)<6>
    経済安保を軸に 米、問われる求心力
    ・米欧景気、急回復に陰り 経済正常化、遠のく楽観論
    鈍る需要 供給制約 物価高
    ・ファーウェイ副会長解放 中国に帰国 米、対ファーウェイ強硬姿勢は崩さず
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